14.逢瀬は成れど穏やかならざり 5
回転率をあげないと行列がいつまでも消化されないので、ボートがやってくると係員が急かすようにふたりを促す。
「では前のひとから座ってくださいねー、しっかりハンドルを握りましたかー?じゃあ後ろのひとは前のひとにしっかりしがみついてください、いいですかー?」
「え、ええ!?はい、はい!?」
「はーい!」
うやむやのまま勢い前に座らされて完全に狼狽している不二をよそに、元気の良い新田は前に座らせた彼にしっかりとしがみ付いた。
「これはリアルな70のC!」
「やめろ公共の場でなに言ってるんだキミは」
「すみませんでしたっ!」
「ぷふっ…で、出まーす!お気をつけて!!」
痴話に半笑いの係員がそれでも滞りなくボートを発射した。右急カーブ、即座に左急カーブ、そのたびに新田が不二の体を締め付ける。
「こ、これはなかなかぁ」
新田がスライダーの振りに堪えながら呟く。
「こ、これはなかなかぁ」
不二も新田の締め付けに堪えながら呟く。
なるほど恋人たちの定番と呼ばれるだけのことはある。
普段は制服越しの視覚でしか感じられない、彼女が居眠りしていたときに僅かに意識した程度のそれが、しかし今は水着という布一枚を隔てて密着している。
そう、密着である。
急なカーブを右へ左へ舵を切るたびに、高低差を飛び越えるたびに背中に伝わる圧倒的な存在感!
そもそも物心ついてから一度たりとも触った記憶のない彼にとって、今この瞬間も背中で実在が証明され続けているふくらみにサイズなんて概念は些細な問題でしかなかった。
思惑とは違う結果になったけれども、迂闊に能動的に手の置き場を決めるより遥かに大きな、なにものにも変え難い大きな収穫だったといえよう。
深い感慨と共に、ボートはスライダー出口へとたどり着いた。
不二はのちにこのワンシーンはまるで一瞬のような永遠のような不思議な体験だったと語る。
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