第29話 同じ穴の狢



 翌日、午前の授業中である。

 竜胆と福寿三姉妹(内、長女は故人)のドロドロな修羅場を知った敦盛は悩んでいた。

 一つ、奏には己の恋心は成就しそうに無い事。

 二つ、どうして瑠璃姫は敦盛のアプローチを拒んだこと。


(瑠璃姫の方は多分、……俺が奏を好きなことが嫌なんだ……と思う)


 絶対の自信はない、だがそうでなければ説明がつかない。

 己とかの幼馴染みの仲は、深くて長く、そして良好と言えよう。

 もし彼女が敦盛の事を愛しているなら、当然、奏と彼女を天秤にかけて両方を取ろうとしている現状は気に入らないだろう。


(どっちかを諦めたら楽になるけどさぁ……、いやこの考え方がダメなのか。――そう、ここは)


 どうすれば、彼女達にとって幸せになれるのか。

 敦盛ではなく、二人の女の子の幸せ。

 少なくとも、奏の望みは理解している。


(……奏さんへのアプローチじゃなくて、なら矛先は)


 そうする事はとても悔しいが、でも奏という女の子が幸せになるのならと。

 だから動くことにした。

 具体的には昼休みに入った瞬間、竜胆を校舎裏まで引っ張って。


(ったく、黙りこくりやがって……。絶対これ奏絡みだろ。しかし何を言うつもりだ? 離れろもつき合えもコイツの言動からして微妙な線だが)


(――――覚悟は決めた、あとは完遂するだけだッ)


(思えばコイツと瑠璃姫さんの仲も妙だよな、付き合ってても不思議じゃないぐらいの仲で。でも瑠璃姫さんは敦盛と奏を応援してる)


(これが正しいとは思えねェ、けどお前が悪いんだからな竜胆……)


 真剣な顔で熱く竜胆を見つめる敦盛、彼は一歩踏み出して。


(来るか……!)


 また一歩、また一歩と、距離が縮まる。

 これは話し合いの雰囲気ではない、竜胆は拳を握って敦盛の一挙手一投足を注視。

 そして、敦盛の右手が上がるグーではなくパーで。


(張り手っ! ――いや違うっ、これは…………)


「――――キス、しようぜ竜胆」


「………………は?」


「気づいたんだ、(奏さんの幸せの為には)お前とキスするべきだって」


「は? はぁっ!? ~~~~~~~っ!? な、なに言ってんだテメェっ!?」


 思わず一歩下がると、そこは壁。

 次の瞬間、顔の横にドンと手が付かれ。


「お前が(あくまで友人として)好きだ、(目的達成の為に)キスさせてくれ」


「気でも狂ったか敦盛っ!? いきなり何だよ俺にそんな気はねぇよ!! つかさっきから言葉の間を省略してっだろうテメェ!!」


「ふっ、俺を焦らす気か? 可愛いヤツだな竜胆……こいよクレバーに抱いてやるぜッ!!」


「ぬおおおおおおおおおっ!? 股間に手を延ばすんじゃねェ!!」


「ウルセェ!! とっととチンコ出しやがれ!! 友情のよしみでケツの処女は手を出さんが、俺の処女はくれてやるぞオラァ!!」


「ギャーース!! 敦盛が狂ったっ!?」


 途端に始まる追いかけっこ、しかし身体能力では竜胆の方が上。

 逃げきれる筈であったが、覚悟を決めた敦盛はカッターナイフを取り出して。


「――――いいぜ、テメェがその気ならバイオレンスに行かせて貰うッ! その服、無事だと思うなよ!!」


「いや待て待て待て待て待て待てぇ!! 訳をっ!! 話せっ!! 頼むからっ!! 俺の服をどうするつもりだ瑠璃姫さんが泣くぞ奏も泣くぞっ!!」


「…………………………ぐぬぬぬッ、お、俺は成し遂げると――――ッ」


 止まった、敦盛は葛藤するように顔を歪めて。

 これだ、これである。

 理由と原因は定かではないが、親友の目的は恐らく四角関係の脱出だろう。


「落ち着け、落ち着け、な? 落ち着いて話そう、俺が納得する理由を行ってくれたならば親友としてお前にケツを貸そう。不本意だが……俺の処女をやっても良い」


「…………本当か?」


「ああ、俺が納得の行く理由ならな」


「――――――ならば、全裸になれ。俺も全裸になる」


「…………………………分かった」


 男二人、服を脱ぎ始める。

 誰かに見られたら誤解ものだが、そもそも敦盛の行動を考えるとあながち誤解でもなく。


(敦盛は何をしようとした? 俺を犯そうと……目的は何だ、奏か瑠璃姫さんに関わること、俺の貞操を奪って二人の利益……いや、敦盛に利益が?)


(竜胆は頭が回るッ、今必死に俺の目的を考えている筈だ。――――はッ、誰が男なんか犯すかよフェイクに決まってるじゃねぇか!!)


(待った、アイツの奇行はもしかして全裸にさせる為のハッタリか!? 利益とかどうのこうのじゃねぇ、俺をこの場から逃げさせない為の――!?)


(ケケケ、気づいたな? 手が止まった、だがテメェはもうパンツを下ろしている!! もう遅いぜ!!)


 そう、全てはこの為の布石。

 今から話す事は、いつも竜胆が避けてきた事だ。

 同時に、敦盛が目を反らしていた事でもあって。


「――――脱いだな竜胆」


「ああ、脱いだぜ敦盛」


「言いたいことは分かるな?」


「…………奏の事だろう」


「そうだ」


「ったく、手の込んだ事しやがって。素直に男同士の話とか言えばいいじゃねぇか」


「何が男同士の話だ、俺に奏は相応しくないとか言って逃げるのがオチじゃねぇか」


「なら、分かるだろが。確かにこの状況じゃすぐに逃げれない。だがそれで俺の気持ちが変わるとでも?」


 男二人、フルチンで校舎裏で対峙。

 今までの答えを覆さない竜胆に、敦盛は拳を握りしめて腰を落とす。

 それを見た竜胆も右手を前に、左手は腰に構え。


「――――お前、奏さんの妹さんとも肉体関係持ってて、恋人が居た時からドロドロの四角関係だったんだって?」


「……………………………………マジ待って? 何で知ってるんだ?」


「奏さんから聞いたッ!! 分かるかッ!! 今の俺の気持ちッ!!」


「あー、つまり一発殴らせろと」


「違う」


「それじゃあ何か? 俺を犯してホモにして瑠璃姫さんも奏も両取りとか?」


「殺すぞ?」


「…………はっきり言え」


 そして敦盛は冷たい声で。


「――――いったいいつまで、死んだ人間に逃避してんだよテメェ」


「あ゛あ゛ん゛?」


 瞬間、竜胆の眉は釣り上がる。

 男二人の、全裸に相応しい本音の話が始まった。



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