本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

亮平 49

「な、何ですって…？！あ、あの加藤鈴音の…！」

女は目を見開いて俺を見た。

「ふ〜ん。どうやらあんたは川口の見張りばかりして周辺の人間関係を探ることはしていなかったんだな」

「な、直人…っ！」

川口の方を向いた女にあいつは言った。

「彼から話を聞いているよ。君は鈴音の前にいきなり現れて俺との手切れ金として100万円を渡そうとしたらしいな。それだけじゃない…鈴音から俺のマンションの合鍵まで奪って…」

「な、何よ！解約したマンションの鍵を持たせておくなんて事駄目に決まっているでしょうっ？！私は直人の為に…」

すると川口が声を荒らげた。

「俺は一度たりともそんな事は頼んでいないっ！」

川口の言葉に女の肩がビクリと動いた。

「な、何よ…！何もそんなきつい言い方しなくたって…！それに…分かっているの？貴方は私に歯向かえる立場にはないのよ！貴方の態度次第では…川口家電の全社員を今からだって全員クビにする事だって出来るんだからね？！」

「っ！」

川口の顔が青ざめる。

「お前っ！川口を脅迫するつもりなのかっ？！」

「ええ、そうよ！悪いのっ？！それにね…直人だけじゃないわよ？あんたの事だって今から簡単に調べられるんだからね？いいの？自分の不利益になることが起きても知らないわからね？私にはそれだけの力があるんだから！」

女は次に俺を脅迫してきた。だが、俺はそんな脅迫なんか少しも怖くなかった。もし仮にこの女の入れ知恵で会社をクビにされたとしたって、また次を探せばいいだけの話だ。俺はまだ若いし、守るべき家庭だって…持っていない。だから言ってやった。

「ああ、そうか。好きにしろ。そんな事されたって俺は痛くも痒くもないからな」

「…！」

俺の言葉に女は一瞬怯んだが、次にとんでもない事を言ってきた。

「あんただけじゃないわよ…。加藤鈴音だっていざとなれば社会から抹殺する事だって出来るんだからねっ？！」

「何っ？！」

「何だってっ？！」

俺と川口が同時に声を上げた。この女…何て恐ろしい女だ…。川口や俺を脅すだけにとどまらず、無理やり別れさせられて傷心の鈴音まで脅迫しようとするなんて…！

「お前は…っ！」

俺が声をあげたその時―。

「それだけは勘弁してくれっ！」

川口が突然テーブルに頭をつけて女に土下座してきたのだ。俺も女もその姿にギョッとした。

「頼む…君の望み通り結婚でも何でもするから…どうか、どうか鈴音にだけは手を出さないでくれ…。この通りだ…っ！」

頭を擦り付けて懇願する姿に女は驚いた様子で川口を見ている。

「直人…顔を上げてよ…」

すると川口は言う。

「鈴音に…手を出さないと誓ってくれるまでは…顔を上げるなんて出来ない…っ！」

川口の肩が震えている。

「直人…そこまでして…あの鈴音って女が大事なの…？」

女がどこか傷ついた様子で尋ねる。

「そうだ…！鈴音は俺にとって大切な…！」

「分かったわよ！鈴音って女には手出ししないと約束するから顔上げなさいよっ！」

女はヒステリックに喚いた。

「あ、ありがとう…」

青ざめた顔で川口は顔を上げた。

「…」

女は黙って川口を見ていたが、次に俺の方を振り向いた。

「あんたは帰りなさいよ」

「だが…」

言いかけると川口が口を挟んできた。

「頼む…鈴音の為なんだ…。帰ってくれ…すまない」

「…わ、分かったよっ！」

ガタンと乱暴に席を立ち、上着を掴むと俺は足早にその場を後にした―。