川口直人 90

 岡本の電話から数日後の土曜日の事だった。



午後1時―


俺と和也は新宿駅南口の改札で岡本と待ち合わせをしていた。


「悪かったな、和也。土曜日はアルバイトで忙しいのに…」


「気にしなくていいって。バイトは午後4時からだし、同じ新宿なんだからさ。でも驚いたよ。岡本さんの計画には…」


「ああ、全く滅茶苦茶だ。どうかしてる」


そう言う俺もどうかしているかもしれない。岡本の賭けに乗ろうとしているのだから。


「あ!あの人じゃないか?岡本さんて!」


和也が見た方向に、人混みに紛れながら岡本がこちらへ近付いてくる姿が見えた。


「へ〜。良く分かったな、さすがは和也だ」


「まあね。視力もいいし、人の顔を覚えるのは得意だからさ」


そんな事を話しているうちに岡本が俺たちの前にやってきた。


「川口、久しぶりだな。隣にいるのは…」


「あぁ、弟の和也だ。会ったことあるよな?」


「こんにちは。川口和也です。以前ファミレスで会った事ありますよね」


「そうだったな…。ところで…」


岡本は和也を見上げると言った。


「お前たち兄弟…2人とも背が高いんだな」


岡本が面白くなさげに言う。確かに俺と和也は2人とも身長が180cmを超えている。多分岡本は170cm位だろうか?


「それで?何処で話をする?」


俺が尋ねると和也が言った。


「この先に、大手カフェチェーン店があるんだ。ちょっと分かりにくい場所にあるから空いていて穴場だよ。そこに行かない?」


「そうだな…そこでいいか?」


岡本に尋ねた。


「ああ、いいぜ。ゆっくり話が出来れば俺はどこだっていいさ」


「よし、なら決まりだな。和也、案内してくれ」


「了解」


和也は頷くと、先頭に立って歩き始めた―。




****




 和也が案内したカフェは雑居ビルの裏通りにあった。メインストリートから1本奥まっただけの通りだったのだが、確かに人の通りは少ない。


「この店だよ」


足を止めた先にあるのは確かに全国規模でチェーン店を展開している某有名コーヒー店だった。


「へ〜…こんな場所にあるとはな…」


岡本が感心したように店を見上げている。


「ここは空いてるからゆっくり出来るよ。それじゃ中へ入ろうか?」


和也の言葉に俺と岡本は頷く。


そして俺達3人は店内へと足を踏み入れた―。



 音楽だけの静かなJポップが流れる店内で俺達3人は窓際のボックス席に座っていた。俺と和也が隣同士で岡本は俺の向かい側の席に座った。

全員ブレンドコーヒーを頼むと、すぐに俺は岡本に尋ねた。



「それで?お前と鈴音の姉との間でどんな話し合いをしたんだ。詳しく教えてくれるんだろうな?」


「ああ、勿論だ。その為にお前を呼んだんだからな。でも…」


岡本はチラリと和也を見た。


「和也には俺から協力を申し出ているんだ。お前だって、鈴音の姉と結託してるんだろう?だったらこちらだって弟に協力してもらうさ」


「分かったよ…」


岡本は肩をすくめると、話し始めた―。




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