第22話 <帝都到着!>

 馬車はお城近くの住宅街で停まった。

 この辺りは確か貴族たちが住居を構える区画のはず。ここはそんな貴族の中でも、辺境伯以上の家が住居を構えることを許された場所。

 馬車が停まったのはペルスティアの家紋が表にある屋敷。ちゃんと家まで届けてくれたのね。

 荷物を降ろしていると、屋敷からメイドさんが慌てて飛び出してくる。私よりも少し年上くらいの感じ。あ、滑って転けた。


「申し訳ありませんお嬢様! お荷物私がお部屋まで運んでおきます! お嬢様方はゆっくり帝都の観光などいかがでしょうか?」

「え、これを一人で?」

「一人……? あーっ! お嬢様が来ることを忘れてて皆を買物に行かせちゃった!!」


 ……えーと? この人大丈夫かな? 少し不安になってきた……。


「ところで、あなたは?」

「あっ、そうでした! 私はリコレット=レアといいます。この屋敷でメイド長をさせていただいていて、その、準男爵家の出身でして……」

「そうなのね。私はリリ。よろしくっ」

「私はイリヤです。そして、こちらがリリス」

「みゃーあ!」


 元気よく挨拶するリリスに、リコレットさんも頬を緩ませる。少しは緊張が解れたかな?

 それにしても、リコレットさんは準男爵家なんだ。まぁ、なんとなく事情は察するけどね。

 準男爵家とは、簡単に言うと国の発展に役立つ成果を挙げた平民が特例的に爵位を与えられて生まれた貴族だ。冒険者だとか、魔法研究家だとかがそうかな?

 あ、余談をすると男爵家はちゃんと貴族だよ。紛らわしいけど。伯爵家以下は所有する領地の広さで爵位が違うの。

 で、頭の中がさび付いた古くさい考えの貴族は準男爵家を見下しているのよねぇ。お前たちよりもよっぽど国に貢献している人たちだっての。

 まぁ、私の言いたいことは別として、これは冒険者から成り上がった家に多いことなんだけど、見下されたことでプライドが傷つけられて家の地位向上に躍起になる人がいるのよ。

 娘を身分の高い家に奉公に出すことで、あわよくば上位貴族の嫡子の目に留まるんじゃないかって感じでね。それを考えるとうちみたいな辺境伯はいい奉公先ね。

 なーんて思っていたけど、よく考えるとなぜペルスティア? 基本的に原因は私にあるんだけど、お父さんもお母さんもあまりパーティーなんかは開かないし子どもは私とお姉様。つまりは令嬢二人。

 他の貴族との交流は多いけど……それなら他に二つ辺境伯家があるのだからそっちに行けばいいんじゃない? 嫡子との接触機会なんて少ないよ?

 リコレットさんに手伝う旨を伝えて一緒に荷物を降ろす。この間に聞いちゃうか。


「ねぇ。よければリコレットさんがうちで働いている理由を聞いてもいい?」

「え? いいですが、面白い話ではありませんよ?」


 そう、前置きされる。


「実家のレア家は、生活に役立つ魔法を開発したことで爵位をいただいた家なのです」


 あ、違った。魔法研究家の人から生まれた家だった。


「ですが、父は都市経営が上手くいかなくて……」


 準男爵家はあれなんだよね。領地じゃなくて都市の管理を任せられているんだよね。


「それで、多額の借金を背負ってしまったのです。私が体を売っても返せないほどの額の返済を迫られていましたが、そんな時にティナ様に助けていただきました。メイドとして働くことを条件に借金の半分を立て替えていただき、さらには返済期限を利息なしで延ばすよう口添えしていただいたのです」


 あー……二年かそこら辺くらい前だったかな? お父さんがお金関係でひっくり返ったことがあったけど……これかな? お母さん、なんてことを……。


「そ、そうなのね……」

「はい! そして、立て替えていただいた分はしっかり働いて返したいと思いメイドをやらせてもらっています!」


 なるほどね。理解した。


「それに……」

「ん?」

「お嬢様には、父が感謝していました。ティナ様にリリ様の魔法についていろいろ教えていただいたから、研究がはかどり国から多額の支援金がいただけて都市も魔法の都市として軌道に乗りそうだって。借金も数年以内に返せそうです」

「あぁ。リコレットさんの家は魔導都市ガングレリにあるのね」


 ここ最近、急速に魔導具で発展した都市がガングレリ。噂程度に聞くだけだったけど、そういう事情が……。


「っておおい! 個人情報保護法わい!?」


 この世界にそんなものないけど、情報は命に等しいよ!? 何勝手に娘の魔法をいろいろ公開してくれてるの!?

 ま、まぁ、ガングレリの噂を考えると生活魔法についてだけしか伝わってないと思うけど……それでも驚いたよ!

 クスクスと笑い声が聞こえる。後ろを見ると、イリヤが口に手を添えて笑っていた。


「リリ様、さっきから表情がころころ変わっていて面白いですよ」

「そう? ……あと、ここにいるときはいつもみたいに呼んでいいよ」

「では。リリは見ていると楽しい気持ちになりますね」

「私の心の傷で笑ってもらえると嬉しいよ……」


 なんとも言えない気持ちでいると、いつの間にか荷物をすべて運び終えていた。


「はい、おしまい」

「お疲れ様でした」

「ありがとう。ところで、お姉様は?」

「エスナお嬢様はまだ学校ですよ。リリお嬢様はどうします?」

「そうね。イリヤ、一緒に帝都を見て回らない?」

「分かりました。行きましょう」

「リリスはどうする?」

「にゃー……にゃっ」


 リリスはリコレットさんの腕の中で丸くなってしまった。これは、行かないという拒絶の意思ね。

 仕方がないから私とイリヤの二人で巡る。久々の帝都は楽しみ!


「じゃあ、私たちは帝都を巡るから」

「はい。お気を付けて」


 リコレットさんに見送られ、私とイリヤは遊びに出かける。

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