第3話 太郎とシバオ

―太郎編―

 集合住宅にある二階建ての平凡な一軒家。そこに住む太郎君(9)は友達や親にも秘密にしていることがある。それは太郎君の家の裏庭で飼っている雄の柴犬シバオ(2)と意思の疎通ができるということだ。太郎君はなんと犬の言葉が分かるのである。

 午後十七時、太郎君が学校から帰宅し鞄を玄関に投げ捨て、裏庭のシバオのもとへリールを持って現れる。

 太郎君を目撃したシバオは「ハッハッハッ!」と息を荒くしながら小屋の周りの柵に前足をかけて何度もジャンプをする。太郎君は息遣いからもシバオの言葉が分かる。

 太郎君にはこの「ハッハッハッ!」の息遣いが、

 『太郎さん、今日も小学校お疲れ様でした!』

 と理解できる。

 「待たせたな、シバオ!」

 意気揚々と従者であるシバオに声かける太郎君。

 「ワンワン!ハッハッハッ!」

 シバオが急かすように吠える。これも太郎君は人語で理解できる。

 『学校務めの直後なのにボクのために来てくれてありがとうございます!』

 「良いってことよ!」

 太郎君は誇らしげにシバオの首輪にリードを付けて散歩へと行く。

―シバオ編―

 集合住宅にある二階建ての平凡な一軒家の裏庭にいる雄の柴犬シバオ(2)には友達や親にも秘密にしていることがある。シバオはなんと人の言葉が分かるのである。

 午後十七時、太郎君が裏庭のシバオのもとへリールを持って現れた。

  太郎君を目撃したシバオは「お前、どういうことだよ?どれだけこのおれを待たせるのか!」と息を荒くしながら小屋の周りの柵に前足をかけて何度もジャンプをしながら「なめてんのか!?あぁ!?」と怒鳴る。すると太郎君は、

「―――、―――!」と口角を上げ人語で話す。シバオは太郎君の人語が分かる。太郎君はこう話したのだ。

 『シバオ様すみません、私がダメなばかりにこんなに遅れました!』だ。

 人間が口角をあげた時は大体謝罪の意の印だ。

 「言い訳はいいっ!早くここから出せ!」

 『すみませんっ!』

 太郎はにんまりとより口角をあげる。謝罪の意の極みだ。

シバオはその表情に満足し太郎にリールを首輪に着けさせ、SPよろしく身を守ってもらうため、従者である太郎を前に置き、誇らしげに散歩へと行く。

 ―完―

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