一杯引っかける

 なんと甘美な響きだろうか。

 飲んだくれとはワケが違う。いかにも飲み慣れていそうなセリフ。私は酒は酔うためにあると思っていて、不幸にも酒に強いものだから、四杯五杯と頼み、終いにはアルコールが入っているならなんでも持って来い、という具合だが、そんなのが受け入れられるのは、大学生のバカな飲み会ぐらいだ。


 しかし、そんな私が、偶然にも「一杯引っかける」その境地に少しだけ近付いたのだ。まだ陽も高いうちに店に入り、名物の酒がある店なので、また、定食を出すような店でもなく、酒を少しと、大学生の時分であったなら、目の玉が飛び出たであろう価格のつまみを、二品頼み、それで終わりとしたのだ。

 泥酔でもなく、また、全然酔っていないわけでもなく、実にいい心地であった。腹もそこそこで、いかにも外出したい感じ。これが一杯引っかけるということなのかと、得した気分で帰路についた。

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