王の称号
バリエンテの中央府セントロでギムノス陛下との会食を終えてアルカに帰って来た俺達は、最初にフィーナ達にロリエ村の事を伝えた。
故郷の村だが、フィーナが身請奴隷となった事で村八分にされていて、フィアナとレイナは冷遇されて育ったんだから、ロリエ村がどうなったのかは伝える義務がある。
「そうですか」
「ふーん」
だけど伝えたら、フィーナとレイナからはあっさりとした答えが返ってきた。
「友達がどうなるかが心配ですけど、他の人達は特には」
フィアナでさえ、友達だった子供を少し心配してる程度で、ロリエ村が無くなった事については特に何も感じてないようだ。
「そんな事より明日って、また天樹城に行くんですよね?」
フィーナにとって、本当にロリエ村の事はどうでもいい事になってるな。
ロリエ村もそれだけの事をしてたんだし、俺達だって命を狙われたんだから、気持ちは分かるが。
「ええ。独立予定のバリエンテ方面5国、リベルター方面8国の国名と王の称号を決めないといけないから」
「大変な話だよな。それぞれが勝手に国名を決めて王を名乗ればいいと思ってたんだが、それじゃマズいんだろう?」
「そうらしい。国名も王の号も、天帝からの下賜って事にして、主従関係をはっきりさせようって事らしい」
マナが行きたくなさそうな顔をしてるが、俺もまったく同じ気持ちだ。
だけど理由が理由だから行かない訳にもいかないし、エドが言うように勝手に国名とかを名乗られると問題になるから、アミスターが考えなきゃいけないんだよ。
ラインハルト陛下としては好きに名乗ってもらいたいと思ってたんだが、各国の代表から止められちまったからな。
「面倒な話だね。だからって、あたし達まで行かなくてもいいと思うんだけど?」
「道連れだ。俺達だって行きたくないんだからな」
「本音が漏れたね」
本当に面倒そうな声を上げるマリーナに、思わず本音が漏れてしまった。
「というか、俺達に国とか王様の名前を考えろなんて、無茶にも程がある話じゃないか?」
「だよね。まあ、あたし達は護衛っていう名目が使えるから、それで逃げようよ」
「だな」
卑怯な事を抜かすのは、昨夜から日ノ本屋敷の副殿 白鷺殿に住み始めたルーカスとライラだ。
結婚はまだらしいが、2人ともAランクオーダーに昇格してるから家名を名乗る事が出来るようになっていて、結婚と同時に名乗り出す事にしたらしい。
「誰がそんな事認めるか。そもそも俺達に、護衛が必要だとでも思ってんのか?」
「露ほども思ってないよ。でもだからって護衛がいらないなんて、そんなワケないじゃん」
「陛下もエンシェントクラス進化されたが、護衛は必ずつくからな」
こいつらも強制的に参加させてやろうと思っていたら、隙のない切り返しをされてしまった。
確かに陛下もエンシェントエルフに進化したが、護衛として必ずロイヤル・オーダーがついてくる。
陛下の方が強いし、少々の攻撃どころか毒も効かないんだが、一国の王が護衛も無しに出歩くのは問題でしかないからな。
ハンター活動の時は例外だが。
「だからといって、あなた達が参加しなくてもいい理由にはならないわよ?」
「絶対に参加させるからね?」
「勘弁してよ!」
プリムとルディアも、絶対に2人を参加させようとしてるな。
その調子でどんどん追い込んでくれ。
「そういえばルーカス君もライラも、フィールに住んでるんだっけ?」
「そだよ」
真子さんはこの2人とは接点が少なかったが、それでも行軍中に仲良くなっている。
だけど2人がどこに住んでるかとか、そこは知らなかったのか。
「俺の実家はトレーダーで、姉さんも魔銀亭に嫁いでるから、そこそこ優良ってとこか」
「あたしんとこはクラフターだけど、こっちもそこそこかなぁ。なかなかランクが上がらないらしいけど、大和達が大量に魔物を狩ってくるから、それで満足してたし」
ルーカスの実家は、フィールにある農園の管理人をしている。
サブ・オーダーズマスターのイリスさんとバトラーズマスターのオルキスさんの旦那さんの同僚だが、管理してる畑が違うらしい。
ライラの実家は服飾店だったりするから、俺達も何度もお世話になったな。
裁縫師としての腕は確かなんだが、ハイクラスに進化してないから魔力の問題があって、Gランククラフターのままで活動してるそうだ。
服飾店を経営してるのはライラのお父さんで、そのためにトレーダー登録もしたって言ってたな。
「Gランクって事は一流って事でしょ?それにライラのとこのお店は、私達だってよく使ってるわよ?」
「うん、知ってるよ。お父さんが喜んでたからね」
普段着や下着は、だいたいライラの実家で買ってたからな。
フィールはそんなに大きな町じゃないから服飾店は3つぐらいしかないが、防具なんかも扱ってるから、利用するハンターも多い。
店の裏手にはライラのお母さん達が使ってる工房があって、クラフターズギルドやトレーダーズギルドからの仕入れだけじゃなく、自前の服も仕立てて売ってるから、人気の高い店だ。
「なのにライラはオーダーになって戦争にも参加して、ハイハーピーどころか
「うっさいな。全部大和のせいじゃん」
「なんで俺だよ?」
褒めたつもりだったが、ライラにとってはそう感じなかったみたいだ。
だけどなんで、俺のせいになってんのか、そこんとこは問い詰めたい。
「いや、そりゃそうだろ。俺達がハイクラスに進化出来たのって、お前の訓練があったからだぞ?戦争だって、確かに志願はしたが、フィール支部のオーダーって事でお前らと一緒に行動する事が多かったからな」
「
言いたい事は色々あるが、大筋じゃ間違ってない、のか?
いや、そこは俺じゃなく、ウイング・クレストって事にしてくれないか?
「そのウイング・クレストのリーダーは、お前だろ?」
だから俺のせいってか、ふざけんな。
「気持ちは分かりますけどね」
「だよね」
そう心の中で毒づいてたら、リディアとルディアにも同意されてしまい、さらに他のみんなも大きく首を縦に振りやがった。
俺の味方はいないのか?
おのれ、こうなったら絶対、明日はルーカスとライラも巻き込んでやる。
Side・マナ
一夜明けて、私達は全員で天樹城に向かった。
お兄様から、新たに建国されるバリエンテ方面5ヶ国とリベルター方面8ヶ国の国名と、王の称号を考えるのを手伝ってほしいと言われたからだけど、そんな事は私達に頼らず、お兄様達だけで考えてほしかったわ。
「済まないな。出来る事なら、次の
次回の
その次はいつになるか未定だけど、お兄様の戴冠式が4月の中頃という事を考えれば、国名が決まってから建国までは1ヶ月程しかないから、準備期間が足りないか。
アミスターは今までとあまり変わらないけど、他の国は大きく変わる事になるから、国名を考える余裕があるならそっちを優先したいって事ね。
「そういう事ですか。でしたら仕方ありませんね」
「だなぁ」
事情は分かったけど、簡単じゃないわね。
「リベルター方面の8ヶ国は橋上都市の名を国名にすれば良いと思うんですけど、バリエンテ方面の5ヶ国は悩ましいですね」
「そうね。王爵領がそれぞれ独立するなら以前の国名を使えば良いんだけど、今回独立する王爵領は西のオヴェストと北のロッドピースのみで、南はギムノス陛下のバジリウス家が、残った中央は2つの公爵家が治める予定だから、領都の名前を国名とするワケには行かない。特にトライアルは放棄されるし、フライハイトも名を変える事が決まってるから、尚更だわ」
「いや、リベルター方面も放棄する橋上都市がある以上、迂闊に橋上都市の名を国名に使うことは難しい」
「あ、そっか。半分以上の橋上都市が、放棄されるんでしたっけ」
そういえばそうだったわ。
放棄される橋上都市は橋ごと落とす事になるらしいけど、橋上都市は周辺の小さな町、村も統治しているから、国境もまだ仮でしか決まっていない。
都市を治める代表にしても、単純に今までの倍以上の広さの領地を治めなきゃいけない事になるから、今は8ヶ国だけど、将来的にはあと2ヶ国か3ヶ国増やしたいとも言われている。
橋上都市は全てグランデ大河という巨大な河川に架かってるから、交通という面から考えても橋は必須だし、その上に都市があれば、交易という面でも有利に働く。
「となると候補も含めて、20近い国名を考えろって事ね」
「すまないが頼む」
私達の考えた国名がそのまま採用されるワケじゃないけど、アミスターだって簡単に出来る問題じゃないから、何ヶ国かの国名に採用される可能性は高い。
しっかりと考えなきゃいけないし、責任重大だわ。
「私としては、バリエンテ方面とリベルター方面では、王の称号は統一すべきだと思っている。できればかつての国を思い起こさせるような、そんな形が望ましい」
また難しい注文をしてくるわね。
確かに私もそうした方が良いとは思うけど、国名はともかく統一された王の称号なんて、簡単には思い浮かばないわよ。
「リヒトシュテルンは、大公のままで良いんじゃない?地球にも大公国ってあるし」
「ああ、確かルクセンブルクでしたっけ?」
「そうよ」
そういえばリベルター連邦成立前は、確かリヒトシュテルン大公国っていう国名だったわね。
他の国の王家は無くなったけど、確かリヒトシュテルンのみ大公が治めていたし、リベルター連邦建国に多大な貢献をしたから、外交を担う家系として残ったはずだわ。
「確かにそうだな。それにリヒトシュテルンは、先の戦争でも情報の提供や他の橋上都市への兵力の派遣も行ってくれていた。それを鑑みれば、他の橋上都市国家とは多少の違いを出しても良いだろう」
戦争での貢献のみならず、かつての大公国の復活という意味でも、リヒトシュテルンはそれで良さそうね。
問題は、リヒトシュテルンのすぐ西にある橋上都市がリヒトシュテルン領に編入される事になるから、リヒトシュテルン大公国という国名が使いにくい事か。
「首都が国名になるってだけですし、そこは気にしなくても良いんじゃないですか?」
「昔の小国もそうだったし、確かにその通りか」
だけど真子は気にする必要はないって考えてるし、お兄様もその意見に賛成している。
確かに昔の小国は、国名と首都名が一緒だったし、旧リヒトシュテルン大公国もそうだった。
いずれ独立する可能性もあるんだから、首都以外の橋上都市については考慮しなくても良いっていう判断ね。
「リヒトシュテルンは大公国って事で良いとして、他はどうしましょうか?」
「すぐには思い浮かばないなぁ」
「バリエンテは獣王陛下が治めておられますから、それっぽい感じにするべきではないでしょうか?」
「かといって獣王ってのは、国の規模から考えると厳しいわね」
「かといって公王だと……アレグリアと被りますし」
「大公も同じ理由で却下ね」
「獣族の種族名をとも思いましたけど、獣族が6種族なのに対して新国家は5ヶ国ですから、それも厳しいですね」
リヒトシュテルン大公国はすんなり決まったとはいえ、リベルター方面の新国家はまだ7ヶ国あるからなのか、後回しになった感がある。
だけどバリエンテも、簡単じゃないわよ?
獣王に似た感じの称号っていうのは私も賛成だけど、なかなかいい案が出て来ないわね。
一瞬ミーナの案がベストじゃないかと思ったけど、確かに獣族の種族数と建国される国家の数を比べると、獣族の種族が1つあぶれちゃうわ。
さすがにそんなのは問題にしかならないし、良く考えてみたらバジリウス家と公爵家の1つは同じタイガリーだから、その時点でダメじゃない。
とはいえそれ以上の案は出て来ないし、全部決めるまでは相当時間が掛かりそうだわ。
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