第6階層の戦い
「ごめん、大和!そっちお願い!」
「わかってる!」
第6階層を進んで2時間と少し、俺達は今、マクロナリアの群れと戦っている。
だから希少種が群れることも珍しくないらしいし、異常種が群れてる
そういう訳なんで、ブラキオサウルスの希少種マクロナリアが群れていても、不思議はないんだと。
さすがにP-Rランクのマクロナリアが10匹以上群れて襲ってくると、俺だけじゃなくプリムも援護だけってわけにはいかないから、既に俺が2匹、プリムが3匹倒している。
そのマクロナリア、プリムが援護していたラウスの横をすり抜けて、獣車目掛けて突進してきた。
俺からも少し距離があるが、獣車を中心に火性A級広域対象系術式ムスペルヘイムと光性A級広域対象系術式ヴァナヘイムの積層結界を発動させてるから、領域内のマクロナリアはいつでも仕留める準備が整っていたりする。
そのマクロナリアに向かって、俺はヴァナヘイムの光を収束させ、さらにムスペルヘイムの炎を纏わせて撃ち出した。
その熱線もどきに貫かれたマクロナリアは、20メートル以上ある巨体を地面に横たえ、永久に動かなくなったが、その巨体のせいで危うく獣車の上に倒れるところだったな。
危なかったが、とりあえずは良しとしとこう。
「良し、じゃねえよ!俺達を圧死させるつもりか!」
獣車に乗って援護の魔法を放ってたエドが、額に青筋浮かべて怒鳴りつけてくる。
悪かったって。
ともかくこれで6匹。
あと4匹か。
その4匹は、1匹はラウスとレベッカ、キャロルが、1匹はマナと召喚獣達が、1匹はミーナとフラム、ルディアが、残り1匹がリカさんとリディア、アテナ、エオスが食い止めてる。
ラウス達とミーナ達、リディア達はなんとかなりそうだが、マナは召喚獣とってこともあって、けっこう苦戦しているな。
プリムは……ああ、俺と同じ考えみたいで、マナの援護に行ってくれたか。
なら俺は、ムスペルヘイムでマクロナリアの動きを妨害しておこう。
広域対象系だし、4匹ぐらいなら問題なく対象にできるからな。
「ありがとう、大和!」
ムスペルヘイムの炎壁でマクロナリアの動きが鈍り、その隙をついてスピカに指示を出したマナは、マクロナリアから距離を取る。
そこにプリムのフレア・ニードルが幾本も突き刺さり、マクロナリアが大きくのけ反った。
「今よ、マナ!」
「ええ!」
そのタイミングで、マナが
先程のスノー・ドラグーンはマナの動きを読んだのか、首に魔力を集中させて防いでいたが、プリムのフレア・ニードルを受けた直後のマクロナリアにはそんな余裕はない。
仮にあっても、スノー・ドラグーンとマクロナリアはランクが違うし、鱗の強度も段違いだから、マクロナリアが魔力を集中させたとしても、無傷でやり過ごすことはできないだろう。
「たあああああっ!」
裂帛の気合とともに、マナがスターリング・ディバイダーを思いっきり叩きつける。
衝撃で雪が舞い、マクロナリアの姿が掻き消えてしまったが、マナは確かな手応えを感じているみたいだ。
「今度はやったわ。真っ二つとまではいかないけど、それに近い状態になってると思う」
ほう、自信満々だな。
実際、マナのその自信は過信でも慢心でもなく、雪煙が晴れるとマクロナリアの右前足は切断されていて、胴体にもやたらデカい太刀筋が刻まれていた。
右前足が斬り落とされてるとはいえ、真っ二つとはちょっと違うが、胴体も切断寸前状態だから、確かにマナの言う通りだ。
「これだけの威力があれば、Mランクモンスターにも普通に通用すると思うけど、さっきのスノー・ドラグーンは首に魔力を集中させてたから、それをどうやって貫くかが今後のマナの課題ってことね」
「簡単に言ってくれるわね。まあ、頑張るしかないんだけど」
確かにそれは課題だな。
だけどP-Rランクモンスターに普通に通用したわけだから、後は精度を上げていけばいいんじゃないだろうか。
っと、ミーナ、フラム、ルディアの方も、そろそろ決着か。
ミーナとフラムは進化したばかりとはいえ、3人ともハイクラスだし、互いの戦い方も良く理解してるから、見ていて危なげがない。
マクロナリアの攻撃をミーナがシルバリオ・シールドやシールディング、結界魔法で防ぎ、その隙をついてフラムのタイダル・ブラスターが命中。
ハイクラスに進化したことで威力が増してて、マクロナリアが10メートル程吹っ飛んだぞ。
「でやあああああっ!」
そこにルディアが、竜精魔法エーテル・バーストも使いながら突っ込んでいく。
エーテル・バーストはフィジカリングとマナリング、そして自分の種族属性の魔法を強化する魔法だ。
ルディアは火竜だから、
竜精魔法は竜族専用の
さらにハイクラスに進化したことで、使えるようになった竜精魔法があるって聞いてるな。
確かその竜精魔法も使って、
「させません!」
突っ込んできたルディアを尻尾で迎撃しようとしていたマクロナリアだが、ミーナのメイス・クエイクがそれを防いだ。
「もらったあああっ!」
そこにルディアの
ルディアのファイアリング・インパクトは、ドラグラップルに
ファイアリング・インパクトを食らったマクロナリアからミーナが距離を取ると、ルディアはジャンプし、今度は飛び蹴りを見舞う。
蹴りが命中するとマクロナリアはその衝撃でさらに吹き飛ばされ、炎も勢いを増し、同時に殴られた箇所と蹴られた箇所の炎が爆発を起こした。
その爆発は連鎖的に続き、最終的にはマクロナリアを包み込んでいる炎そのものが大きく爆ぜる。
爆炎が収まると、そこには体中が焼け焦げたマクロナリアの死体があるだけだった。
派手だし、威力も凄いんだが、あれだと素材は使えないんじゃないか?
「あ~……やっちゃったかぁ……」
ルディアもわかってるようで、バツの悪そうな顔してるな。
ルディアが使えるようになった竜精魔法はエーテル・チェインといって、先に使った魔法と同じ効果をもたらすことができる魔法らしい。
簡単に言うと、ルディアがファイア・アローとエーテル・チェインを同時に使った場合、ファイア・アローの数が増えるってことだ。
俺やプリムも同じことはできるが、俺達の場合は余りある魔力を使って強引に数を作り出してるだけだから、魔力もそれなりに消費する。
だがルディアのエーテル・チェインは効率よく数を増やしてることもあって、そんなに魔力を消費しない。
今のルディアだと、確かファイア・アロー3本分の魔力で10本はいけるって言ってたな。
まあルディアは完全な近接型だから、ファイア・アローは滅多に使わないんだが。
そのエーテル・チェインを組み込んだことで、最初に殴りつけたエーテル・バースト込みの一撃がマクロナリアの体に残り、蹴りを合図にその炎が連鎖的に爆発を起こし、最終的に巨大な爆発になったという訳だ。
今のままじゃ素材をダメにすることは間違いないから、まだまだ改良が必要だが、実戦でファイアリング・インパクトを使ったのは初めてだから、そこはおいおいってとこだな。
「実戦で使ったのは初めてなんですから、仕方ありませんよ。だけどPランクモンスターにも十分効果があったんですから、そこは喜べるところじゃありませんか?」
ミーナも慰めているが、俺もそう思う。
あの威力なら、多分終焉種にも効果はあるんじゃないかな。
これで残ってるマクロナリアは2匹だが、ラウスはラピスライト・シールドを上手く使って、攻撃を受け流しているな。
マリサさん、ヴィオラ、ユリアも加勢しているが、ラウス以外は進化してないから、牽制程度にしかなってないみたいだ。
とはいえラウスの受け流し技術も進歩してるし、プリムもそっちに行ってくれたから、滅多なことは起こらないだろう。
逆に苦戦してるのが、リカさん、リディア、アテナ、エオスの4人だ。
リカさんは戦闘経験が少なく、アテナは戦い慣れてない上に進化もしてないし、エオスも使い慣れない武器を使ってもらってるから、この3人は仕方ない所があるんだが、一番苦戦してるのはリディアだったりする。
原因はここが雪原地帯で、マクロナリアも
リディアは氷竜のドラゴニュートだから、相性が悪すぎるんだよ。
しかもマクロナリアは、別に
「あたしが加勢に行く!」
「ダメだ。魔力の消耗が激しいだろ?そんな体で無理をしたら、取り返しのつかないことになるぞ?」
「だ、だけど!」
ルディアが加勢に行くと意気込んだが、今も肩で息を切らしてるんだから、さすがに無茶が過ぎる。
「俺が援護する。それにリディアの
当然だが、リディアも
まだ完成してないが、それでもハイドラゴニュートに進化してから使えるようになった
ちなみにルディアがハイドラゴニュートに進化した際に使えるようになった
異なる属性を融合させるのが融合魔法だから、
っと、そんなことより援護だな。
俺はマクロナリアにライトニング・バンドを発動させ、動きを封じた。
さらにマクロナリアは全長20メートル近い巨体だから、どれだけ魔力を食うかわかったもんじゃないしな。
「大和さん?」
「ああ。今ならマクロナリアは動けないから、
「え?ですがあれは……」
渋ってる、っていうより躊躇ってる感じだな。
実際、制御を誤ったら周囲に被害をもたらす可能性が高いから、その気持ちも分からんでもないんだが。
「そこは俺がフォローする。それにムスペルヘイムにヴァナヘイムも展開してるから、よっぽどのことがあってもリディアの心配するようなことにはならないと思うぞ」
リディアの
「……わかりました。リカ様、アテナ、エオス、下がって!」
マクロナリアに接近していたアテナとエオスに、少し離れて援護の魔法を放っていたリカさんに下がるように声を掛けるリディア。
俺もリディアからどんな感じの
リカさん、アテナ、エオスが十分に下がったことを確認したリディアは、周囲に氷と土を混ぜ合わせた礫をいくつも作り出した。
その礫は、リディアの竜精魔法エーテル・チェインによって数を増す。
数えるのも馬鹿らしくなる数だな、これ。
「『グランダスト・ブリザード』!」
リディアが魔法名を唱えると、マクロナリアを対象に結界が展開された。
半径50メートル近い結界だが、この結界はリディアの作り出した礫を結界外に出さないためのものなので、結界内の人間や魔物は簡単に外に出られる。
いずれは結界内に対象を閉じ込めて、さらに魔法なんかで破られないような強度を持たせたいらしいが、今は俺のライトニング・バンドで拘束してるし、未完成の
リディアのグランダスト・ブリザードは、結界内に竜巻を発生させ、そこにエーテル・ブレスと無数の礫を重ねる魔法だ。
礫は氷と土を混ぜて作られてるが、硬度はリディアの魔力次第だから、どんなものかは俺にも分からない。
だけどリディアはハイドラゴニュートだから、おそらくは礫は
グランダスト・ブリザードを受けたマクロナリアは、徐々に鱗と体力を削られ、今にも倒れそうだ。
だけどグランダスト・ブリザードは、この程度のことしかできない魔法じゃない。
リディアは大きく息を吸い込み、もう一度エーテル・ブレスを吐いた。
そのフリーズ・ブレスを合図に礫が集まり、巨大な氷柱を形成する。
「かああああっ!」
その氷柱を、リディアはマクロナリアの最も傷付いている背中に向けて、エーテル・ブレスと共に放った。
マクロナリアにエーテル・ブレスは効果が薄いが、至る所の鱗がボロボロになっている状態だから、全く効果がないってわけじゃない。
しかも大きく鱗が抉られた背中に向けてブレスを吐いてるし、氷柱もいくつか放ってるから、効果がないわけがない。
氷柱が背中に突き刺さり、さらにエーテル・ブレスが命中することで、マクロナリアを体内から、流れる血液ごと氷らせる。
動くなったところを見るに、死んだかな。
グランダスト・ブリザードで鱗はもちろん、革もボロボロだから、妹のルディアが倒した個体同様使える部位は少ないが、これは仕方ないか。
「やりはしましたが、まだまだ改良が必要ですね……」
肩を落とすリディアだが、今はそんなことより、Pランクモンスターを倒せたことを喜ぶべきじゃないか?
「素材のことは気にするな。そんなことより、Pランクモンスターにも通用したことを喜べよ」
「それは……そうですね。私でもPランクモンスターに通用する魔法を作れたんですから、今日はそれを喜ぶことにします」
可愛く笑うリディアだが、疲労が見え隠れしてるな。
ミーナやフラム、ルディアもだから、後はゆっくりと休んでもらおう。
残すマクロナリアは1匹だが、そっちはどうなってる?
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