第Ⅳ章 オルガの願い
第51話 浸食
リーズナ視点
最近、よく夢を見るの。
「あなたみたいな性悪女はこうなるのがお似合いよ」
そう言って性悪女のスカーレットがお茶会で私の頭から紅茶をかけて嘲笑う。
お茶会に招待した令嬢たちは「あらあら、可哀そう」と言いながらクスクス笑う。
私は公爵令嬢なのにとキッと睨みつけると「こわーい」と言いながらスカーレットがクスクス笑う。
平民の分際で生意気ね。
「邪魔よ。私の道を塞がないで、平民風情が」
はぁ!?
平民はアンタでしょうって文句を言いたいけど腹部をスカーレットに蹴られた痛みのせいで言葉が詰まって何も言えない。
王都の往来で、平民とは言え人の目がある場所で私に暴力を振るった挙句に見下すなんて頭おかしいんじゃないの。
◇◇◇
最近、周囲の様子がおかしいことに気づいた。
「ねぇ、今度お茶会を開くのだけど」
「ご、ごめんなさい。私、用がありまして」
いつも喜んで私のお茶会に参加してくれるお友達がなぜか怯えたような目で私を見て逃げ出す。他の子たちも蜘蛛の子を散らすように。
「な、何?」
お友達だけではない。周囲の者たちが私に怯えている。それは彼女たちだけではなかった。
邸の使用人もだ。
カタカタと震えながらメイドが私の前にお茶を置く。
「ありがとう」
「ひっ。い、いいえ。失礼します」
「何よ。失礼ね」
私は出そうになるあくびを噛み殺しながらお茶を飲む。最近、夜更かしをしたわけなじゃないのに眠いのだ。あまりにも眠くて昼寝や夕寝をしたり、早めに就寝しても眠くてたまらない。
何か変な病気にでもなってしまったのかしら。
「夕食の時にでもお父様たちに相談してみようかしら」
「おい、リーズナ」
エヴァンお兄様がノックもせずに乱暴にドアを開けて許可もなく私の部屋に入って来た。
いつもはそんな乱暴なことしないのにと驚いている私をエヴァンお兄様が冷たい目を向ける。
こんな目をお兄様に向けられたことは今までなかった。
「お前、最近どうしたんだ?あまりにも酷すぎていろんなところから苦情の嵐だ」
「は?」
エヴァンお兄様が何をそんなに怒っているのか分からない。
苦情の嵐?
何か失敗をした?
記憶を探るけど何も思い出せない。
「仰る意味が分かりません。私、お兄様の迷惑になるような失態をしてしまいましたか?」
覚えがなくても何かしたというのならいつも通り自分の可愛さを出して、首を傾げる。これで十分だろうと思った。ところがエヴァンお兄様の怒りは増すばかり。
意味が分からない。スカーレットじゃあるまいし、私が失態を犯すわけがないじゃない。仮に失態を犯したとしてもどうせ大したことがないのだから笑って許してくれてもいいと思う。エヴァンお兄様は心が狭すぎるのよ。
「ふざけるのもいい加減にしろっ!お茶会に招待した令嬢の態度が気に食わないからと頭からお茶かをかけ嘲笑ったそうだな」
「は?」
「他にも往来で平民の子供に暴行を加えたと。止めに入った騎士には身分を振りかざしたそうだな」
まるで身に覚えがない。
「私がそんなことをするわけが」
待てよ。
最近見る夢を思い出す。そうか、あれは夢ではなかったのだ。最近、寝てばかりいるから夢と現実がこんがらがってしまったのね。確か、夢の中ではスカーレット!そうよ!スカーレットが確かそんなことをしていたわ。
あまりにも酷い仕打ちに私が夢だと勘違いしたのよ。
あの女、ついに本性を現したのね。見てらっしゃい。今度こそ公爵家を追い出してやる。泣いて縋るのなら私の侍女としてこき使ってやってもいいわね。私は優しいから。
「お兄様、それをやったのは私ではありません。スカーレットですわ」
ぶちり。
太い線が切れるような音がした。もちろん、実際には聞こえていない。それはただの錯覚だ。
「お前がやったと多くの目撃証言があるんだぞっ!」
「そんなのスカーレットが買収したに決まってますっ!」
それぐらい少し考えれば分かるでしょう。エヴァンお兄様って馬鹿とまでは言わないけどノルウェンお兄様に比べて思考が短絡的なのよね。
「それは不可能だ」
私の言葉を否定したのはエヴァンお兄様ではなくノルウェンお兄様だった。どうして、みんな私の許可も得ずに部屋に入って来るのかしら。
「かなりの数の目撃者だ。あれだけの数を買収するお金はスカーレットにはない。それに目撃者の中には有力貴族だっているし、お前がお茶かをかけたとされる令嬢は辺境伯のご令嬢だ」
「ノルウェンお兄様、私は」
「言い訳なら父上にするといい。父上が呼んでいる。書斎に行きなさい」
それだけ言ってノルウェンお兄様は出て行った。エヴァンお兄様もその後に続く。
私がしたわけじゃないのに。私のことを誰も信じてくれない。ノルウェンお兄様は私の言葉を聞こうとすらしてくれなかった。
「何なのよっ!もうぉっ!」
◇◇◇
???視点
心地が良い。
この女の心はどす黒く、何と心地が良いのか。ああ、あの方が仰った通り。この私にぴったりの宿主だ。
私好みのヘドロをまき散らしたような悪臭がする魂。
憎悪、嫉妬、疑心、怒り。
この魂は負の感情に満ち溢れている。
だけどまだ足りない。もっとだ。もっと、もっと黒に染まれ。さぁ。どんどんどんどん、私の色に染まり堕ちておいで。私の元へ。
そうしたら、食ってやろう。跡形もなく、その魂を。食いつくしやろう。
◇◇◇
ノエル視点
「ふふふ。上手くいった」
エリザベート・バートリが何かを召喚したのは知っていた。そして扱いきれずに逆に殺されたのも。
間抜けな女だった。
でも役に立った。
あの女。リーズナ。あいつだけは許すつもりはなかった。
何度も、何度も。スカーレットを苦しめ、殺した。
ただ殺すのはつまらない。
だらか俺はエリザベート・バートリが召喚したものをリーズナの元へ導いた。きっとリーズナならいい餌になると思った。
思った通り。汚物のような汚らしい魂を持ったリーズナは奴のお眼鏡にかなった。
後は彼女が壊れるのを待つだけ。
「君も全てを失うといい。スカーレットのように」
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