開発状況
Side・ルディア
工芸殿に籠って2日。
そろそろ夕方になるけど、あたし達は工芸殿でMARSの開発に勤しんでいる。
昨日からずっと作業してるけど、そんなに時間経ってるなんて全然気が付かなかったな。
ご飯なんて、ミーナと姉さんが呼びに来てくれなかったら、絶対に食べそびれてたもん。
いや、念動魔法で無理矢理食堂まで連行されるから、食べそびれる事はないんだけどさ。
「大和さん、ルディアさん。そちらはどんな感じですか?」
「魔法付与は上手くいったが、何か足りない感じだな」
「だね。幻影の動きは良くなってるんだけど、何かが足りない気がする」
あたしが魔法を融合させて大和が付与させた魔石は、試作よりちゃんと魔物の動きを再現してくれているし、動きも良くなってるんだけど、何かが足りないんだよね。
「何かが、ですか?」
「私達も見てもいい?」
「お願いします」
うん、確かにフラムと真子にも見てもらった方が良いね。
そう言って大和がセットした魔石は、ゴブリンの魔石。
ゴブリンは亜人の中じゃ一番小型だし、ランクも低いから、様子を見るには一番適してるんだ。
「普通に動いてるわね」
「そうですね。ですがこれだと、何をしたいのか分からなくないですか?」
「そうなんだよなぁ」
「というか、好き勝手に動いてる感じだから、戦闘訓練には向かないんじゃない?」
「あ」
真子の何気ない一言で、あたしは何が足りないのか分かった。
そうだよ、戦闘訓練に使うって事は、襲ってくるぐらいの勢いを見せてもらわないといけないんだよ。
なのにこの幻影のゴブリンは、普通にそこら辺を歩いてるだけ。
生態調査だって、魔物の攻撃方法とか使ってくる魔法とかの調査もあるんだから、これじゃ調べられないよ。
「こっちはこれで良いんだよ。ベルトの方で敵と認識されるように細工すればいいんだからな」
「え?それじゃあ大和君が足りないって思ってるのは何なの?」
驚いた事に、大和はあたしとは別のものが足りないって思ってたみたい。
だけどそれが何なのかって聞かれると、大和にも答えられない感じがする。
「もどかしいんだけど、上手く言葉に出来ないんですよ」
「あるわよね、そういう事って」
「そうですね。でも幻影はしっかりと出てますから、こっちは成功ですか?」
「一応だな。ベルトとバイザーが完成するまでは、これ以上は手を加えにくいし」
あたしと大和が担当してるのは、魔石を使って幻影を作り出す魔導具だから、大和の言う通り成功って事になる。
戦闘訓練をするなら幻影に攻撃を加えたり、幻影からの攻撃を反映できるようにしなきゃいけないから、それが出来るベルトとバイザーの開発は絶対に必要。
そっちは真子とフラムがやってくれてるけど、どんな感じなんだろう?
「真子さん、バイザーの方はどんな感じですか?」
「なかなか難しいわね。不純物を取り除けば透明になるのは分かったんだけど、さすがに無色透明だと使いにくいだろうし、素材によっては混ざってる物が微妙に異なってたりするから、今は色々と試してるところよ」
真子は今、不純物を完全に取り除いた樹脂に、色々な物を添加させているみたい。
だけど配合比はもちろん、添加させる物質も限りなくあるから、どんな組み合わせが良いのかを試すのが精一杯だって口にした。
そりゃそうだと思うよ。
「聞くだけで頭痛くなってくるな。ちなみに今は、使えそうな感じの配合比はあったりするんですか?」
「一応いくつかはね。はい」
真子が差し出してきた樹脂は、薄い黄色と薄い青、薄い緑の物だった。
確かに反対側は透けて見えてるね。
「良いじゃないですか」
「悪くは無いと思うけど、透明度は落ちてるのよ。ちなみにこれが、完全に不純物を取り除いた樹脂よ」
そう言って出してきた樹脂は、本当に無色透明で、色付きの樹脂よりはっきりと反対側が見えた。
と言うより、樹脂があるのが分かりにくい。
「凄いですね。でもここまで透明だと、確かに色が付いていないと使いにくそうだ」
「そうなのよ。でもこの3つは、明るい所ならともかく、暗い場所だと結構視界が悪くなるの。黄色はまだマシだけど、青とか緑とかになるとね」
「ああ、暗闇でグラサン掛けてるようなもんか」
「それが近いわね」
大和と真子は分かり合ってるけど、あたしやフラムには何のことかさっぱり分からない。
多分地球にある物だと思うけど、2人だけで分かり合わないでよ。
「そのグラサン、ですか?それってどういった物なんですか?」
「正確にはサングラスっていって、太陽の光を抑えてくれる色付き眼鏡よ」
色の付いた眼鏡なんてのがあるんだ。
でも真子が作った樹脂は色付きとはいえ、反対が透けて見えてるから、確かにそういった眼鏡があってもいいかもしれない。
それに太陽の光を抑えてくれるんなら、ハンターとかだって使うんじゃないかな?
「それはおいおい考えるが、今はバイザーの方に集中だな」
「そうね。色に関しては、もう少し薄く出来るように頑張ってみるわ」
「お願いします」
それでも試作は作りたいから、大和は真子から薄黄色の樹脂を受け取っている。
「フラム、ベルトはどうだ?」
「こんな感じでどうですか?」
続いてフラムが出したのは、ベルトというより腰巻って感じの布だった。
ちゃんとバックルが付いてるけど、思い切ったデザインにしたなぁ。
「随分とヒラヒラしてるけど、なんでこんな感じになったんだ?」
「普通のベルトだと、全身を覆うようなフィールドが作れなかったんです。ガントレットなら攻撃にも防御にも対応しやすいですけど、ベルトだとどうしても全身を覆うようなフィールドを作るしかないと思ったので」
そういう事なのか。
元々大和がガントレットを作っていた理由は、左右の腕に装着させる事で幻影への攻撃と防御に使う魔力の力場を発生させやすくするため。
魔物の攻撃は避けるのが基本だけど、やむにやまれず受け止める事もあって、その場合に使うのは武器や盾で、それらは当然腕で持っている。
だから腕に装着すれば、低ランクモンスターの魔石でも使えるんじゃないかって考えたんだ。
だけどあたしみたいな武闘士は、腕だけじゃなく足も使う。
しかも今は闘器にも刃が生えてたりするから、大和が開発したガントレットを装備出来ないっていう問題が発覚してるんだ。
ガントレットは
それを踏まえてベルトっていう案が出たから、フラムが頑張って仕立ててたんだけど、ベルトだとガントレットみたいに
だけどその甲斐あって、全身を覆う魔力場を展開出来るようになったそうだよ。
「また凄い物を作ったわね」
「大変でした。ただ帝絹はそんなに量がありませんから、王絹か光絹でも使えるように研究しないといけません」
そっちもそっちで問題があったか。
確かに帝絹は量が無いから、量産品を仕立てるには全然足りない。
王絹なら何とかならなくもないけど、可能なら光絹の方が良いか。
上絹とかだとエンシェントクラスが使えなくなるから、残念だけど考慮外だね。
「光絹か。確かにグランシルク・クロウラーはクラテル迷宮に生息してるから、行くのは手間だが量は揃えやすいか」
「とはいえ本当に光絹が使えるかは、これからの研究次第なんでしょう?」
「そうですね。表面積を増やさないといけない可能性もありますから、その場合はベルトではなく、オーバーコートにしないといけないかもしれませんけど」
あ、なんかガントレットやベルトよりも、オーバーコートの方が良いかも。
鎧とかの上からでも着られるなら武闘士でも問題なく使えるし、体へのダメージも再現しやすいんじゃないかな?
「そっちの方が良さそうね。大和君はどう思う?」
「出来るだけコンパクトにしようと思ってたけど、確かにそっちの方が良いな。ただ動きの邪魔になるかもしれないから、デザインはしっかりと考える必要があるか」
裾は短くてもいいだろうね。
あと袖は短くするか、いっそのこと無くても良いかも。
というか、オーバーコートにするのは良いんだけど、
「ねえ大和。
「いや、さすがに分からないな。
まあ、そうだよね。
それに
「興味はあるけどね。一番多くオリハルコン・パペットが倒されたのって、確かエニグマ迷宮だっけ?」
「そんな話ですね。だからエニグマ島には、
うん、あたしもそう聞いてる。
エニグマ迷宮は未攻略の
パペットは基本Cランクモンスターだけど、オリハルコン・パペットは
エニグマ迷宮第11階層はBランクとCランクモンスターしか出て来ないそうだけど、オリハルコン・パペットだけは例外になるんだったかな。
ただエニグマ島は終焉種ニーズヘッグの巣になってるから、そこだけは調査が出来ていない。
だからこそエニグマ島には、
「エニグマ迷宮第11階層か。低階層は低ランクモンスターしか出て来ないから、入るハンターも多くはないんだっけ?」
「ええ。第3階層まではTランクモンスターしか出ないし、Iランクモンスターも第10階層までは普通に出てくるから、本格的に稼ごうと思ったら12階層まで行かないといけなかったはず。その第12階層も、Cランクモンスターの方が多かったはずですね」
エニグマ迷宮の調査が進んでない理由は、現在判明している第16階層でもCランクモンスターが出てくる事が一因になっている。
階層はそこまで広くないそうだけど、Bランクモンスターは第11階層にならないと出て来ないし、今の所最深層になってる第16階層でやっとSランクモンスターが生息してるそうなんだ。
それに広くないとは言っても、第16階層まで行くのに最低でも1週間は掛かるから、準備にかかる費用も必要になるし、なのに赤字になる可能性の方が高いから、高ランクハンター程エニグマ迷宮には足を運ばなくなる。
こっちの理由の方が大きいかな。
だから今エニグマ迷宮に入ってるハンターは、Cランクハンターがほとんどらしいよ。
「確かグリシナ陛下が、ランサーを調査に送り込もうとしてたんじゃなかったかな?獣騎士団とリベルター軍の一部を吸収した事で、戦力的にも余裕が出来たって聞いてるし」
「話を聞く限りじゃ、急にモンスターズランクが跳ね上がる事もないだろうし、ランサーの戦闘訓練にもなるから、それはアリかもね。それはそれとして、みんなキリも良さそうだし、ご飯に行かない?」
「え?もうそんな時間?」
真子に言われるまで気が付かなかったけど、もうご飯の時間になってた。
ということは、そろそろミーナかアテナが呼びに来ちゃうか。
いつも迷惑掛けてるし、今日はみんな作業がひと段落してるから、素直に本殿の食堂に行くべきだよね。
「じゃあ食堂に行くか」
「そうだね」
その前に、ちゃんと片付けないと。
工芸殿を使うのはあたし達だけじゃないし、使ったら後片付けをするのは当然だもんね。
明日はフロートで
フラムと真子は今日の作業を続けれるけど、あたしはどうしよっかな?
フラムか真子の手伝いをしてもいいんだけど、マイライトの様子を見に行っても良いかもしれない。
後で姉さんやプリムにも聞いてみよう。
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