亮平 61

 19時05分―


 俺は忍から届いたメールをチェックしていた。忍は鈴音に俺と食事をして帰ってくることを了承したメールを送ったと書いてあった。その時―。


「亮平、お待たせ」


不意に声をを掛けられると、そこにはベージュのダウンコートを着た鈴音が白い息を吐きながら立っていた。あぁ…やっぱり鈴音は美人だなと一瞬見惚れてしまう。


「おう、来たか。よし、それじゃ飯食いに行くか」


「うん、それは構わないけど…でも何所に食べに行くの?」


「別に駅前のファミレスでいいだろう?何だってあるんだし」


なんて言ったって…あそこには川口の弟がバイト中だからな。


「そうだね。それでいっか」


鈴音は何の疑いもなく俺に返事をする。ごめん、鈴音…。俺は心のなかで鈴音に謝罪をしながら、2人で駅前のファミレスに向かった―。



 店内は思っていた以上にすいていた。


「お?今夜は平日だから空いてるな。これなら空いているから注文頼んでもすぐに料理を運んでくれそうだな。鈴音、どこに座る?」


「う~ん、そうだな。やっぱり窓際の席がいいかな?」


鈴音は窓際のボックス席を指さした。


「窓際だな、よし。あそこに座るか」


「うん、いいよ」


2人で席に移動して座ると、すぐに店員がやってきた。


「いらっしゃいませ」


その声に顔を上げて店員を見た鈴音の目が見開かれた。まさか…目の前の店員が川口の弟なのか?俺も店員の顔を見ると、まだ高校生くらいにしか見えない男が目の前に立っている。そして…やはり川口にどことなく似ていた。


間違いない…!この男が川口の弟だ。その証拠に男は照れているのだろうか…。鈴音は気づいていないかも知れないが、耳が赤く染まっている。


「今晩は。また会ったね」


鈴音は笑顔で川口の弟を見る。俺はそんな鈴音を苛つきながら見ていた。やめろよ。お前がそんなふうに笑いかけるとなぁ…男を勘違いさせるんだよっ!


「何だ?鈴音。ファミレスの店員と知り合いだったのか?」


内心の苛つきを隠しつつ、俺は鈴音に話しかけた。


「別に知り合いってわけでもないけど…ほんの少しだけ顔見知りってだけだよ。そうだよね?」


「は、はい。それだけの事です」


「ふ〜ん…」


俺はつい、相手が年下ということもありジロリと弟を睨みつけた。すると俺のそんな態度が悪いと思ったのか、鈴音が川口の弟に言った。


「注文が決まったらまた声を掛けるので、どうぞ行ってて下さい」


「あ、は・はい。では後ほど伺います」


頭を下げて去ってゆく店員を見た後、俺は鈴音に問いかけた。


「なぁ、鈴音…。あの男…」


誰かに似ていないか…?そう言おうと思ったのに、突如鈴音が口を開いた。


「うわ〜っ。これ美味しそう。私はこれにしよっかな〜…ほらほら、これ見て。ウィンターメニュースペシャルだって。このビーフシチューのセットメニュー美味しそう。私はこれにするよ。ほらほら、亮平も早く選んでよ」


その態度は何も聞かれたくないと言っているように思えた。仕方ない…そっとしておくか…。


「あ、ああ…わかったよ。よし、俺はミックスステーキセットにするか」


そして俺は店員呼び出しボタンを押した―。

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