クラフターの初仕事

 俺とフラムはクラフターズギルドのIランク昇格試験を受け、見事合格した。

 頑張って勉強していたフラムには悪いが、Iランクの昇格試験は俺にとっては小学生レベルだったから、けっこう余裕だったな。

 実際客人まれびとは、Bランクぐらいまでは数日で昇格してたらしいし、サユリ様は10日程でSランククラフターに昇格したそうだ。

 そのフラムもしっかり勉強してただけあって、Cランクへの昇格試験資格を貰っている。

 努力家のフラムも、そんなに時間掛からずにSランククラフターに昇格できるだろうな。


「やあ、Iランククラフターへの昇格、おめでとう」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 その試験が終わり、Iランクへの昇格手続きを終えた俺達は、ラベルナさんに呼び出された。

 何事かと思ったがプリム達も来てるし、フィーナがメインで話してたみたいだから、金属船についての報告と相談をしてたんだろう。

 今朝方、そんな話をしてたからな。


「フィーナから聞いたんだけど、金属を使った船を作るそうだね。客人まれびとの世界には、本当にそんなものがあるのかい?」


 ああ、やっぱりそこが疑問なのか。

 フィーナだけじゃなくエドやマリーナも、俺が刻印具で軍艦を見せるまでは疑ってたから、これは仕方ないな。


「ありますよ。俺の世界じゃ森林というか環境破壊が問題視されてるから、乗り物に木材を使うことはほとんどなくなってきてるんです」


 アルミ合金なんかも多いな。

 ヘリオスオーブにアルミはないが、魔銀ミスリルがその役割を担ってる気がする。


「なるほど、無用な森林伐採か」

「一概に無用とは言えないところが問題なんですけどね。その分植林も行われてますが、地球には天樹魔法なんてないから、伐採できるまで10年単位で時間が掛かってます」


 昔程じゃないが、今でも環境問題はニュースになってるからな。

 枯渇した資源もあるみたいだが、それが第三次世界大戦の遠因になってるって説もある。


「だから金属を、か。客人まれびとの世界も、けっこう大変みたいだね」

「けっこうどころじゃないですけどね。で、それを聞いてくるってことは、フィーナから報告があったってことですよね?」

「ああ。小型船ではあるけど、3人乗っても沈まなかったって聞いてるよ」


 鉄を薄くのばして表面積を広げると、浮力を受けやすくなる。

 だから同じ質量でも水に浮くようになるってことを説明したら、すごく納得された。

 俺の知識じゃここまでしか説明できないんだが、実際に使えてるわけだから、これだけでも十分だろう。


「なるほどね。それだけ大きな船が実用化されてるなら、こちらでも出来るだろう。フィーナも試していると聞いているが、こちらでも試作を作ってみよう」

「お願いします」


 これは正直助かる。

 フィーナが作った小舟も良い出来だったが、本職の船大工ならもっと上手く作れるって言ってたし、実際に使うのは船大工だから、試してもらわないと評価も何もないからな。


「それとフィーナ、この場合、開発者はあんたってことになるからね」

「あ、やっぱりですか?」

「小さいとはいえ、試作まで作っているんだから当然だろう。しかもメルティングとデフォルミングを使うことまで提案してくれているんだからね。数日もあれば試作は出来るだろうから、完成したらまた呼ぶよ」


 うん、確かに俺は提案したが、それしかしてないからな。

 エドもそうだったから、フィーナもそうなるだろうってことは予想できた。

 だからフィーナも、ある程度の覚悟はしてたみたいだ。


「分かりました」


 エドっていう前例があるから、フィーナも諦めがいいな。

 そんなわけで俺とフラムのクラフターズランク昇格試験、フィアナとレイナのクラフター登録、フィーナの金属船の報告と相談も終わった。

 この後はフィアナとレイナにフィールを案内する予定だが、その前にフィーナの希望でプリスターズギルドに行くことになっている。

 なんでもコネクティングじゃ、獣車本体の重量を支え切れないかもしれないらしい。

 もちろんまだ確定じゃないし、試作の試作で確認したことだから違うのかもしれないが、その疑いがあるだけでも使用には躊躇いが生じる。

 だからフィーナは、俺のアドバイスも参考にして、新しい魔法を奏上しようと考えている。

 クラフターズギルドを出た俺達は、ジェイドが引く獣車でフィアナとレイナにフィールを案内しながら、プリスターズギルドに到着した。


「では、やってみます」


 プリスターズギルドで要件を伝え、儀式の間に通されると、フィーナはすぐに魔法の女神像に祈りを捧げた。


「奏上されたわね」

「ええ。魔法名ロッキング。分類は奏上魔法デヴォートマジックね」


 新魔法は奏上魔法デヴォートマジックロッキングか。

 効果は異なる物体の固定ってあるが、名前から判断すれば施錠魔法ってことになるな。

 だけど施錠ってことなら、家とか店の鍵だけじゃなく、車体や船体に乗せた獣車本体を固定することもできるはずだ。

 元々そういった用途をメインに奏上してたはずだからな。


「良かった。私の思ってた通りの魔法が奏上できて」

「魔法を奏上するなんて、お姉ちゃん凄い!」

「ありがとう、レイナ」


 レイナだけじゃなく、フィアナも嬉しそうだな。

 それに奏上魔法デヴォートマジックに分類されたわけだから、誰でも使うことができる。

 魔導具にも組み込みやすいだろうから、家や店の鍵はロッキング付与に移行していく可能性も高い。

 自分で使ってもいいが、それだと開錠が面倒なことになりかねないしな。

 1人暮らしなら問題ないが。

 後はやっぱり、ミラー・バッグやストレージ・バッグとかにも、鍵をかけられるのが大きいか。


「そういや大和、フラム。Tランクの仕事ってどうだったの?」

「納品してあるぞ。なあ、フラム」

「はい。一度でも納品していなければ、試験資格はもらえませんから」


 ルディアの疑問に答えるが、Tランククラフターの仕事は鉄のインゴット10本かTランクモンスターのなめし革5枚だから、そんなに難しくない。

 あ、俺とフラムは鉄のインゴットの納品を選んでいるぞ。

 Tランクモンスターならすぐに狩れるが、なめし革はタンニングっていう工芸魔法クラフターズマジックを使っても数日掛かるからな。

 だからお手軽ってわけじゃないが、鉄のインゴットの方が手早く作りやすい。

 実際すぐに出来たから、俺とフラムは50本ずつ納品してたりする。


「Tランクの納品って、それでよかったのか」

「ああ。ちなみにCランクの試験資格をもらうには、鉄のインゴット20本かTランクモンスターのなめし革10枚だ」

「だからなのかは分かりませんが、Cランクの試験資格も貰えたんです」


 Tランクの時点でいくつ納品しようと、Iランクになってから納品したわけじゃないから、普通なら評価対象外だと思うけどな。

 だけど俺もフラムも、ほとんど満点で試験に合格してるし、俺はエンシェントヒューマン、フラムはハイウンディーネってことでドラゴニアンやフェアリーのクラフターより魔力は多いから、鉄のインゴットなら何十本でも作れる。

 それにハイクラフターはサユリ様を含めても10人程しかいないらしいから、試験官は早く昇格してくれって面と向かって言ってきてたな。


「ああ、大和さんもフラムさんも、そこはご存知なかったんですね」

「そこってどこですか?」


 ラベルナさんの秘書をやってただけあって、フィーナは昇格試験にも詳しい。

 だけど俺もフラムも、そこって言われてもどこのことなのかさっぱり分からんぞ。


「Bランクまでですけど、ハイクラフターは納品を免除されているんです。魔力総量が低いと言われているオーガでさえ、ハイクラスに進化するとドラゴニアンやフェアリー以上になりますから。さらに大和さんは客人まれびとでエンシェントクラスですから、クラフターズギルドとしてもどうしたものかと頭を悩ませてると思いますよ」


 マジか?

 いや、確かに納品したら受付嬢さんに驚かれた記憶はあるが、それは登録したばかりなのに数を用意したからだとばかり思ってたぞ。


「それもあると思いますよ。最初の納品なんて、登録してから1週間掛かることが普通で、それでも規定値に満たないことが珍しくないんです。なのに大和さんもフラムさんも綺麗に作られていただけじゃなく、数も高ランククラフター以上に納めているんですから、普通は驚きます」


 言外に普通じゃないって言われてる気がするが、ハイクラフターが数人しかいないっていう現状からすれば、エンシェントヒューマンとハイウンディーネは確かに普通じゃない。

 実際は一気に作ったわけじゃないが、それでも俺もフラムも、魔力には全然余裕があったからな。


「す、すごいんですね、ハイクラスって」

「レイナ、大和さんはエンシェントヒューマンだから、もっとすごいってことになるよ」


 プリムやマナ達は誰も驚いてないが、フィーナの妹達は驚いてくれている。

 この純粋な反応、なんか新鮮な気がするな。


「他人事みたいに言わないの。あなた達もクラフターになったんだから、しっかりとお仕事をしないといけないのよ?アルカに戻ったら、1つだけでもいいから鉄のインゴットを作ってみなさい」

「ええ~?」

「いきなりなの?私達はどうやったらいいのかも分かってないんだよ?」

「もちろんサポートはするわよ」


 フィーナって、意外とスパルタなのかもしれない。

 クラフター登録したら、最初は教本で勉強してから作業ってことが多いらしいが、教本も読まずにいきなり作業って、さすがにキツいだろ。


「習うより慣れろよ。それにお父さんから、少しは教えてもらってるんでしょ?」

「そ、それはそうだけど……」

「で、でも村じゃ、お父さんが取ってきた素材も取り上げられちゃったから……」


 妹達の言葉にフィーナが固まった。

 ダスクさんが取ってきた素材まで取り上げてた?

 いや、それって普通に犯罪だろ。


「余罪がどんどん出てくるわね」

「だね。いくら外の人がほとんど来ない村だからって、これはひどすぎるよ」


 リディアとルディアも顔を顰めているが、マジでひどいな。

 フィーナが身請するまではそんなことはなかったって話だが、その後何があったのかが気になってくるレベルだぞ。

 さすがにフィアナとレイナに聞いても分からないだろうし、ダスクさんだって知ってるかは怪しいが。


「バリエンテの問題が片付いたら、もう一度ロリエ村に行ってくるわ。その時は身分を隠さずにね」

「あたしも行くわよ」


 うん、マナとプリムが怒り心頭で、身分を隠さずにもう一度行くとか言ってやがる。

 アミスターの王女に没落したとはいえバリエンテの公爵令嬢が出向くなんて、普通の村からしたら超大事だな。

 いや、ハイドランシア公爵家は没落っていうより、無実の罪で陥れられたって言う方が正確か。

 バリエンテとの問題がいつ解決するか分からないから、それまでロリエ村が残ってるかは知らんが。


「放っておいても、勝手に自滅するんじゃないか?村人同士の醜い姿が浮き彫りになったわけだし、その矛先だったフィーナの家族もいなくなったんだからな」

「ああ、それもあり得るか」

「それならそれで、別に構わないわよ。まああの村長は、命汚く生き足掻くだろうけど」


 それは確かに否定できないな。


「フィーナ、あなたはどうしたい?」

「私としては、別にどうでもいいです。滅んだら滅んだで、自業自得ですから」


 それに肝心のフィーナが、思いっきり無関心になっている。

 信頼してたロリエ村の人達に裏切られたんだから、そうなるのも無理もないか。

 俺としては、小さな子供ぐらいは助けてやってもいいんじゃないかと思う。

 親にあることないこと吹き込まれただけだろうし、フィーナ達姉妹と仲の良かった子達は戸惑ってたってことだからな。

 もちろん親ども、特に率先してフィーナの家族を苦しめていたであろう村長は、どうなろうと知ったことじゃないが。

 とはいえフィーナとの間にできた溝は埋められないだろうから、無責任だがロリエ村に行く機会があったら考えよう。

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