会敵22 誘拐
「おい! ミカド説明しろ!」
通信使ごときでは、話にならない。責任者出てこいだ。
“すまない。レオ。俺達はこの村に潜む大切な客人を連れ帰らなければならないんだ。黙っていて悪かった。君達が発見した者がいたら俺に連絡をくれ、俺達で何とかする。君たちが撃つ必要なはい。それで許してくれ”
やはりな。この作戦自体に違和感があったが俺達に隠しておきたかった情報。村の何者かを連れて行く。誘拐か……
集落では交戦なども無く八割方の家宅を捜索されていて、その村人すべてが街の中央にある広場へと集められている。特別に拘束などをしている様な様子は無いが、集めた村人の周辺に7人の兵士が取り囲んでいるのが普通の景色との違いを際立たせていた。
「レオ、あれ」
インカムのスイッチを切っているミアが俺の肩を叩いて村の一軒の小さな住居から、周囲の様子を伺う様に顔をのぞかせている女の姿を指し示した。
ここから一番近い家屋。集落の広場からは、丁度、陰になりミカドたちはまだ気付いていない。
俺は録画しているガンスコープの代わりに測距用モノスコープで様子を見ると、
20代、非武装、女性、髪の色、茶色で肩までの長さ、肌の色、白、スカートに黒のニット。ミアより少しお姉さんくらいの普通の女だ。
この
逃げる気だ!
このまま、撃てば当てられる。しかし、撃つ理由などない。ミカドに報告するか……
俺が、息を吸い込み発声するそのほんの一瞬前にミアが、
歌いだした。
ミア、まさか、お前、ミカドたちと戦う気じゃないよな?
ミアは切っていたインカムを繋いで全員のヘッドセットに生で歌声を送っている最中だ。当然、聞こえている奴らは高台の上に立ち両手を上げて熱唱中のミアに注目している。俺も、“お前!”って見てしまっている。
つまりは、ミアは女を逃がした。
自分に視線を集めることで一気にミカド達の気を引いたのだ。
女が逃げる街道が、広場から見えるほんの一瞬の隙間のところで、一気に注意を自分に向けさせた。その隙を、いや、完全にミアのタイミングでその唯一の、見つかりえる瞬間をミカド達から奪ったわけだ。
お前、バレたらその場で俺達が銃殺だぞ。
「アーメン。って、ごめんなさい。マイク入れっぱなしだったね」
わざとらしくやりやがって……歌いきって満足の笑みを浮かべている。違うな逃がしたことへの満足の笑みだろう。高台に吹き抜ける風が金髪を揺らし、それを手で押さえて遠くをミアは見ていた。
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