決起会

 ラベルナさんに話を振られるとは思わなかったが、オーダーにとっても悪い話じゃないどころか戦力強化に繋がる話なんだから、興奮するのも無理もない。


 フィールのハイオーダー用ってことで8人分打ってたが、実際に参加するのは5人。

 だけどユーリアナ姫のエスコート・オーダーが3人参加するから、数的には丁度だな。

 もちろん、予備も用意されてるぞ。


 ついでに使用感の他に、俺の予想も伝えてみたんだが、ハイクラスのハンターやオーダーからすれば、心当たりはあるみたいな感じだ。


「否定はできないね。実際、私達はオーク・プリンセスを倒したけど、そもそもオーク・プリンセスはG-Iランクモンスターだ。普通ならハイクラスが5人程度じゃ、倒せるかどうかも怪しい。仮に倒せたとしても、こっちも満身創痍になってるだろうから、まず逃げられなかっただろうね」

「その意見には同意します」


 ファリスさんの言葉にホーリー・グレイブは深く頷くが、ハイオーダーも同じ意見のようだ。


「ハイクラスにはハイクラスの苦労があるのは知っていたが、もし大和君の予想が当たっているとすると、これは大変なことにもなりかねないな」

「ええ。幸いにもこの場にいる者だけで留め置ける話ですから、この話は内密にしておくべきでしょうね」


 アーキライト子爵とミリア聖司教が、神妙な顔でそう結論付ける。

 え?そんな大事になるの?


「大事にもなるよ。そもそも君の予想が正しければ、翡翠色銀ヒスイロカネの武器を使うことになるオーダーズギルドは、レティセンシアとの戦争が起こったとしても、武器を気にせずに戦うことができる。だがレティセンシアの軍は、今までと変わらないんだ。その差がどんなものかは、言わなくてもわかるだろう?」


 あー、確かにラベルナさんの言う通りだ。

 ただでさえ練度の高いオーダーズギルドが、さらにもう一段強くなるわけだから、レティセンシア軍がどうなるかなんて、考えなくても分かるじゃないか。

 相手がソレムネでも、そんなに変わらないんじゃなかろうか?


「そういうわけですから、この話は内密にお願いします。レティセンシアはもちろん、ソレムネに知られでもしたら大事ですから」


 全員が神妙な顔で頷くが、俺も似たような顔をしてると思う。


「では話を戻しますが、オーダーの剣はクラフターズギルドが用意してくれました。ホーリー・グレイブは品評依頼で、ウイング・クレストは提案者ということで、既に専用の武器が用意されていますから、こちらも問題はないでしょう」


 俺とプリムは瑠璃色銀ルリイロカネ、ファリスさんとクリフさんは青鈍色鉄ニビイロカネ、そしてバークスさん、サリナさん、クラリスさんは翡翠色銀ヒスイロカネの武器を持っている。

 しかも俺とプリムはオーダーメイド、ホーリー・グレイブも今まで使ってた武器と同じ形状の物を合金で作ってるから、専用と言っても過言じゃない。

 ハイオーダーの剣は、装飾まで施してる時間がなかったから剣の形をした翡翠色銀ヒスイロカネって感じになってるが、正式に公表されたらしっかりと装飾もされるから、それまでは我慢してほしい。


「かなり助かります。予備の武器を用意するのはもちろんですが、それでもどれ程の数を失うことになるかわかりませんでしたから」


 ハイクラスにとって、それだけ武器の問題は大きいからな。

 俺達もたった2週間で、かなりの数の武器を壊したから、気持ちはよくわかる。


「出発時刻ですが、移動手段が従魔や獣車ですから、明朝10時とします。ホーリー・グレイブの報告では、目的のオーク集落までは7時間程だそうですが、アライアンスですし、休憩も必要ですから、夕方6時、遅くても7時前後には到着できるでしょう。そして一晩夜営をしてもらい、翌日未明に戦闘を開始してもらうことになります」


 ここをどうするかが気になってたが、やっぱり夜営を挟むか。

 確かに夜目の利く相手と夜間戦闘なんて、普通に事故が起きるし、朝早くフィールを出たとしても、7時間も移動すれば疲れは溜まるから、そっちでも事故が起きる可能性が高い。

 それだったら一晩夜営して、少しでも疲れをとっておいた方がいいか。


「最後に、無事討伐に成功したら、祝勝会を開きます。これからお出しする食事は前祝いですけど、祝勝会はもう少し豪勢になる予定ですから、無事に任務を果たし、誰1人欠けることなく、全員で生還してくることを、私達は信じています」


 祝勝会までやってくれるのか。

 アライアンスともなると、ハンターだけじゃどうにもならないもんなんだな。

 今回だってクラフターズギルドはオーダーの剣を打ってくれたし、トレーダーズギルドは翡翠色銀ヒスイロカネの材料になる魔銀ミスリル晶銀クリスタイトを提供してくれたって話だし、バトラーズギルドはこの決起会のためにGランク以上のバトラーを派遣してくれてるし、ヒーラーズギルドは治療のための準備を整えてくれているし、プリスターズギルドは万一に備えて結界の強化をしてくれてるしで、まさに全てのギルドが協力しあって、この一大事に取り組もうとしている。


 というか、Pランクバトラーが3人もいるぞ。


 バトラーズマスターのオルキスさんはMランクバトラーだが、バトラーズギルドのランクアップは経験や仕えている人からの推薦が必要で、その上で試験に合格しなきゃいけないらしい。

 さらに高ランクになるためには、レベルも高くないといけないって話もある。

 確かMランクバトラーだと、レベル40以上だったな。

 主人を守るために荒事に挑むこともあるから、ってことなんだろうが、普通にBランクハンターやオーダーより強いんじゃないか?

 ちなみにトラレンシアにあるバトラーズギルド総本部を統括しているグランド・バトラーズマスターは、ハイクラスに進化しているAランクバトラーなんだそうだ。


 そんな益体ないことを考えていると、食事が運ばれてきた。

 美味そうだな。

 というか、大皿料理ばっかで、しかも小皿が用意されてるってことは、セルフサービスってことだよな?

 バトラーがそれぞれ大皿の前にスタンバってるから、言えばよそってくれるんだろうけど、そんなことをPランクやGランクのバトラーにさせてもいいんだろうか?

 いや、会食って言われるより、こっちの方が俺としても助かるんだが。


「今回はフェザー・ドレイクをメインにしているけど、祝勝会に参加する意欲を高めてもらうために、少量ですけどアビス・タウルスも用意してあります。提供してくれたのは大和君だけど」


 いや、俺の名前だけ出すのは勘弁してください。

 ウイング・クレストとして提供したんだから、出すならせめてレイド名でお願いします。


「ここでアビス・タウルスを出すかよ。だけどブルーレイク・ブルの災害種なんだから、すげえ美味いんだろうなぁ」

「そうよね」

「祝勝会になったら、もっと凄い料理が食べられるんだし、これは気合いれて、アライアンスをこなさないといけないわね」


 バークスさん、サリナさん、クラリスさんがいち早くアビス・タウルスの肉に群がった。

 サイコロステーキっぽく見えるけど、さすがにさっき持ち込んだばかりだから、簡単な料理になるのも仕方ないか。


「これは……美味いな。ビッグホーンレイク・ブルよりも柔らかいし、味も深みがある気がする」


 クリフさんの言うビッグホーンレイク・ブルっていうのは、ブルーレイク・ブルの希少種だ。

 王都近辺やの王都近くの迷宮ダンジョンにはブルーレイク・ブルは生息していないらしいが、アーキライト子爵の領地には生息していて、そこまで遠征した際に偶然仕留めたことがあって、そこで食べたらしい。

 B-Rランクモンスターだが、体長はアビス・タウルス並にデカくて10メートルはあったそうだから、倒すのに手こずったって教えてくれた。

 アーキライト子爵がブルーレイク・ブルの家畜化を研究してるのも、自分の領地に生息地があるからっていう理由が大きいそうだ。


 そういえばまだ数日だけど、魔石の研究はどうなってんだろ?


「アーキライト子爵、魔石の方はどうですか?」

「さすがに始めて数日だから、まだ何とも言えないな。だが手応えは感じているから、もう少ししたら使えそうな魔導具を、クラフターズギルドに発注することになるだろう」


 手応えを感じてるってことは、本当に魔石に情報があるかもしれないってことか。

 どんな情報かはわからないが、少しでも魔物の生態が分かるといいな。


「君がやりたい事というのも、興味があるからな」


 あら、興味を持たれていらしたんですね。


 俺はARみたいな感じで、魔物の立体映像か何かを使い、魔物の生態を調査したり、模擬戦を行ったりできるような魔導具を作ってみたいと思ってる。

 だけどその辺はよく考えないと、傍から見たら武器を振り回す危ない奴にしか見えないから、魔導具っていうより施設ごとにした方がいいか。


 アーキライト子爵の研究次第ではあるが、魔石から情報が引き出せるようになれば魔物の研究も進むし、襲われても対策が立てやすくなるから有用性も高いと思う。


 人任せにするしかないけど、俺は研究者じゃないしな。


「大和君、少しいいかな?」

「レックスさん。どうかした……ああ、オーダーの紹介ですか」

「ああ。先程ホーリー・グレイブには紹介してきたから、次は君達なんだよ」


 レックスさんに声を掛けられて振り返ると、総勢9人のハイオーダーもいた。

 面識のある奴もいるけど、ほとんどは俺も初対面だな。


「ありがとうございます。それじゃこっちも、みんなに声を掛けてきますよ」


 直接関係あるのはプリムだけだが、他のみんなもレイドメンバーなんだから、紹介しておかないとだしな。

 思い思いに食事をしてたみんなだが、俺が声を掛けるとすぐに集まってくれた。


「ローズマリーとグラム、そしてエレナさんとは面識があったね。こっちのハイラビトリーがカルディナ、ハイエルフがイリスだ」


 ハイオーガのローズマリーさんはサブ・オーダーズマスターだし、一緒にプラダ村まで行ったからな。

 だがハイヒューマンのグラム、こいつは別の意味で忘れられない。

 俺がエンシェントヒューマンに進化したこともだが、俺がプリムと結婚し、ミーナ、フラムとも婚約したことを、あっさりと街に広めやがったからな。

 こないだシメたが、それだけでこいつの悪癖が治るとも思えん。


「そんな目で見るなよ。それにお前にシメられた後、規律を乱したってことで、減俸3ヶ月まで食らったんだからな?」


 そんなことを言うグラムだが、自業自得だ。

 オーダーズギルドの規則だと、確か減俸は俸禄が3割削られることになるらしい。

 グラムはSランクハンターでもあるから、ハンターズギルドで依頼をこなせば、減俸分ぐらいは稼げるだろうが。


「まったく、君達は仲が良いのか悪いのか。まあ、男友達なんてそんなものなんだろうけどね」


 ハイエルフのエレナさんは、俺がノーブル・ディアーズを捕まえた際に、陣頭指揮を執っていた人だ。

 ミーナが魔銀亭に泊まるってことを、生温かい目で承諾し、見送ってくれた人でもある。

 結婚してるそうだが、子供はまだいないとも聞いている。

 ちなみにレベルは44。


「噂はよく聞いていたけど、こうして顔を合わせるのは初めてですね。だけどフラム達を助けてくれたことには、お礼を言わせてもらいます。本当にありがとう」


 レベル43、ハイラビトリーのカルディナさんは、驚いたことにプラダ村の出身で、当然フラム達のこともよく知っている。

 だからプラダ村で勤務することも多いそうなんだが、ブラック・フェンリルやグリーン・ファングの噂が立った時は、丁度その勤務をルーカス達と交代したばかりだったそうだ。

 単身でプラダ村に向かいかねなかったそうだが、さすがにそれは危険すぎるからってことでレックスさんやローズマリーさんが止めたらしい。

 シングル・マザーで子供はクラフター、さらに子供も結婚もしていることもあって、今回のアライアンス参加者の中では最高齢の45歳なんだが、さすがにハイラビトリーに進化してるだけあって、見た目は20代半ばぐらいにしか見えない。


「あたしも会うのは初めてだね。イリスっていう」


 ハイエルフのイリスさんは、隣のエモシオン出身だ。

 こちらは結婚していて、旦那さんはバトラーズマスターのオルキスさんと同じ人だっていうからビックリだが、子供はいないらしい。

 イリスさんも30歳を超えているが、ハイエルフに進化したのが早かったこともあって、こちらは20代前半にしか見えないな。

 レベルは48で、さりげなくレックスさんより高く、フィール支部最強のオーダーでもあるらしい。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 俺も自己紹介しようと思ったんだが、オーダーズギルドでも俺達のことは有名になってるから、既に全員の名前が知られていた。

 知られていた理由は、俺とプリムはエンシェントクラスで、数々の異常種や災害種を狩っていたから、知らない方がおかしいらしい。

 ミーナはオーダーだし、レックスさんの妹でもあるんだから、こっちも知らないわけがない。

 フラム達はカルディナさんがいるから、そこから話が伝わったんだろうと思う。

 そしてリディアとルディアは、サーシェス達の捕縛に一役買った立役者みたいなもんだから、だな。


「そしてこちらが、ユーリアナ殿下のエスコート・オーダーで、リーダーを務めているハイオーガのGランクオーダー ミューズ・クーベル。ハイリクシーのクリス、ハイヒューマンのリアラとダートだ」

「改めて、初めまして。私達はユーリアナ殿下のお供でバリエンテに出向いていたから、君やプリムローズ様のことは知らなかった。だが君が客人まれびとで、さらにあっという間にエンシェントヒューマンにまで進化してしまい、数々の異常種や災害種を討伐したことは、オーダーズマスターをはじめ、オーダーズギルドからも聞かされていた。そして今になってではあるが、あの時はユーリアナ殿下を助けてくれて、本当にありがとう」


 ミューズさんが頭を下げると、クリスさんとリアラ、ダートもそれに倣って頭を下げた。

 俺達が間に合わなければ、ユーリアナ姫はもちろん、リディアやルディア、そしてミューズさん達も命を落としていたことは想像に難くない。

 俺達としても連中を見過ごす理由はなかったから、間に合ってよかったって思ったよ。


「そう言われると少し楽になるんだけど、それでも、ね?」

「ああ。結局は自分達の力不足だし、エモシオンでもう少し情報収集をしっかりしてれば、不意打ちは防げたはずだからな」


 リアラはレベル45、ダートはレベル44で、共にハイヒューマンだ。

 どちらも王都近くの町出身で、幼馴染でもある。

 ダートとしてはリアラよりレベルが低いことを気にしてるみたいだが、1つしか違わないんだから、その程度の差は問題ないと思うんだけどな。

 どちらも23歳で、そろそろ結婚しろって実家や周囲からも言われてるらしいが。


「そういえば、どうやってあいつらが襲ってきたのかは聞いてなかったな」

「そういえばそうね。ワイバーンがいなかったし、プラダ村に立ち寄った形跡はなかったけど、あいつらってどこから来たの?」

「フィール方面からよ。普通にグラントプスが引く獣車だったから、貴族かトレーダーかと思って油断してしまったわ……」


 レベル47でハイリクシーのクリスさんが、忌々しそうに眉を顰めながら答えてくれた。

 フィール方面からって、それ、普通に俺達と鉢合わせしてた可能性も高かったんじゃないか?


「エモシオンに抜けられてたらわからないけど、その可能性はあったでしょうね。というか、ワイバーンは?」

「そっちは知らないな」


 それもそうか。

 考えられる可能性としては、街に立ち寄るのは危険だと判断して、適当なとこでワイバーンを降ろし、そのまま殺したって線だが、酷使しすぎて死んだって可能性もあるか。

 フィールまでの道のりでワイバーンの死体は見なかったから、誰かがストレージに突っ込んでるか、ベール湖に捨てたことも考えらえる。


 ちなみにパトリオット・プライドの獣車を引いていたグラントプスは、可哀そうではあるが殺して、死体はハンターズギルドに売っぱらってある。

 街中だったら従魔契約を強制解除させることもできるそうなんだが、さすがに街道じゃそんなことはできないし、野良グラントプスになられても迷惑だから、そうするしかなかったんだよな。


 まあワイバーンの所在は、オーダーズギルドが取り調べで聞き出してくれるだろうから、そこまで気にしなくてもいいか。


「リアラとダートは私と違い、君達への恩返しのために参加を希望している。クリスも参加したがっていたんだが、今回は2人に経験を積ませたかったから、遠慮してもらったというわけだ。それにフィールのハイオーダーも参加するんだから、フィールの守りを疎かにするわけにもいかないからな」


 なるほど、経験か。

 俺もある意味じゃ似たようなもんだから、気持ちはわからなくもない。


 それにしても恩返しって、別にそんなつもりはなかったんだけどな。


 クリスさんは35歳で、エスコート・オーダーの副隊長を務めている。

 経験も豊富だから、今回は若いリアラとダート、そしてミューズさんに譲ったって事みたいだ。

 だからクリスさんは、アライアンス中はローズマリーさんと共に、フィールの守りを固めてくれることになっているぞ。

 ちなみに結婚していて、お子さんは間もなく成人するらしい。


「恩返しって言われても、あたし達にそんなつもりはなかったわよ。そもそも連中の捕縛、あるいは殺害は、あたし達への指名依頼でもあったんだし」

「君達にとってはそうでも、こちらにとってはそうじゃないんだ。同僚の遺体も回収してきてくれたし、何よりユーリアナ殿下を守ってくれたんだからな」


 そんなもんかね?

 アミスターのハンターなら、ほとんどは同じことをしてくれると思うけどな。

 他国のハンターはレティセンシアぐらいしか知らないから、何とも言えないが。


 ともかくオーダーの紹介も終わったから、後は飲んで食って、明日への英気を養うとするか。

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