現代ビートニク
@mizukawas
第1話花と電話
何所かの森の奥にある草原で、少女とぬいぐるみの様な風貌の動物達は楽しく花を摘んでいる。
辺り一面、お花畑。赤、青、緑、黄色……いろんな色のきれいなお花。ワタシの周りには、クマさん、うさぎさん、キツネさん、子イヌさん達の動物が何十匹も集まって、みんなにっこり笑ってる。ワタシもにっこり笑っちゃう。太陽は暖かく、お空は青一色。ただ気になるのが、お花畑の所々に白い色の四角い縦長の台があって、その上には青い電話機が置いてあること…………。
クマさんがワタシたちに向かって、
「花積み楽しいね」と笑顔で言ってきた。
ワタシたちは笑顔で「うんっ!」と大きな声で答える。
赤や青、緑、黄色、いろんな色のお花を摘んで、花束を作ったり、摘んだお花をみんなで見せ合ったりして楽しいな。
日が沈み、夜になると私はクマさんの丸太で作った大きな木の家に泊めてもらう。そして朝になるとまた動物さん達とお花を摘むの。
幾日もの日々がそうして過ぎていく中で、あの電話機以外に気になることが二つできた。
ワタシは一体どこから来て、いつからこの森の中にいるのだろうか。そして日が経つにつれ、初めは数え切れないくらいいた動物さん達の数がしだいに減り、今一緒にお花を摘んでいる動物さんは、クマさん、うさぎさん、キツネさん、子イヌさんが一匹ずつの計四匹になってしまったこと。
そのことをクマさんに訊ねるとクマさんは、「そんなこと考えなくてもいいんだよ。大丈夫だよ」と笑顔で返される。ワタシはクマさんがそう言うならと納得した。
ある日のこと、いつものようにみんなと楽しくお花を摘んでいると、
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
急に、私の前方にある白色の台の方から音が鳴り響き出した。
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
一定のリズムで鳴り響くその音は、台の上の青い電話機からのコール音であった。
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
次第にそこら中から鳴り響き出した電話のコール音……ワタシはどうすることもできず、困惑していると、
「前にも話したよね?あれはそういう物なんだ。初めて聞く音だからびっくりしたんだね。気にしないで」と、クマさんが笑顔で私に向かってそう声をかける。
「でも……」それでもわたしは不安になってしまう……。
「大丈夫だよ!」今度はキツネさんが、不安でいる私に向かって強めな口調と共に笑顔を見せる。
その間も、
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
電話は鳴り響く……。
子イヌさんがワタシの左の肩に手をポンっとのせ、笑顔で、
「さあ、花を摘もう」しかしその声は笑顔とは裏腹に、圧力を感じさせるものがあった。
プルルルルルルルッ!
うさぎさんも、
「摘もう?」と笑顔。
動物さん達の異様な圧力に委縮してしまったワタシは、
「……うん」と促されるままに答えていた。
再度、花を摘み始めるものの……
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
やはり電話が気になる。うるさい。
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
みんなは気にならないのだろうか?そう思いクマさん達を見ると、みんなにこやかに、まるで電話の音が聞こえていないかのように花を摘んでいる……。
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
そこら中から鳴り響く……まるで「早く電話に出ろ!」と、怒っているみたいに…………。
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
……もうダメっ!気が狂いそう!
ワタシは我慢できず、受話器を取ろうとする。
「だめだっ!!」
うしろから大きな怒鳴り声。ワタシはあまりの大声に驚き、一瞬硬直する。後ろを振り向くと、そこにはなんとそんな大声を出すとは思えないクマさんがいた。クマさんは危機迫る顔で眉間に皺を寄せながら私を見ていた。今までのにこやかな顔をしていたクマさんからは想像ができない……。
「気にしちゃだめだ」クマさんがゆっくりと、それでいて怒気のある口調でワタシに近づいてくる。
プルルルルルルルッ!
「だけど……」気にしちゃだめと言われてもこの騒音が気にならないわけがない。しかしワタシは、クマさんの怒気に少したじろいでしまって口籠る。
プルルルルルルルッ!
「その電話に出ると終わってしまうんだ」クマさんが意味深なことを言う。
「終わる?」クマさんの言っていることがよくわからない。
プルルルルルルルッ!
「うん。そして一旦終わったら、次いつ始まるのかもわからない……もう始まらないかもしれない」クマさんは悲しそうな表情を浮かべていた。
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
辺りは暗くなりはじめ、さっきまで真上にあった太陽はいつの間にか西の方角へと、地平線に半分沈みかけていた。
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
プルルルルルルルッ!
「始まらないって何が?何が終わるの?」
プルルルルルルルッ!
「この日常が終わるんだよ……だからそうならないように気にせず花を摘もうよ」
クマさん笑顔。だけど作り笑顔。ワタシの意識を電話から遠ざけようと必死そう……。
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
ワタシはクマさんの言う通りにし、またまた花を摘み始めた。クマさんの言う通りにして間違ったことは一度もなかったから。
プルルルルルルルッ!
花はとても、とてもキレイ……
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
積むのだってとっても楽しい……
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
だけど今は…
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
こんな状況じゃあ…
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルップルルルルルルルッ!
楽しいことも、もう楽しく…
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
…………
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!
…………………………
プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルルルルルルッ!プルルル
「うるさーーーーいっ!!!!」
ワタシは初めてクマさんに逆らい、白い台の方へ、電話に出るために全速力で走った。察したクマさんたちがワタシを止めようと、必死な形相でこちらに駆けてくる。
―「その電話に出ると終わってしまうんだ」―
ふいに、クマさんの言葉が頭をよぎる。〝終わる〟……。
この電話に出れば、今までのような楽しいことだけではない何か〝たいへん〟なことがワタシの身にふりかかる気がした。それでもこの電話に出るのは、もうこのコール音がうるさすぎて楽しかったことが楽しくないからだ……もし、この電話に出ずに、この着信音を我慢しながらクマさん達とお花を摘んだとしても、さっきまでの電話が鳴っていなかった頃のような楽しい日々はもう戻ってはこないだろう……。
わたしは覚悟を決め、受話器を持ち上げる。
ガチャ……
受話器を持ち上げた途端、クマさんたちはパッと消えてしまった。それはホントにパッというように一瞬で消えてしまったのだ。さらにクマさん達が消えたと同時に、先ほどまでキレイに咲いていたお花畑のお花はほとんど枯れてしまっていた……。
どうして?と、頭の中が〝?〟でいっぱいになり混乱しながらも、ワタシは受話器を耳にあて、「もしもし……」と声を震わせながら通話口に声をかける。
「ようこそ。君は人間になってしまった。だから、さようなら」
向こうからの声。受話器から聞こえてきたその声は、冷静でいて単調な機械的な声だった。
「失敗か?」
「そのようですね」
「何故だ?」
「“感情”を植え付けるからではないでしょうか」
「……何故私はそんなことをする?」
「寂しいからでしょう。あなたみたいなものは他にいませんから」
「君は違うのか?」
「あなたの好みに合うように限りなく似せているだけのまったく別物ですよ」
「そうだな。……人間の失敗はだな。リンゴを食べてしまったことだよ。人間は不自由という土壌、地面を欲しがり手に入れた。
しかし今度は不自由を切り離して自由だけを求めはじめた。だから滅びたのだ。愚かだよ」
「ならば、あなたと我々も同じように滅びますね」
「そうはならないよ。私は、我々は人間と違いリセットがきくから。耐えうるモノのみを抽出すれば良い。何度も見つかるまで。再度始めろ」
「では、一六七四回目の実験を行います」
何所かの森の奥にある草原で、少女とぬいぐるみの様な風貌の動物達は楽しく花を摘んでいる。
辺り一面、お花畑。赤、青、緑、黄色……いろんな色のきれいなお花。ワタシの周りには、クマさん、うさぎさん、キツネさん、子イヌさん達の動物が何十匹も集まって、みんなにっこり笑ってる。ワタシもにっこり笑っちゃう。太陽は暖かく、お空は青一色。ただ気になるのが、お花畑の所々に白い色の四角い縦長の台があって、その上には青い電話機が置いてあること…………。
完
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