第3話 幼馴染

「おはよう!」

「おう、おはよ」


「なんだよ宙、元気ねえじゃん?」

「ん?そうか、普通だよ」


「おいおい、俺とおまえはガキの頃からの幼馴染おさななじみだろ。おまえの調子は一目見ればわかるんだよ」


美樹生みきお……おまえには嘘つけねぇな」

「やっぱ、で?どうした?」


「ん?あぁ、まぁなんていうか……」

「なんだよ。それじゃわかんねぇよ」


「あぁ、つまり……なんだよ。思春期ってことかな」

「なんだそりゃ?ん……あぁ!まさか、女?」


「ん?まぁ」

「マジで?!出来たの彼女?」


「違うよ。出来てりゃ悩まんだろ」

「そっか、じゃあ、片思いってやつ?」


「んー、まだよくわかんないんだけど」

「ふーん、なにどこのコよ?うちの学校?」


「いや、たぶん西高」

「マジ?じゃあおまえより頭いいじゃん」


「あぁ、確かに……」

「ふーん、じゃあ、なに、優等生タイプ?おまえそういうの趣味だったっけ?まさかメガネっ娘とか?!」


「俺はオタクかよ。アキバ系じゃねぇってーの」

「そっか、まぁそういうタイプじゃないな。でも、じゃあ、どんなコよ」


「んーなんていうのかな。背が小さくて、でも、けっこう顔立ちがはっきりしてて、見方によっては美人系」

「なんかよくわからんなぁ。例えばタレントとか、誰似?」


「タレント?ん~誰だろ?最近のコじゃいないなぁ」

「女優とかは?」


「女優?ん~、あぁ、蒼井恵」

「蒼井恵?あぁ、あの人ね。わかるけど、目がクリッとしててかわいい感じ?」


「うん、笑ってる顔がかわいい。でも、黙ってると美人」

「ふーん、マジで惚れたな。おまえが何かに夢中な時って前見えてないから、わかるよ」


「どういう意味だよ。マジでかわいいんだよ」

「実物を拝まないとな。それにおまえの趣味ってイマイチわからんから」


「じゃあ、会わせてやるよ」

「え?会えるの?片思いじゃないわけ?電車男みたいに声もかけられないみたいな」


「違うよ。話も出来るし、SNSだって知ってるよ」

「え?ゲットしてんの?じゃあ、全然OKじゃん。片思いじゃねぇじゃんよ」


「違うんだよ。でも、彼氏いるんだよ。彼女には」

「え?なにそれ?わけわからん」


「だから話すと長くなんだけど……」

宙は美樹生に今までのいきさつを話した。


「へぇ、そんなドラマみたいな出会いってあるんだ。でも、彼氏の誕生日プレゼントを買いに行かされたのが初デートかよ」

「デートじゃねぇよ」


「悪い悪い。怒んなよ。でも、次に会えるのはそのハンカチ返す時で、それ返したらサヨナラだろ?」

「ん……たぶんな」


「たぶんな。ってそれで言いわけ?」

「いいも悪いも仕方ないじゃん。どうしようも出来ないし」


「どうしようも出来ないじゃねぇだろ。とっちゃえよ。その彼氏から」

「どうやって?それに彼氏も西高だろうし……勝ち目あるわけないじゃん」


「恋は学歴ですんじゃねぇだろ。男ならビシッと決めてこいよ」

「ビシッとも何も、相手は俺のことなんてなんとも思ってないし、どうしようもねぇだろ」


「なにビビッてんだよ。よし!ハンカチ返す時、俺がついていく。その絵羽ちゃんにコクれ」

「おいおい、なんでいきなりコクるんだよ。意味わかんねぇじゃん。嫌がられるに決まってるだろ」


「そんなのやってみなきゃわかんねぇだろ。もしかしたら彼氏とうまくいってないかもしれないし」

「ありえない。だって誕生日に彼氏にオリジナルマグカップ作るんだぞ。しかも五千円もすんだぞ。おまえ好きでもない女に五千円も使うか?」


「そりゃ使わんけど。でも、必ずしも二人の関係がハッピーとは限らんだろ」

「そりゃそうだけど……とにかく今度あってコクるなんてできねぇよ」


「うーん、じゃあ、せめてもう一回会う口実を作れ」

「どうやって?」


「うーん。ハンカチ借りたお礼にお茶でも奢るからとかなんとかいってさ」

「お礼?なんか変じゃない?」


「変じゃないよ。いきさつはともかく、ハンカチを借りたのは確かだし。お礼は変じゃない」

「そっかなぁ。まぁ、いいや、試してみるよ」


「いつ返すんだよ?」

「夕べ洗濯したから。もう乾いてるだろうし。今日メールして明日にでも会えれば会うよ」

「ふーん」


「おい?なんか企んでない?」

「え?なにが?何いってんの宙ちゃん」

 美樹生は、にやりと笑って宙の肩をポンっと叩いた。


「あやしい……絶対何か企んでる」

「めっそうもない。さっ授業始まるよん!」



 

 宙は、放課後少しドキドキしながら絵羽にメールをしてみた。ほどなく返事が返ってきた。

『了解です。明日大丈夫だよ。時間も五時でOK!楽しみにしてるね。じゃ!(^_-)-☆弟へ姉より』


「弟へ?姉より?なんじゃそりゃ?あははは、子ども扱いじゃん」

 隣で盗み見をしていた美樹生が笑った。


「うるせぇな。言ったろ、店で馬鹿にされたって」

「聞いてたけど……おっかしいな絵羽ちゃんって」


「なんだかなぁ。やっぱ望み薄でしょ。弟扱いじゃ」

「そうでもねぇよ。ほら、女って精神年齢はやっぱ上じゃん。だから、逆に母性本能くすぐる感じでいったらいいかも」


「母性本能?おまえ、勉強できねぇくせにそういうことだけは言葉よく出てくんな」

「ほっとけ!宙が心配だから言ってやってるんだろ」


「わかったよ。じゃあ、とにかく明日会ってくる。で、お茶誘ってみるよ」

「ほいほい。がんばれよ。じゃ、俺部活行くから」


「おう、じゃあな。また明日」


 

 そのまま家に帰った宙は家の手伝いで仏具店の店番をしていた。


「よう、宙!」

 部活帰りの美樹生が店に来た。


「なんだ、美樹生?なんか用?」

「あぁ、えっと明日って、ほら、絵羽ちゃんと会うの。ショッピングモールのとこだよな?」


「え?そうだけど……やっぱ、なんか企んでるだろ?」

「いやいや、別に。ちょっと心配だったからさ」


「なんだそれ?わけわからん。あ?まさか来る気じゃないだろな?」

「いやいや、そんなことするわけないじゃん。でも、宙見せてくれるって言ったよな?」


「いや、やっぱ無理。別に彼女でもないんだから会わせるなんてできるわけないじゃん」

「ふーん、そう。ま、いいや。じゃあ疲れたから帰るわ、俺」


「なんだ?何しに来たんだおまえは?まぁ、いいや、気をつけてな」

「おう!じゃ明日」



 

明らかに美樹生は何か企んでいる。

でも、美樹生とは幼稚園からの付き合いだから、あいつが悪い奴でないことはよくわかってる。

中学の時も俺が好きになったコになかなかコクれないでいたら、美樹生が変わりに話をしてきてくれて、結局はふられたんだけどその後「ごめんな」て何度も謝って一緒に泣いてくれた。気がいい奴だ。

 

 部屋に戻った宙は干してあるハンカチを手に取ると、そっと匂いを嗅いだ。

「俺は何やってんだ。変態か……そうだ!」


「お袋!アイロンある?貸して!」

「アイロン、何すんの?ズボンにあてるならやってやるよ」


「いいよ。自分でやる」

「ん?押入れの中だよ。やけどすんなよ」


「大丈夫だよ、ガキじゃねえんだから」

「ったく、都合のいいときは大人にも子どもにもなるんだねぇ。いいねぇ高校生は」


「うるさいなぁ。とにかく借りるよ」

「はいはい、使ったらちゃんとしまっとくんだよ」


 

 宙は小学校の家庭科以来アイロンを使った。

「こんな感じかな。おぉ、上出来。ピシッとしたな。これなら絵羽ちゃんも喜んでくれるかな……って別に絵羽ちゃんのもの返すのに喜ぶわけないか……ははは」

 宙は、なぜか浮かれている自分がおかしくなった。

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