迷宮砂漠の空
第2階層でそこそこの数の魔物を狩った俺達は、第3階層に降り立った。
それはいいんだが、第3階層は最悪だ。
「凄いですね」
「ええ。見渡す限り砂の海……。これが砂漠なのね」
ミーナとマナが言ってるように、ソルプレッサ迷宮第3階層は砂漠だった。
現在時刻は3時半過ぎだから、あと2時間強で突破出来ないと、今晩はこの階層で野営という最悪の事態になってしまう。
事前に情報を仕入れてはいたとはいえ、実際にこの広大な砂海を目にすると圧倒されもするが。
「それにしても、暑いね、ここ」
「日差しを遮る物もないし、これは日が沈みかけてから移動した方が良いかもしれませんね」
ルディアとリディアなら知ってるかと思ったんだが、そんなことは無かったか。
もしかして砂漠の知識があるのって、この中じゃ俺だけなのか?
「みんな、砂漠についてどれだけ知ってる?」
「一面が砂の海で、夜になると少し冷えるぐらいでしょうか?」
「私も、ユーリ様と同じぐらいしか知りません」
ユーリとヴィオラが口を開くが、他のみんなも似たようなもんか。
「砂漠って言ったら、ソレムネのプライア砂漠ぐらいしかないものね。あとは
マナに言われて俺も気が付いたが、確かにソレムネのプライア砂漠が、ヘリオスオーブで唯一の砂漠だ。
それ以外だと
マナに至っては王都フロート近郊にあるフロート迷宮しか経験が無く、しかもフロート迷宮は全18階層で攻略済みな上に砂漠階層は無いそうだから、みんなが知らなくても無理もないってことか。
「砂漠の夜は、真冬並みに冷えるぞ。今はクソ暑いが、日が沈み始めると徐々に気温が下がっていくからな」
日中は日差しの激しさから、薄着だと火傷までするって話もあるな。
「そうなの?」
「地球の知識だけど、そんなに違いはないと思う。だから少し無理をしてでも、第4階層に降りた方が良い」
魔物もサンド・ワームやデザート・スコーピオンみたいに砂の中から襲ってくるのも多いから、危険度も今までの比じゃないからな。
それに第4階層は森って話だから、この階層よりは過ごしやすいのは間違いない。
「そういうことなら、急いだ方が良さそうね」
「はい。この獣車なら問題は無いと思いますが、それでも夜番は必要になりますから、ハンターの皆さんの負担も大きくなってしまいそうです」
それも問題だな。
セーフ・エリアに辿り着けなければ、適当なとこで野営をすることになる。
だけど当然、魔物は夜でも普通に襲い掛かってくるから、夜番は必須だ。
仮にセーフ・エリアに辿り着けたとしても、先客がいる可能性があるから、そっちを警戒する意味でも夜番は必要になる。
さすがにソルプレッサ迷宮に入ってるハンターが、この階層で野営をするようなことはないだろうが、それでも警戒はしておかなきゃだからな。
「確か第4階層への入り口は、ここから3時間ぐらい東に進んだところでしたっけ?」
「そんな話だな。だけど目印になる物が何もないから、真っすぐ進んでるつもりでも、気が付いたら微妙に方角がズレてたなんてこともあり得る」
第1階層の草原は、何だかんだ言っても目印になる物が多かったから迷わなかったが、第3階層の砂漠は、マジで目印になるもんが何も無い。
しかもタチの悪いことに、ソルプレッサ迷宮はこの第3階層が一番広いらしいから、犠牲者も多いって話だぞ。
「仕方ない、この階層は省略しましょう。エオス、暑い中悪いんだけど、飛んでもらってもいい?」
「かしこまりました」
それが最善か。
これが昼間だったら探索しても良かったんだが、日暮れが近い以上、時間を食うのは避けたいからな。
っと、グリーンドラゴニアンになったエオスにどれだけ効果があるかわからないが、これを渡しておかないと。
「エオス、急場しのぎで悪いが、これを首に巻かせてくれ。日差しや暑さを、少しは和らげてくれると思う」
「これは……スカイ・サーペントの革ですか?それに魔石?」
首を傾げるエオスだが、このスカイ・サーペントの魔石には水性E級広域系術式ウォーターと風性E級広域系術式エアー、闇性D級干渉系術式ダーク・シェードを付与させてある。
エアーは領域内の気流を、ウォーターは水を操れるが、水属性の刻印術には氷系統も含まれてるから、エアーとウォーターを同時に使うことで、簡易的な冷房としても使うことができる。
実際、現在のエアコンはエアーとウォーター、火性E級広域系術式ヒートを組み込んでいるぞ。
そしてダーク・シェードは、光を遮ることができる闇属性の術式だ。
俺は闇属性の刻印術には適正が低く、苦手としているが、C級ぐらいまでなら問題なく使える。
だからダーク・シェードも組み込むことで、エオスの意思で日差しを遮ることも可能になるはずだ。
「それは助かります。では、ありがたく使わせていただきます」
エオスに負担をかけることになるから、これぐらいは何とかしなきゃだからな。
グリーンドラゴニアンの姿になったエオスの首に、魔石を包み込んだスカイ・サーペントの革を巻き付けてっと。
巻きやすいように首を下げてくれたから助かったが、それでもドラゴンがマフラー巻いてるようにしか見えないな。
まあ今回限りだし、この階層だけ持ってくれればいいから別にいいか。
「どうだ、エオス?」
「はい、とても涼しいですし、日差しも気にならなくなりました。ありがとうございます、大和様」
エオスの巨体にどこまで効果があるかわからなかったが、問題ないみたいだな。
よし、それなら早速行こう。
「それじゃ行こう」
「かしこまりました」
全員が獣車に乗ると、エオスが獣車を抱えて飛び立った。
ここにも空を飛ぶ魔物はいるだろうから、俺は御者席で見張り役だ。
エオスは今日2度目の竜化だから無理させるわけにはいかないし、フライ・ウインドを使えばいつでも飛び出せるしな。
「Sランク辺りでしたら、私に追いつける魔物はいませんが?」
「念のためだよ。それに、エオスだけに負担をかけるわけにはいかないからな」
隣に頬っぺたを膨らませたアテナが座ってるが、エオスはマナと竜響契約を結んだから、俺の婚約者ってわけじゃない。
対してアテナは、れっきとした俺の契約者で、さらには婚約者だ。
あんまりエオスばかりに構ってないで、ちゃんとアテナともコミュニケーション取らないといけないな。
「悪い、アテナ。
「分かってる。ボクだってエオスに負担をかけたいワケじゃないんだから」
アテナも俺と竜響契約を結んでいるから、短時間の移動ぐらいならアースライトドラゴニアンの姿になっても魔力切れを起こすことはないって言われてるんだが、それでも心配なんだよな。
竜響契約はドラゴニアンと魔力を共鳴させるための儀式で、その儀式を行うことで互いの魔力を増幅させ、竜化魔法を使う際の魔力の消耗を抑えることができるらしい。
ハイエルフのマナと契約したハイドラゴニアンのエオスなら、短時間なら戦闘をしても魔力切れを起こすことはないとも聞いている。
だけどエンシェントクラスと竜響契約を結んだドラゴニアンはアテナが初らしいから、それが逆にアテナの負担になるんじゃないかとも言われていたな。
アテナがハイクラスに進化したら大丈夫だと思うが、今のままだと急性魔力変動症に罹患するかもしれないから、安易にアテナにアースライトドラゴニアンの姿になってほしくないってのもある。
「そ、そうなんだ。その、気を遣ってくれて、ありがとう……」
そう伝えたら、アテナが真っ赤になった。
自分で言っておいてなんだが、けっこう照れるもんだな、これ。
「でもどんな感じなのかは、ボクも知っておきたいんだ。だからボクも竜化してみるよ」
「分かった。だけど無理はするなよ?エオスもフォローしてくれると思うけど、それでも無理したりなんかしたら、取り返しのつかないことになるんだからな?」
「うん、わかった」
ニッコリと笑いながら返事を返してくるアテナだが、元々年より幼く見えることもあって、すげえ可愛い。
ドラゴニアンの84歳は他の種族でいえば17歳手前だから、リディアやルディアと同い年って言ってもいいんだが、ユーリと同い年って言われても納得できるな。
だけどアテナも、俺との竜響契約が完全竜化にどんな影響を及ぼすか知りたいってことだから、無理をしない範囲で試してもらうことになる。
もちろん俺も、出来る限りのフォローはするつもりだ。
「大和様、前方からデザート・ドレイクとスカイ・スコーピオンです」
ここで魔物の襲撃か。
後方とか側面とかからなら振り切れるんだろうが、さすがに前から来られたら無理だよな。
「分かった。アテナ、みんなにも伝えてくれ」
「うん。気を付けてね」
「ああ!」
アテナを獣車の中に戻し、俺はフライ・ウインドを発動させて御者席から飛び立った。
デザート・ドレイクが3匹で、スカイ・スコーピオンは5匹か。
デザート・ドレイクは砂漠に特化したドレイク種で、アーマー・ドレイクの亜種になる。
そしてスカイ・スコーピオンは、虫みたいな羽を持っている空飛ぶサソリだ。
元々そういう魔物らしいから、別にWランクってわけでもない。
どちらもSランクモンスターだが、デザート・ドレイクは砂漠に特化しているから、スカイ・スコーピオンは空を飛ぶ魔物にしては小さいからっていう理由が大きい。
エオスにスピードを落としてもらって前に出ると、マルチ・エッジとアイス・スフィアを組み合わせた
アイスエッジ・ジャベリンはブラッド・シェイキングかミスト・ソリューションを発動させたマルチ・エッジを、
別に槍状にしなくてもいいんじゃないかって思うだろうが、マルチ・エッジは短剣だから、それだけじゃ質量不足で決定力に欠ける。
だから
実際に使うのは今回が初めてだから、しっかりと使い勝手も確かめないとな。
そのアイスエッジ・ジャベリンは、スカイ・スコーピオンの甲殻をあっさりと貫いている。
命中した箇所から氷り付いて、さらに発動させたブラッド・シェイキングで体内の水分を激しく揺さぶられてるから、次々と砂漠に落ちていってるな。
デザート・ドレイクの方は、
だけどそんなことをしてくる魔物がいるだろうことは、十分に想定内だ。
避けられたアイスエッジ・ジャベリンをアイス・スフィアの要領で操り、誘導弾のように再びデザート・ドレイクに向かって進ませる。
球形のアイス・スフィアと違って、マルチ・エッジの刃を進行方向に向けなきゃならないのが手間だな。
念動魔法のおかげでなんとかなってるが。
だが避けたアイスエッジ・ジャベリンが、向きを変えて襲ってくるのはデザート・ドレイクにとっても想定外だったようで、何もできずに直撃を受けて、スカイ・スコーピオンのように命中した箇所から氷り付き、こちらは体内の血管を破壊されて落ちていった。
威力はあるが、使い勝手としてはアイス・スフィアの方が上か。
慣れの問題もあるんだろうが、20本以上だと操作が間に合わないから、次は本数を減らして、逆に質量を増やしてみるか。
落ちていくデザート・ドレイクとスカイ・スコーピオンを念動魔法を使って回収しながら、俺はアイスエッジ・ジャベリンをどう改良するを思案することにした。
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