ウイング・クレスト専用装備

Side・ルディア


 昨夜は楽しかった。

 料理はもちろん、お酒もあたしが初めて飲むような高い物ばっかりだったし、ホーリー・グレイブの王都での話も面白かった。


 置いてきぼりにされた、わけじゃないけど、フィールに残されたのはあたし達だけじゃなく、ホーリー・グレイブのノーマルハンターもだから、待ってる間は一緒にいたし、話もした。

 だけどあんまり話とかをしてる余裕はなかったから、無言になることも多かったんだ。

 だから昨夜は、初めてゆっくり話せたんだ。


 だけどその席で、酔った勢いに任せて、姉さんと一緒に大和に結婚してって言い寄っちゃったから、顔から火が出るほど恥ずかしい……。

 ユーリ様はこうなることはわかってたって言ってたし、プリムは笑ってたし、ミーナとフラムも許してくれたし、リカ様も認めてくれたってこともあって、大和も受け入れてくれたんだけど、まだ2人とも抱かれてはいない。

 酔った勢いでっていうのもあるけど、まだ心の準備ができてないし、ミーナ、フラム、リカ様も大和とプリムが無事に帰ってくるよう祈ってたから、みんなを差し置いてあたし達が、なんてのことはできないよ。

 あ、無事に大和と婚約できたからってことで、あたし達もフレデリカ侯爵のことはリカ様って呼ぶことになったんだ。

 侯爵様相手に恐れ多いけど、それを言ったらユーリ様はお姫様なんだから、今更だったりもするしね。


「ということは目下の問題はユーリ様だけど、元々フィールを救った功績でって話だし、そっちも問題ないよね」

「っていうかよ、今回のアライアンスの功績がアホすぎるから、ユーリ様だけじゃ足りないんじゃねえのか?」


 アルベルト工房に来て、改めてあたし達も大和と婚約したことを教えると、エドとマリーナが呆れ果てていた。

 酷い言い草だけど言いたいことは分かるし、実際に昨夜の祝勝会でも、そんな話は出てたみたいだよ。

 というか、エドとマリーナ、フィーナも参加してたんだから、その話は知ってるんじゃないの?


「それは知ってますけど、だからといってこれ以上となると、それこそ正式に爵位を賜って、領地を与えられるぐらいなんじゃ?」


 普通ならフィーナの言う通りだと思うけど、大和は爵位にも領地にも興味がないし、ハンターを続けたいって考えてるから、今回のアライアンスの褒賞となると、アミスターとしても頭を悩ませることになる。

 なにせ一般には公表されないけど、大和とプリムが終焉種のオーク・エンペラーとオーク・エンプレスを倒したのは事実だし、放置されてたりなんかしたらアミスターが滅んでたかもしれないんだから、お姫様1人じゃ功績に釣り合わないって領代も考えてるんだ。

 じゃあどうしたら、ってことになると、誰も答えられないんだけど。


「で、ユーリ様とフレデリカ侯爵のコートも作れって?」

「ああ。リカさんとは婚約ってことになるし、多分ユーリアナ殿下ともそうなるだろうからな」

「今回のアライアンスの功績で、アミスターは絶対に大和を逃がさないから、多少の無理をしてでもマナかユーリを嫁がせようとするでしょう。既にリカさんと婚約したとはいえ、そっちは本人達の意思だから褒賞にはならない。となると本人もその気になってるし、ユーリが大和に嫁ぐことになるのは確定だから、それならってことで先に作っておこうと思ってね」

「一応私と婚約したことで、アミスターの所属は確定になるんだけど、それでもプリムさんのことがあるから、私じゃどうしても役不足なのよ」


 大和やプリム、そしてリカ様の懸念は、プリムが取り潰されたとはいえ、バリエンテの公爵令嬢だということ。

 獣王はプリムが裏切って死んだと明言してるから何とでもなるみたいだけど、その獣王に反旗を翻してる反獣王組織からすれば、翼族でエンシェントフォクシーに進化しているプリムは、絶対に手に入れたい戦力であり、旗頭でもある。

 しかもその反獣王組織には、女好きで女癖の悪い最低のハンター、元第二王子のレオナス・フォレスト・バリエンテもいるそうだから、プリムが結婚してるのも構わずに自分との婚約を発表する可能性もあるみたい。

 レオナスはドラゴニュートハーフ・ハイタイガリーだから魔力は竜族や妖族以上だし、両方の特性や長所を持っているから、身体能力も高い。

 だからレベル以上に強いんだけど、どんな女でも強引に自分のものにしようとする悪癖があって、しかも一度手を出した女には見向きもしない。

 何人かがシングル・マザーになってるって噂もあるけど、子供にも一度も会ったことがないそうだから、多くの女からは嫌われている。

 プリムもその1人で、何度か決闘を挑まれたこともあるそうだけど、その都度ボコボコにしてたらしいよ。


「面倒な話だな」

「だよね。だけど話は分かったし、コートは何着も仕立ててるから、あたしとしては問題ないよ」


 あたし達のコートも、マリーナが仕立ててくれたんだしね。

 ユーリ様はヒーラーだから特に装甲は必要ないんだけど、それでも見た目の差別化を図るために、簡単な物は着けることになってるよ。

 リカ様はアウトサイド・オーダーだけど、戦いに出ないわけじゃないから、ミーナよりは軽装って感じかな。


 ちなみにエド達のコートはこないだ完成したから、3人とも着ているよ。

 装甲は肩に少々ってところだけど、工具を入れられるポケットを増設していて、そこにミラーリングを付与させてるんだって。

 基本デザインは同じなのに、マリーナとフィーナは胸元が大きく開いてるから別物に見えるよ。


「ふんふん、ユーリ様のコートは、装甲に魔石を散りばめることで、治癒魔法ヒーラーズマジックの魔力消費を抑えようってことだね」

「はい。魔石を調整することで天与魔法オラクルマジックの特性を持たせられますから、その中の治癒魔法ヒーラーズマジックの魔石を使えればと思いまして」


 また面倒なこと考えてるなぁ。


 魔石は火、土、風、水、雷、氷、光、闇の8属性があって、魔物が死んだ時に、魔物の体内に生成される。

 魔石の魔力はモンスターズランクに比例して上がっていき、希少性も上がっていくから、高ランクモンスターの魔石程貴重で高価な物になってるんだ。

 属性は魔物によって決まってるんだけど、稀に異なる属性の魔石を持つこともあるよ。

 特に亜人はわかりやすくて、ゴブリンが雷、オークが火、コボルトが風、サハギンが水、アントリオンが土、セイレーンが氷、アマゾネスが闇、そしてワルキューレが光だね。


 魔導具に使うならTランクモンスターの魔石でも使えるんだけど、相性が良くないと使えないこともあるから、魔石を掛け合わせることで天与魔法オラクルマジックの属性を持った魔石を作り出す研究も進んでいる。

 天魔石って呼ばれていて、多くは協会魔法ギルドマジックの属性を宿していることが多いけど、奏上魔法デヴォートマジックの空間魔法、従魔魔法、強化魔法、天賜魔法グラントマジックなんかの天魔石も作れるそうだよ。

 その分、すごく高いんだけど。


「そんな話だね。じゃあユーリ様のコートはこれでいくとして、フレデリカ侯爵のは?」

「私のはオーダーらしく、それでいて普段使いもできるようなデザインね。ミーナのようなデザインにも憧れるけど、私の戦闘力は高くないし、立場的にも後方にいることが多いし、何より慣れてないから、逆に使いにくくなると思って」


 それはわかる。

 初めての防具って、どうしても慣れるまで少し時間がかかるんだよね。

 このアーマーコートはそんなことなかったけど、オーダーメイドと既存品を比べちゃダメか。


「だからミーナより軽装ってことか。うん、こっちも問題ないかな。さすがに王都に行くまでに仕上げるのは無理だけど、素材とかは持ち込むよ」


 王都に持ち込むって、それはどうなの?

 確かグランド・クラフターズマスターはエドのお父さんって聞いてるけど、王都のクラフターズギルド総本部の設備を借りてやるつもり?


「そっちでもいいけど、獣車にある私達の部屋には、簡易的な工房も設えてあるんですよ」


 フィーナが教えてくれたけど、そんなことしてたんだ。

 でも旅をしている間は、あたし達は魔物がいればそれを狩るけど、エド達はクラフターだから、特にすることはない。

 だから作業ができるようにってことなのか。


「おし、それじゃユーリ様とフレデリカ侯爵のコートはこれでいいな」

「ああ、頼む」

「任せといて」


 これでユーリ様とリカ様のコートの注文は終わったから、次はいよいよお待ちかね、あたし達の武器だよ!


「それとウイング・クレストの武器だが、用意してあるぞ」


 持っていたミラーバッグの中から、武器を取り出すエド。

 その中にあたしの闘器もあったけど、実物を見るとすごい奇抜だってわかるなぁ。


「これがミーナさんの剣と盾、フラムの弓、リディアの双剣、ルディアの闘器、ラウスの剣と盾、レベッカの弓だ。ちゃんと注文通りに仕上がってるはずだから、確認してくれ」

「わかりました」


 凄いな。


「この剣もですけど、盾も軽いですね。すごく扱いやすそうです」


 ミーナの剣は白銀色に輝く刀身を持っていて、名のあるオーダーや英雄が下賜されるような豪華なガードや装飾が施された片手用直剣だよ。

 盾は紺藤色の革を張り付けた、こちらも英雄の盾を思わせる白百合色しらゆりいろに輝くカイトシールドになっている。

 アーマーコートがけっこうな重装備だから、全部装備すると完全に麗しの騎士様だよ。

 あ、紺藤色ってのはウインガー・ドレイクの皮や羽毛の色で、盾の表面だけじゃなく、裏側や持ち手にも付けてあって、衝撃の吸収力を高めてあるみたい。


「こうして見ると、完全に麗しの白騎士様よね。フィールのオーダー、特に女性は羨ましがってるんじゃない?」

「はい。何人かに言われました」

「でしょうね。同じ鎧なのにここまで違うなんて、大和の世界って、鎧もすごいのね」


 女性比率が高いヘリオスオーブだと、当然女性騎士や軍人も多くなる。

 当然アミスターも例外じゃなくて、鎧も男女共用の無骨なデザインのものが多いから、改善要求は毎年のように上がってくるって聞いてる。

 ミーナはアウトサイド・オーダーになるかオーダーズギルドを辞めるかまだわからないけど、どちらにしてもオーダーズギルドの鎧を着けることはできなくなる。

 でも、それよりも見た目が女性らしい鎧を身に着けているわけだから、同僚や先輩方からは羨望の視線を何度も浴びていたよ。


「マリーナ、確かローズマリーさんに、裾を短くしたサーコート風の鎧を売り込んでたよな?そっちはどうなったんだ?」

「フィール支部だけ勝手に変えると風紀が乱れるから、変更するとしてもオーダーズギルドで一斉になんだって。明後日王都に行く際、レックスさんも行くでしょ?その時に陛下に上申するみたいだよ。翡翠色銀ヒスイロカネのこともあるから、多分大丈夫じゃないかって考えてるみたいだけど」


 そりゃオーダーズギルドの制式装備なんだから、勝手に変更なんてできないよね。

 でも翡翠色銀ヒスイロカネが導入されたら、武器だけじゃなくて防具も一新することになる。

 それに合わせて、女性オーダーの希望が詰まったマリーナの鎧を導入するのは、あり得ない話ってわけでもない。


「私もこのデザインは好きですし、こちらの方が武骨な鎧より親しみがもたれると思いますから、私からもお父様にお願いしておきます」


 ユーリ様もアシストしてくれるみたいだから、こっちも大丈夫な気がしてきた。

 マリーナのデザインも男女共用だけど、フィールの女性オーダーからの支持はすごいらしいし、レックスさんも押され気味だったんだよね。

 さすがにオーダーズマスターやロイヤルオーダーの鎧は別にデザインしなきゃいけないけど、マリーナは抜かりがないみたいで、既にそっちも用意してあるんだって。

 これには大和も、かなりノリノリだったみたいだよ。


「これが私の弓ですか……」


 フラムは、露草色つゆくさいろをした長弓を手にしていた。

 装飾はシンプルだけど、アッパーリムにはフェザー・ドレイクによく似た魔物の意匠が施されている。

 というか、あれってウインガー・ドレイクだよね?


 フラムの弓は、薄く伸ばした瑠璃色銀ルリイロカネを何層にも重ね、弦は溶けた瑠璃色銀ルリイロカネに浸したウインガー・ドレイクの健を、ウインガー・ドレイクに似た装飾にはウインガー・ドレイクの骨を使用しているってさ。


 金属の弓は重くて扱いにくいんだけど、ヘリオスオーブにはフィジカリングっていう身体強化用の奏上魔法デヴォートマジックがあるから、それを使えば片手でも持てるぐらい身体能力を強化することができるし、弓で魔物の攻撃を防ぐこともよくあるから、壊れやすい木製の弓は需要が少ない。

 木製の弓でも、魔力を流せば鉄より強化することはできるんだけど、それでも木製っていうことは変わらないから、どうしても脆いんだ。

 だから金属製の弓が主流なんだけど、高ランクハンターには、最高級木材を使った金属との複合弓を使ってる人もいるよ。


「綺麗な弓だよな。それにその、ウインガー・ドレイクっぽい意匠も悪くない。エド、もしかして何かの魔法が付与されてたりするのか?」

「いや、何もしてねえよ。だけどウインガー・ドレイクの骨を使ってるから、矢の初速が増して、飛距離も伸びてると思う」


 そうなの?


 魔物の素材を使った場合、魔物の能力が武器や鎧に付与されるんだけど、どんな効果なのかは魔物によって異なる。

 初速と飛距離の増加はフェザー・ドレイクの弓の特徴でもあるそうだから、希少種のウインガー・ドレイクを使った弓なら、それ以上の効果が出ても不思議じゃないってことらしい。


 ちなみにウインガー・ドレイクの皮を使ったアーマーコートやトラウザー、スカートだけど、こっちは魔力を流すと皮や羽毛が硬化して防御力を高めて、僅かだけど身体能力を上げてくれる効果もあったよ。


「そ、そうなんですか?そんな弓を、私なんかが使ってもいいんでしょうか……」

「いいんだよ。それにフェザー・ドレイクなら、前に大和達が大量に納品してあるから、フィールに来てくれた弓術士には、クラフターズギルドが格安で提供してる。さすがにもうちょいしたら、値上げするそうだけどな」


 フェザー・ドレイクって、弓の素材としては最高級らしいよね。

 マイライトに登ると群れに遭遇する可能性が高いから、稀に山から下りてくる個体を狩ることになるそうだけど、Bランクモンスターだから、ハイハンターが数人いれば、単体ならさほど労せず倒せるっていうのも大きいよ。

 バレンティアにもいるけど、同じような感じで狩られてるからね。

 だけど滅多に山から降りてこないから、流通量も少なくて高級品になってるわけなんだど。


「見て、ラウス!この弓、凄いよ!」

「デザインを見た時から思ってたけど、ホントに凄いよなぁ。そういう意味じゃ、俺の盾も負けてないけど」


 ラウスは紺桔梗色こんききょういろをした、ナックルガードがついたカットラスと呼ばれる片刃の曲刀と、同じく紺桔梗色の丸盾を装備している。

 カットラスは瑠璃色銀ルリイロカネそのままの色の刀身が綺麗なんだけど、問題となるのは丸盾の方だね。

 一見すると普通より少し小さい丸盾に見えるんだけど、よく見ると一部に突起のようなものが2つある。

 ここには瑠璃色銀ルリイロカネの刃が仕込まれていて、魔力を流すと飛び出してくる仕組みになってるんだとか。

 盾で攻撃することも当然あるけど、ラウスはよりアグレッシブに攻めたいらしいから、大和からこんな感じの盾があるって聞かされた瞬間、この盾に決めたそうだよ。

 双剣士とは少し違うけど、それでも似たような使い方をするために、盾はウインガー・ドレイクの革製のベルトに左腕を通して、しっかり止めてから保持する形になってるね。


 レベッカは珊瑚色さんごいろの弓を持っているんだけど、その弓のアッパーリムには、穂先のような物が備え付けられている。

 この弓もフラムの弓と同じ製法で作られてるんだけど、完全に弓術特化のフラムと違って、レベッカはある程度の接近戦もこなせる。

 だから鉄のナイフも持っているんだけど、それでもとっさにナイフを構える余裕がないことは多い。

 だから弓に穂先を備え付けておくことで、いざというときはその弓を振るって戦おうって考えてるみたいなんだ。

 その場合は弦が邪魔になるんだけど、魔力を流せばアッパーリムに収納されてしまうという機能が付けられているから、普段から槍のように使うことも視野に入ってるとか。

 工芸魔法クラフターズマジックコネクティングを調整して付与させたそうだけど、このギミックの完成が一番大変だったんだって。


 それとは別にフラムとレベッカには、それぞれ露草色と珊瑚色をした矢筒も渡されている。

 この矢筒にはミラーリングが付与されていて、矢の収納量が10倍になってるっていうから凄い。

 弓術士にとって矢切れは致命的だし、万が一矢切れを起こしたら、ストレージングの使えないフラムとレベッカは、ミラーバッグにある予備の矢筒を取り出すことになる。

 だけど魔物がそんな時間をくれるわけがないから、その一瞬は命取りになってしまう。

 それを避けるために、矢筒の収納量を増やすことで矢切れを起こしにくくするようにって考えられているんだ。

 残数はステータリングに連動させれば分かるから、いちいち中を確認しなくてもいいっていうのもポイント高いよね。


「デザインを見た時も思ったけど、ラウス君の盾もレベッカちゃんの弓も凶悪よね」

「俺もそう思う。だけど実用的だと思うし、これはこれでありだと思うぞ」


 特にラウスの盾は、私も悪くないと思う。

 盾で攻撃って言っても、だいたいは牽制目的だし、そもそも盾は攻撃するために作られてるわけじゃないから、決定力に欠ける。

 もちろん使い方次第なんだけど、それでも防御を主目的にしてるんだから、攻撃して盾が壊れました、なんてのは許されないよ。


「姉さん、どう?」

「右手用の剣は、普通に片手直剣としても使えそうね。こっちの方は実際に持ってみると、盾とは違うけど、剣を絡めとったりしやすそうだわ」


 双剣士の姉さんだけど、手にしている剣は左右で違うデザインをしている。

 元々姉さんは父さんから剣を教えてもらっていたから、純粋な双剣士っていうわけじゃない。

 普段の狩りでも、攻撃は右手の剣がメインで、左手の剣は補助的な役割や防御が多かった。

 だから姉さんは、右手に持つのは鏃や穂先みたいな感じのする片手直剣と、短剣より少し長い、けど先が三つ又にわかれている片刃直剣を選んでるんだ。

 特に片刃直剣の方なんて、峰が魔物の歯みたいな感じになってるから、パッと見だとすぐに折れちゃいそうな気もする。


「ソード・ブレイカーってやつだな。剣を受けたらそのまま捻ることで、剣を奪ったり刀身を折ったりする武器のことなんだが、普通に魔物相手にも使えると思うぞ」


 そんな武器があるんだ。

 だけど確かに剣みたいな牙とか爪を持った魔物は少なくないから、それを折ることができればこっちが有利になる。

 素材としては微妙になっちゃうけど、そんなことを考えてる余裕がないこともよくあるから、選択肢が増えるのは助かるよ。


「ルディアの闘器はどうなの?」

「もうちょっと待って。よし、出来た!」


 あたしの闘器、手甲は拳の前面に、瑠璃色銀ルリイロカネでできた分厚い打撃面が設けられていて、さらにスパイクもあるから、これだけでも十分な威力が見込める。

 拳を開くこともできるし、手のひらも完全フリーで使えるし、手首も自由に動かせるし、手甲を装備したまま物を持つこともできるから、今までより出来ることが全然増えるよ。

 それだけじゃなく、魔力を流すと手の甲から3本の爪が伸びて、斬撃を加えることもできるから、攻撃の幅も広がったってわかる。

 さらに足甲は、脛の外部に竜の翼みたいな感じの刃が設けられているから、蹴りを放つ際も斬撃がセットで追加されることになる。

 しかも脛の前部や後部に移動させることもできるから邪魔になることもないし、相手の意表を突いたりもできるんだ。

 着けるのは面倒くさかったけど、イークイッピングでの装着が前提だから、もうそんな手間を気にする必要がないのも嬉しい。

 ちなみに足の刃は、プリムの槍と同じように、あたしの翼を模してあるんだ。


「なんかルディアの装備が、一番凶悪な感じがするわね」

「だな。とても武闘士には見えないぞ」

「狂戦士、って感じですねぇ」


 プリム、大和、レベッカが好き放題言ってくれるけど、あたしはすごく気に入ったよ!


「『イークイッピング・オフ、ドラグラップル』!『イークイッピング・オン、ドラグラップル』!やった、できた!」


 実際にイークイッピングで着脱できるのがわかると、すごく嬉しくなる。

 これがあたしの、新しい相棒なんだね。


「ドラグラップルっていうのが、ルディアの闘器の名前か」

「あ、うん。名前は自分で付けるって聞いてたから色々と考えてたんだけど、この名前が一番シックリきたんだ」


 グラップルっていうのはよく闘器に付けられている名前だけど、手甲の爪、足甲の刃は竜を模してるって言っても過言じゃないから、ドラゴンとグラップルを合わせたんだ。


「私は右手の剣がドラグ・ソード、左手がドラグ・ブレイカーです」


 姉さんも竜にちなんだ名前にしたか。

 あたし達がドラゴニュートだってこともあるけど、最終的にはそこに行き着いちゃうよね。


「俺はラピスライト・ブレード、ラピスライト・シールドですね」

「私はラピスライト・ボウエッジにしますぅ」


 ラウスとレベッカは、瑠璃色銀ルリイロカネにちなんだ名前か。

 ラウスの剣と盾は瑠璃色銀ルリイロカネの色が多いからわかるけど、レベッカは珊瑚色の弓だけど、それでいいの?


瑠璃色銀ルリイロカネ製ってことに違いはないですからぁ」


 そう言われちゃ、あたしも何も言えないよ。


「私はラピスウイング・ボウですね。瑠璃色銀ルリイロカネとウインガー・ドレイク製ですから、それを合わせた感じで」

「私はシルバリオ・ソード、シルバリオ・シールドです。厚かましいですけど、お願いした時からこの名前を付けたいと思っていたので」


 フラムはしっかり考えたって感じだけど、ミーナってそんな前から決めてたんだ。

 だけどその時は名前を付けられるとは思ってなかったから、付けれたらいいなって感じで思ってたそうだけど。

 でもピッタリの名前だね。


「みんな、良い名前をありがとよ。さて、大和」

「わかってる。いくらだ?」


 あ、そうだった。

 レイドの活動資金から出すって言われてるけど、それでもとんでもない額が飛んでいくんだった。

 アーマーコートだって全部で20万エルを超えてたのに、この武器は瑠璃色銀ルリイロカネ製だから、その倍はいっちゃいそうだよ。


「43万エルだ」


 やっぱり!


「思ったより安いのね」

「だな。50万はいくって思ってたんだが」


 大和もプリムもPランクハンターだから、普通のハンターのあたし達とは金銭感覚が違う。

 43万エルって、ちっとも安くないからね?


「そりゃ普通ならな。だけど瑠璃色銀ルリイロカネの材料になる魔銀ミスリル晶銀クリスタイト金剛鉄アダマンタイトは、お前が出した金で用意してたんだ。さすがにその分は取れねえよ」

「そういやそうだったっけか」

瑠璃色銀ルリイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネより高くなることは間違いないから、加工費を割り出して、クラフターの手当てとか特技製作費、材料費なんかを計上させてもらったんだ。と言っても、材料はほとんど持ち込みだから、その分も安くなってる感じかな」


 マリーナが内訳を説明してくれて、一応は納得できた。

 特にクラフターの手当ては、リチャードさんがAランク、タロスさんがPランク、エドはP-Gランク、マリーナとフィーナがSランクだから、比重が大きいのもわかる。

 そう考えると、確かに安く感じてくるよ。


「毎度ありっと」


 大和が支払いを済ませてる間に、あたし達は武器を収納することにした。

 あたし達が使ってるのはミラーバッグだけど、収納しちゃえば重さは関係なくなるし、例え盗まれたとしても、イークイッピングを使えば武器や装備だけは取り戻せる。

 お金とかは諦めないといけないけど。


「本人だけしか使ってないようなもんなんだから、魔力かなんかで鍵でも掛けられないもんかね?」

「そう思うんなら、奏上でもしてこいよ。別にミラーバッグやストレージバッグだけじゃなく、家や店の鍵にもなるんじゃねえか?」

「その案が出たってことは、エドならいけるってことだな」

「っざっけんなよ!また俺に擦り付けるつもりか!?」

「一度奏上してんだから、二度も三度も変わらねえだろ」


 また大和とエドが言い合ってるけど、いつものことだから誰も気にしない。

 いや、ユーリ様は初めて見るから、少し戸惑ってるね。


「大和様って、もっと大人っぽいと思ってたのですが、こうしてみると年相応と言いますか、何と言いますか……」

「これが普通よ。というか、別に普段も意識してるわけじゃないしね」


 そうだね。

 男同士のやり取りって、いくつになってもこんな感じだし。


 そんなことより、やっとあたし達の武器もできた。

 この後は広場でアライアンスのお披露目だけど、それが終わったら試し切りに行って、感触や使い勝手をしっかりと確かめないとだよ。

 お披露目の話は、伏せられる内容も含めて聞いてるけど、街の人がどんな反応をするのか少し気になるから、ちゃんと聞いておくつもり。

 だけど早く武器を使ってみたいとも思ってるから、先に狩りに行きたい気持ちもある。


 そんな気持ちを抑えながら、あたし達は嬉々としてアルベルト工房を後にした。

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