亮平 70 <完>
季節は4月に入り、俺と鈴音は社会人3年目に入っていた。鈴音の話では勤務先の代理店に2名の新人が入社してきて、ついに鈴年も先輩という立場になったそうだ。
川口も社長として少しずつ仕事に慣れてきて、ようやく周囲の状況も落ち着いてきたと電話で話していた。そして俺は鈴音には内緒で忍とある計画を立てていた―。
****
それは4月に入ってすぐの事だった。金曜の夜、俺は忍から連絡を受けて仕事帰りに忍の家を訪れていた。
「はい。お茶どうぞ」
ダイニングテーブルの上にお茶が置かれた。
「ありがとうございます」
湯呑に手を伸ばし、冷ましながら一口飲む。
「それで…俺に話って何ですか?」
「ええ、実はね…川口さんて方…7月には完全に元婚約者の女性と縁を切ることが出来るのよね?」
「ええ、そうですけど…」
「そしてすぐにでも鈴音ちゃんと結婚したいと言ってくれているのよね?」
「え?ええ…」
忍がしんみりとした声で言う。
「あのね…亮平くん。私は今迄嫉妬にかられて鈴音ちゃんを散々苦しめてしまったわ。たった1人きりの妹なのに…」
「忍さん…」
「だからね、私…鈴音ちゃんには絶対に幸せになってもらいたいのよ」
「は、はぁ…」
一体忍は何を言い出すのだろう?
「鈴音ちゃんは今も川口さんを忘れられていないみたいなの。この間家に遊びに来た時、それとなく尋ねたら…忘れなくちゃいけない人なのに忘れられないって寂しそうに言ってたわ」
「そう…だったんですか…?」
俺はあの時以来、鈴音に川口の事を尋ねるのはやめにしていた。理由は簡単だ。鈴音に川口の事を思い出させたくなかったから…俺という人間を一人の男として意識してもらいたかったからだ。
「それでね、私考えたの。鈴音ちゃんと川口さんを結婚させようって。2人の結婚式を挙げさせたいって。ね、協力してくれる?」
忍が拝むように俺に頼んできた。
「え…?ええええっ?!そ、そんな…!」
すると忍がじっと俺を見た。
「亮平くん…やっぱり鈴音ちゃんの事…好きだったのね…?」
もう隠していてもしょうがない。
「は、はい…」
俺は正直に頷く。
「そう…。だけど、悪いことは言わないわ。鈴音ちゃんの事は…諦めたほうがいいわよ。だってあんなに川口さんの事を一途に思っているのよ?だからね…ね?鈴音ちゃんの幸せの為に協力してくれるかしら?」
忍の言うことは理解できる。けど…。
「きょ…協力って…何をすればいいですか…?」
すると忍はとんでもないことを言ってきた。
「あのね、鈴音ちゃんと川口さんの為に結婚式を挙げさせてあげたいのよ」
「!け、結婚式っ?!ほ、本気で言ってるのですか?!」
「ええ、そうよ。本気よ。でも…そうね。これはある意味亮平君にとっても悪い話しではないかもしれないわ?ひょっとすると川口さんに逆転出来るチャンスがあるかも知れないわ。ね?だから…協力してくれないかしら?」
逆転…?ひょっとすると川口から鈴音を奪えるチャンスかもしれないって事なのか?
「分かりました。忍さん…その計画、詳しく教えてもらえますか?」
「ええ、それじゃ私の計画を話すわね…」
忍の計画は…とんでもなくスケールのでかい計画だった。まず、忍と俺が結婚するという事にして鈴音に報告する。そして鈴音に結婚式のプロデュースをお願いするというのだ。そして俺たちの衣装を選ぶと言う名目で鈴音をレンタルドレスショップへ連れ出し、ドレスを選ばせる…。そして結婚式の当日に真実を明かす…。
「亮平くん。川口さんにきちんと連絡して、都合を付けて頂戴ね?絶対に鈴音ちゃんに知られては駄目よ」
「ええ、勿論です」
俺は頷く。そうだ、これは…俺と鈴音、そして川口の運命を決める大事な日。
結婚式の当日…俺は鈴音にプロポーズする。
鈴音が誰を選んでも、俺はもう後悔しない。だって鈴音のウェディングドレス姿を見れるのだから。
きっと鈴音のドレス姿は綺麗に違いない。
7月の結婚式が今から楽しみだ―。
<完>
<次回、直人の章になります>
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