儀式魔法
リディア、ルディアと結婚してから3日。
俺は変わらずにフィール、メモリア、フロート、デセオに足を運んでいて、今日はプラダ村の方に顔を出してみた。
湖底の整地は終わって、今は埠頭や桟橋なんかを作ってる最中なんだが、魔法があるから仕事が早い早い。
しかも恐ろしい事に、フロートの北にある岩山から切り出した石は20メートル四方はありそうなデカさだから、それを少し加工して並べて置くだけで埠頭の完成という雑っぷりだ。
いや、ちゃんと湖底に埋めて固定してあるから、雑のように見えて丁寧に仕上げてるんだが。
地球じゃ運搬の関係もあってそんなデカい石材は存在しないんだが、ヘリオスオーブには空間収納魔法が存在し、魔導具としても製作されている。
さらに持ち運びも、数人がかりで念動魔法を使えば、魔力は消耗するが時間を掛けずに動かす事が出来るから、大きな建造物を作る際は普通に使われていたりもするな。
今回はミーナの念動魔法で石材を設置したそうだから、とんでもなく楽な仕事だったらしいが。
「たった1ヶ月ちょっとで、もう港っぽくなってきてるんだな」
「まだ埠頭になる石材の固定が終わっただけですから、実際に港になるのはもう少し先ですけども」
湖底での作業があったから、これでも通常より若干遅れてるって言われてるんだよな。
それでも地球と比べたら、とんでもなく早いと思うぞ。
いや、エスメラルダ天爵邸やユニオン・ハウスの事もあるから、建築速度が早いのは分かってたんだが。
「形になってるだけでも凄いわよ。そういえば魔物の侵入を防ぐ結界って、いつ用意するの?」
真子さんも地球より早く工事が進んでる事に驚いているが、同時に魔物侵入防止結界についても言及してきた。
それは俺も気になってる所だな。
「現在お兄様の承諾待ちですから、認可が下りればすぐに行ってもらう予定です」
「確か
「はい。
それは俺も知らなかったな。
対アンデッド用の結界とか野営時に小さな虫を寄せ付けなかったりするような物は特に許可もなく使えるんだが、街を覆う魔物侵入防止結界みたいなのは、許可が下りなければ使用そのものが出来ない。
自由に使えたりすれば、山賊とかスパイとかが山とか森の中とかに勝手に拠点を作ったりも出来る訳だから、これは当然の話だ。
許可を出すのは君主やグランド・マスターだが、魔物侵入防止結界は国に関係する話でもあるから、必ずグランド・マスターが対応出来るとは限らない。
だからヘッド・マスターがグランド・マスターの代理として、認可を与える事が出来るようになっている。
そのために国の首都には、必ずヘッド・マスターが在籍している訳だ。
バリエンテやリベルター方面の新国家も、既に新任のヘッド・マスターが着任しているぞ。
「って事は、数日中には
「はい。それに結界が施せれば、水中での作業も安全に行えるようになりますから、護衛の数を減らせます」
だから港の工事現場も十分範囲に入っていて、異常種ですら入って来れないようになるんだが、何で今まで使われる事がなかったのか、それには理由がある。
1つはプラダ村の規模、1つは触媒となる魔石、そしてもう1つは費用の問題だ。
プロテクト・フィールディングは、フィリアス大陸最大の都市であるフロートでさえ余裕をもって覆う規模があるばかりか、拡張の余地すら残されている。
だから大きな街や都市にはプロテクト・フィールディングが施されているんだが、小さな町や村には施されていない。
理由としてプロテクト・フィールディングの効果範囲は、最低でも直径10キロだからだ。
大は小を兼ねるとはいえ、小さな村では狩りにも支障をきたす広さになるし、位置関係によっては拡張が望めない事もあり得るから、ある程度の大きさの街にならない限りはプロテクト・フィールディングを使っても意味がないんだそうだ。
あと小さな村だと、盗賊とか他国のスパイが乗っ取る事もあるから、そういった意味でも出来ないか。
2つ目と3つ目は似通った問題だな。
魔石は、最低でもPランクモンスターの物でなければならず、ランクが高ければ高い程良いんだが、そんな高ランクモンスターの魔石は神金貨での取引が当たり前だった。
今は白金貨数枚程度にまで落ちてきてるし、俺達は自分で調達も可能だが、普通なら用意するのは大変だ。
さらに
今回はグランド・オーダーズマスターとグランド・プリスターズマスターが来るって聞いてるから、これも神金貨が飛ぶのは確定だな。
さらに王家にも、申請手数料って事でいくらか支払いがあるそうだから、小さな町や村だと費用の捻出が出来ないっていう理由も大きいかもしれない。
別に一括払いじゃなく、分割でもいいらしいけどな。
「なんでプラダ村に結界が無いのかと思ってたけど、そういう事だったのね」
「実際、去年の夏にレティセンシアが、森の奥の天然の結界をアジトにしてたからな。もしプラダ村にも結界があったら、狙われてた可能性は高かったと思う」
そういった事態を避けるために、オーダーズギルドは必ず人員を派遣しているんだが、それでも絶対とは言えない。
去年の夏は魔化結晶で進化させられた異常種がうろついてた事もあって、増員どころか交代要員すらロクに送れなかったからな。
「天然の結界か。強度的にはそっちの方が上だけど、起点が複数あるから壊されやすいんだっけ?」
「らしいですね。その起点も偶発的に出来るもんで、動かしたりすると効果が無くなるのはもちろん、いつの間にか起点としての役目も果たさなくなることもあるらしいです」
プロテクト・フィールディングは天然の結界が元になっているが、天然の結界は場合によっては災害種の侵入すら阻む強度を持っている。
ただし複数の起点がなければ結界を維持出来ず、縮小したり消えたりする事も珍しくないし、魔物にとっては目障りな存在でもあるから、破壊される事もよくある。
対してプロテクト・フィールディングは、災害種の侵入こそ防げないが、起点は触媒となる魔石のみで、その魔石を中心に球状で展開されるから、魔物に壊される可能性は低い。
設置後は動かせないが、異常種の侵入は阻める強度の結界だから、余程の事がなければ触媒となった魔石が破壊される事は無いし、当たり前の話だが魔石の破壊は重罪で、理由の如何に関わらずに一族全てが死罪と定められている。
ただフィールやプラダ村の場合、不安要素があるんだよな。
プロテクト・フィールディングは災害種の侵入を阻めないが、その災害種オーク・キングとオーク・クイーンは、マイライトに複数生息していると考えられている。
今の所マイライトを下りてきてはいないが、絶対に下りてこない訳じゃないから、オーダーズギルドのみならずハンターズギルドも常に警戒しているし、調査も行われている。
俺達も何度か調査に行って倒しているが、行く度に倒してるから、マジでどれだけいるのか見当がつかねえ。
だからって訳じゃないが、フィールのオーダーは戦闘訓練と銘打ったパワーレベリングを行った結果、半数近くがハイオーダーに進化出来ているし、オーダーズマスター イリスさんはレベル60になってるぞ。
そんなわけでそれから2日後、
護衛としてホーリナーもいるが、なんかプリスターの数が多くないか?
「港が完成した暁にはプリスターズギルドも必要になるでしょうから、その下見も兼ねているのです」
とイデア様に説明されたが、確かにその通りだ。
というかプリスターズギルドに限らず他のギルド、特にトレーダーズギルドは必要になるな。
「イデア様、よろしいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「村長がご挨拶に見えておられます」
「分かりました」
村長さんも来たのか。
まあプラダ村の大開発なんだから、当然っちゃ当然の話か。
「お初にお目にかかります、グランド・プリスターズマスター。プラダ村村長ラズラと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。グランド・プリスターズマスター、イデア・リプセットです。本日はよろしくお願い致します」
ラズラ村長はすげえ緊張してるっぽいが、プラダ村で普通に生活してる分にはグランド・プリスターズマスターと話す機会なんてないから、ある意味じゃ仕方ないか。
「ラズラ村長、結界石を安置する場所は用意出来ているのですか?」
「はい。村の中央に、簡素ですが祠を作りました。いずれは代官屋敷を建てられるよう、敷地も確保してあります」
プラダ村はラズラ村長が代官として治めているが、港が完成すれば人の出入りは多くなり、規模も村から町になるだろう。
村は代々村長が治めているが、町となると貴族が派遣される事になる。
代官となる貴族は男爵だから、ラズラさんに男爵位を与えるのが手っ取り早い。
だが男爵とはいえ立派な貴族になるから、簡単に数を増やす事は出来ないと聞いている。
簡単に貴族になった俺が言うのもなんだが、ただ村を治めてただけじゃ功績としてはまるで足りないそうだ。
それはラズラ村長も理解してるから、いずれ派遣されるであろう代官の屋敷予定地に結界石を安置する祠を用意している。
ちなみにフィールの結界石は王家の別邸に安置されてたんだが、フィールがエスメラルダ天爵領になった事で、その別邸は移築された。
エスメラルダ天爵邸は、その跡地に建てられている。
「ありがとうございます。それでは早速参りましょう」
「お願い致します」
ラズラ村長に案内されて、俺達は結界石を安置する祠の前に移動した。
代官屋敷予定地だけあって、かなり広い敷地を用意しているんだな。
区画整理とは違うが、いくつかの家を移築させたらしい。
「それでは始めましょう。グランド・オーダーズマスター、準備はよろしいですか?」
「はい。私には初の事ですから、少々緊張していますが」
「滅多に行うものではありませんからね」
そういやレックスさんはグランド・オーダーズマスターに就任したばかりだから、プロテクト・フィールディングを使うのは初めてになるのか。
簡単な
「それではグランド・オーダーズマスター」
イデア様が祠に納められた魔石を確認すると、レックスさんに声を掛けた。
「はい。『人・守・堅・界』」
「『聖・護・法・神』」
「『流・華・陸・里』」
「『波・硬・人・神』」
おお、魔石に手を当てて、交互に祝詞みたいなものを唱えていくのか。
なんかかっこいいな。
「「『プロテクト・フィールディング』」」
祝詞が終わると、レックスさんとイデア様が同時に魔法名を唱えた。
すると魔石から魔力が球状に広がり、プラダ村のみならずナダル海やベール湖にも結界が展開されたのが分かる。
立地の問題から効果範囲は最小の直径10キロなんだが、作業場のみならず森の一部も含まれているみたいだな。
「終了です。お疲れ様でした、グランド・オーダーズマスター」
「ありがとうございます、イデア様」
無事にプロテクト・フィールディングが完成した事で、レックスさんとイデア様が互いを労う。
初めて見たが、思ってたよりあっさりだったな。
祝詞を唱えながらってのは、まさに儀式って感じだったが。
「ラズラ村長、これで少しは作業も楽になると思いますが、あまり無理はなさらないで下さい」
「ありがとうございます」
プラダ村に限らず、結界のない町や村は、夜間はハンター登録をしている者や派遣されたオーダーが夜番に立って、魔物を警戒していたそうだ。
だけどプラダ村は結界で覆われたから、四六時中魔物を警戒する必要は無くなった。
港予定地もしっかりと結界内に入ってるから、工事中も魔物を警戒する必要が少なくなったし、作業も捗るだろう。
だからって訳じゃないが、今日は俺とマナが宴会の用意をしている。
特に使う当てもないのに金は貯まる一方だから、何とか還元しようと考えた末、作業員の福利厚生とプラダ村の開発に行き着いた形だ。
プラダ村の開発はエスメラルダ天爵領の開発って事になるから、大部分はユーリの公金で賄ってるし、俺とマナは領地を下賜された時に備えて貯めておけとも言われてるんだが、それはそれだ。
俺の場合はMARSの開発に金を掛けてもいるんだが、素材は自分で狩ってきたのを使ってるから、言う程使ってないんだよな。
MARSと言えば、メモリアに総合学校が建設される事も決まったから、早めに何とか使えるようにしなきゃだな。
明日は休みだから、頑張って考えるとしよう。
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