亮平 33
俺の質問に、途端に顔が曇る鈴音。
「そ、それは…」
そうか、やっぱり…。
「やっぱり会っていないんだな…」
俺はグラスにワインを注ぐとまた一気に飲み干した。
「ねえ、ちょっと飲み過ぎだよ。そんなに飲んで大丈夫なの?」
馬鹿野郎。俺の事よりも…少しは自分の心配をするべきだろう?しかもよくよく聞いてみれば、もう1週間音信不通が続いていると言う。普通恋人を1週間も放置しておくか?俺だったら絶対にそんな真似はしない。恐らく…もうこれは間違いないだろう。川口には女がいる…。
大体鈴音もどうかしている。これから色々忙しくなるから会えなくなるかもしれないだって?どうしてそんな見え透いた嘘を信じるんだよ!川口に対して湧き上がる怒りを抑えつつ、俺は鈴音に言った。
「鈴音、お前そんな話本当に信じてるのか?」
「え?」
「あいつの話、全て信じてるのかって聞いてるんだよ」
「亮平…一体何の話をしているの…?」
だが、俺は見た。鈴音の目が不安げに揺れているのを。…無理しやがって…!もうこうなったら口で言うよりも鈴音がじかに確認した方が良いだろう。俺はスマホを取り出して、例の画像を表示させると鈴音の前に置いた。
「え…?う、嘘…」
鈴音の大きな目が今にも零れ落ちそうなくらい見開かれた。俺はこの写真を撮った時の状況を鈴音に説明したが、鈴音は聞いているのかいないのか、スマホの画像から視線を逸らす事無く見つめていた。ただ…その瞳は酷く虚ろだった。
「あ、ありがとう…亮平、教えてくれて…」
鈴音は気丈にもそう言ったが、声が震えている。俺の前だからって…無理する事は無いのに。
「おい?鈴音、お前一体これからどうするんだよ?」
鈴音が心配になって声を掛けた。すると…。
「私からは…何もする事はないよ…」
その言葉に思わずハッとなって鈴音を見た。…泣いていた。鈴音は声も出さずにぽろぽろと涙を流していたのだ。
「鈴音…泣くな。俺が悪かったんだ。お前にあんな不誠実な男を紹介したから…悪かった」
謝ったってどうしようもないのは分かりきっていたいが声も出さずに、ただ泣き続ける鈴音を慰めてやりたかった。…尤も俺じゃ駄目なのは分かっていたけれども。鈴音の涙を見て確信した。本当に鈴音は川口の事が好きだったのだと。俺なんかが入り込む隙間もないほどに…。
だから俺は言った。
「大丈夫、鈴音。お前は気立てもいいし、美人だ。きっとすぐに別の男が見つかるさ。何なら俺が紹介してやるか?」
本当はその役割…俺がやりたかった。だが、今ここで鈴音に告白しても振られるのは分かりきっていた。なのに、鈴音はまだ川口の事を信じようとしている。…もう我慢の限界だ。俺が鈴音の代わりに問い詰めてやると言ったら鈴音は真っ青になって止めた。そしてマンションに行って自分で確かめると言い出したのだ。
「鈴音…。分かった。そのときは俺も付きそうよ」
お前を1人にしないからな。なのに鈴音はそれを止めた。…確かに俺と川口は犬猿の仲だ。大体川口がマンションで女と浮気の真っ最中のところを俺と鈴音の2人で行っても、相手の女だって鈴音が俺の浮気相手と思うかもしれない。
「分かったよ、鈴音。ならこうしよう。俺は川口のマンションの建物の前で待機している。そしてお前は1人であいつのマンションを訪ねて来い」
鈴音は小さな声でありがとうと言って、また少しだけ泣いた―。
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