第14話 みんな敵だった

「お嬢様、何か目当ての物でもあるんですか?」


「目当ての物がないと城下に下りることもダメなの?」


「いえ、そういうわけでは」


城下に行くと言った時、護衛は若干面倒くさそうな顔をしていた。


まぁ、部屋に籠っている方が護衛側としては楽だろう。


「気分転換がしたいのなら城下に行かなくともお庭でよろしいのではないですか?」


「いつから護衛は主人に意見できるほど偉くなったの?」


「申し訳ありません」


リーズナなら彼らもそんなこと言わなかっただろう。


分かっている。正妻の子ではなく妾腹に仕えることになった彼らが私に対して不満を抱いていることは。


私は苛立ちながら馬車に乗る。


城下に行きたい。それが我儘だとでも言うのだろうか。


「今まで邸にこもりっきりだったのに」


「何で急に城下に行きたいなんて言い出したんだろう」


「知るか。邸の中で大人しくしてりゃあいいのに」


馬車の外から護衛二人の不満の声が聞こえる。


「陰口は陰で言うものよ。本人の、ましてや主人の前で言うものではないわね」


「‥…」


「‥…」


護衛たちのお喋りが止んだ。聞こえているとは思わなかったのだろう。


一緒に馬車に乗ったエリーシャは我関せずといった感じだ。


主人が護衛に馬鹿にされているのに彼らを注意することもしないのね。


私は気づかれないようにそっとため息をついた。


息が詰まる。


行く前から何だか疲れたわね。




◇◇◇




「いらっしゃいませ」


「適当に見て回るから」


「畏まりました」


取り敢えず今人気のブティックに来てみた。


ドレスを幾つか新調しておこうかしら。


いえ、まだ必要ないわね。お茶会のお誘いがあるわけでもないし、社交界に出られる年齢でもないものね。


素敵なドレスがたくさんあるけど何だか疲れていて気分ではないわね。


結局、お店に入って数分もせずに出てしまった。


どうしよう、もう帰ろうかしら。


でもあまり邸にもいたくないわね。


特に当てもなく歩いていると横道から思いっきり腕を引っ張られた。


「お嬢様っ!」


「っ」


思いっきり引っ張られたので地面に顔をぶつけてしまった。


護衛がいるにも関わらず簡単に悪漢の接近を許すなんて。


「ぐっ」


背後で呻く声が聞こえたので視線を向けると私の護衛二人が悪漢にやられていた。


「‥‥‥」


あり得ない。


こんなに弱いなんて、どういうこと。


初めから守る気がなかったってこと?


それにこの悪漢は私の腕を引っ張って路地裏に連れ込んだ。ということは私狙い?


誰に命じられて。


大通りからは少し離れてしまっている。大声を出せば気づいてもらえるだろうけど助けが来る前に殺される確率が高い。


彼らの狙いは何?


私の命?


「悪く思うなよ、お嬢ちゃん」


男の手には剣が握られている。


命だ。


「しかし別嬪なお嬢ちゃんだな。殺すよりも売っちまった方が良いんじゃねぇか?」


ひょろ長の男が私の前にいる悪漢に提案する。


「ダメだ。先方は殺せと言っている」


「可哀そうに。貴族っておっかねぇな。こんな子供を殺させるなんて」


彼らの雇い主は貴族。身代金ではなく命が目的。


雇い公爵家の関係者。


公爵家本家、父か義母、義兄の二人後は親戚筋。


私の命が狙いということはオルガの心臓。私を殺して正当な血筋にオルガの心臓を継承させるため。


護衛が簡単にやられた。つまり、護衛も彼らとグルの可能性がある。


どうする?どうやってこの場を乗り切る。


オルガの心臓を暴走させる?


被害はどれくらいになる。


分からない。でも、死にたくはない。


「っ」


可能性にかけるしかない。


大丈夫、集中して。


「な、なんだぁ!?」


体を巡る血液が沸騰する。


全身から力が抜けて行くのが分かる。頭がグルグルする。


私を中心に地面にひびが入っていく。


悪漢たちが後ずさりするのが足音で分かる。


大丈夫、上手くいっている。


「お、おい、どうするよ」


「どうするって、くそっ。怯えることねぇ、こんなのただの脅しだ」


大柄な男が持っていた剣を振り上げる。


まずい。どうする?どうすればいい?


「何してるの?」


大柄の男が振り上げた剣が振り下ろされることはなかった。


男は剣を振り上げたまま動けないようだ。


誰か分からないけど背後から男の振り上げた剣を掴んでいるようだ。

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