12.1.新田先輩のちょっとした小話 2
それは昼と夜の間に僅かに在る黄昏のとき。
ひとけの無い道を歩いていると突然後ろから声をかけられるんだ。
振り返ればそこには小さな女の子が立っている。
これと言って特徴のない、相応に季節感のある服装の少女は、けれどもその表情が恐ろしいのさ。
この世の全てを憎んでいるかのような、年端もいかない少女がこんな顔をするのかと思わずにはいられない表情で見上げて来るんだ。
少女の差し出した右手には石ころが乗っていて。
その石はよく見るとただの石ころじゃなくて、なんだかわからないけれど輝きを放つところもある、混ざり合ってるとでも言えばいいのかな。
とにかくところどころで輝いてるような気もするその石ころを足元に捨てるように転がして来るんだ。
そうしてひと言。
「落としましたよ」
落としましたよ、だって。
さすがの私も少し笑ってしまうよ。落としたのはキミじゃないかってね。
けれどもそう、察したね?この手のやり取りには必ず法則がある。落とした石をどうするかは、そのままフラグになるんだよね。
でもさあ、そんな険しい顔した少女が露骨に投げて寄越したような石、普通は拾わないよね。
わかる、わかるよ。そうあるべきだし、そういうディレクションなんだ。
だから、拾わない。
だからこそ、拾わねばならない。
にもかかわらず、拾わない。
ひとは自ら拾うべきものを自ら拾わないように選んでしまう。選ばせてしまう。
怪異とはそういうものなのさ。
捨てるとか、拾うとか。
ふふ、もう一歩踏み込んで察してきたね。
その石ころがなんだったのか。
おや、どうしたのかな?なにか心当たりがあるような顔をして。
ふふん。さっきの少女を無碍にしたことを気にしているのかい?
キミも存外ひとがいいというか小心者というか。まあ、そういうところが可愛いのだけれど。
さて、ご存知の通り聖人君子である私は。
おやなんだいその顔は。
私は聖人君子だろう?キミがそれを否定するとは思えないけれども。
だって、ねえ?
これ、なーんだ?
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