第20章 17 ウェディングドレス
結局、2人に強引に押し切られる形で私が2人の結婚式のプランを立てる事になってしまった。でも…引き受けるきっかけになったのはあるキーワードだった。亮平が私に言った言葉だ。
「旅行代理店で提供しているツアーにはウェディングプランだってあるんだろう?だったらいい仕事の経験になるじゃないか」
この言葉が…結局私を後押しする形となったのだ―。
そしてこの日の夜は3人でどんな結婚式が良いかの相談を深夜遅くまで続けた―。
****
翌朝―
「ええっ?!ウェディングドレスを見に行く?どうして私まで一緒に行かないといけないのっ?!」
何故か朝ご飯を家で食べている亮平の口からとんでもない言葉を聞いて私は大声を上げてしまった。
「何だよ、別にいいじゃないか。それとも何か今日は用でもあるのか?」
亮平がほうれん草と油揚げのお味噌汁を飲みながら言う。
「べ、別に…そんな用事なんて…無いけど…」
だけど、お姉ちゃんのウェディングドレスを見に行くのについて行かなくちゃならないなんて…酷く惨めな気分だ。
「ね、お願い。私…まだお店の人とお話するの自身が無くて…」
お姉ちゃんが手を合わせて頼んでくる。そう来られるとこっちも断れない。
「うう…わ、分ったよ…」
「よし、それじゃ10時になったら早速みんなで駅前のレンタル衣装屋へ行こうぜ」
「えっ?!亮平も行くの?!」
「当り前だろう?俺だってタキシード着るんだから…そうだ!ついでに俺のタキシードもお前に選んで貰おうかな?」
「ええええっ?!」
「そうね。鈴音ちゃんならセンスが良い物を選んでくれるかもよ?」
何を根拠にお姉ちゃんがそんな事を言ってるのかは不明だけど…結局断り切れず、私はお姉ちゃんのウェディングドレスと亮平のタキシードを見立てる事になってしまった―。
****
「いらっしゃいませ」
私達3人は駅前にあるウェディング衣装専門のレンタルショップに来ていた。店内には純白の美しいウェディングドレスがつりさげられ、その奥にはお色直し用のカラードレスも並んでいる。
「うわぁ…」
私は声を上げた。ウェディングドレス…やっぱり素敵だ。
「素敵ねぇ…」
お姉ちゃんもうっとりした顔でドレスに触れている。一方、亮平は早速男性店員に連れられてタキシードコーナーへ連れて行かれた。
「お客様、どちらの方がドレスを試着されるのですか?」
綺麗なメイクを施した若い店員さんが声を掛けて来た。
「はい、こちらの女性になります」
私は姉の肩に手を置くと、姉は恥ずかしそうに頷いた。
「ではすぐにデザインを選びましょうか?」
「はい」
お姉ちゃんは店員さんと一緒にウェディングドレスを見に店内の奥へと入って行った。その様子を手を振って見送る私。そしてお店の椅子に座って待つことにした。
「あ…」
テーブルの上にはウェディングドレスのカタログが置いてある。私は何気なくそれを手に取り、パラパラとめくってみた。そこには様々な形のウェディングドレスが掲載されている。
Aラインにプリンセスライン、マーメイドラインにスレンダーライン、そしてエンパイアライン…
「へぇ~…こんなに色々な種類のドレスがあるんだ…」
そして想像した。私だったらどのデザインを着てみたいかな…もしも自分の結婚式を挙げるなら、自然に囲まれた小さなチャペルで式を挙げたい。そしてやっぱり一番横道なAラインのウェディングドレスかな…最近のドレスの主流はスカートのボリュームがあまり広がらないデザインみたいだし‥‥等と考えていると声を掛けられた。
「どうかしら…鈴音ちゃん」
お姉ちゃんに声を掛けられ、顔を上げた。するとそこにはマーメイドラインのウェディングドレスを着たお姉ちゃんが立っていた。サテンのキラキラ光るウェディングドレスはまるで人魚の様に見える。
「うわぁ…お姉ちゃん…すっごく素敵!」
本当に良く似合っていた。
「そ、そう…?それじゃこれにしようかしら…?」
「えっ?!そんなたった1着の試着で決めちゃうのっ?!勿体ないよ!だってすっごく似合ってるのに…」
俄然私の心に火が付いた。どうせなら色々なドレスを着たお姉ちゃんが見てみたい。
そこで私は全てのシルエットのウェディングドレスをお姉ちゃんに試着して貰い…。
私が選んだ総レースのマーメイドラインのドレスに決定した。
すると丁度そこへタキシード姿のままの亮平が顔を出した。
「どうだ?ドレス…決まったか?」
そしてウェディングドレス姿のお姉ちゃんを見て亮平の顔が真っ赤になった。
「す、すごい…!最ッ高です!忍さんっ!とっても綺麗です!」
すっかり興奮気味の亮平に私は言った。
「亮平も…タキシード着たんだね?」
「おう、どうだ?似合っているか?」
亮平が来ているタキシードは薄い水色で、素材はサテン地でつやつやと光沢を帯びて光っている。けれど、何と言うか…。
「何だか…大人の七五三みたい」
ぼそりと、つい本音が出てしまった。
「お!おい!何が七五三だっ!だったらお前が選べよなっ!」
そして亮平は私の手首を掴むと、タキシードコーナーへ連行されてしまった。
「ほら、これが亮平に一番似合ってるって」
亮平に着せたのはグレーのスーツにカラーとラベルの部分が黒のタキシードだった。お店の人も満足げに頷いている。
「どうだ?鈴音」
「うん、すごく素敵、恰好いいよ」
このタキシードを着て亮平はお姉ちゃんと…。胸の痛みを抑えつつ、私は笑顔で答えた。
「そ、そうか…?格好いいか…?」
亮平は照れ臭そうだ。
「うん。最高」
私は親指をグッと立てて亮平に言う。
「お、おう…。よし、ならこれに決めよう」
「じゃあね」
私は手を振ってお姉ちゃんの元に戻った―。
「ええええっ?!な、何でよっ!」
私はお姉ちゃんの提案に驚きの声を上げた。
「ほら、鈴音ちゃんだって一度はドレス着てみたいでしょう?どうせなら試着させてもらいなさいよ」
お姉ちゃんが私の手首を掴んだままドレスの前へ連れて行く。
「だ、だけど…」
店員さんに助けを求めるように見ると、店員さんは言った。
「ええ。お客様も是非試着してみてください」
えええっ?!そ、そんな…!だって式を挙げるのは私じゃないのに?どうして結婚の予定も無い…着るあての無い私にそんな事を言うの?!
だけど、お姉ちゃんも店員さんもニコニコしながら私を見ている。とても言い出せる雰囲気じゃなかった。
「わ…分ったよ…なら1着だけ…」
そして私は自分が式を挙げるなら…着てみたいと思っていたAラインのウェディングドレスを手に取った。
「…」
試着室の前で私は純白のウェディングドレスを着て鏡の前に立っていた。そのドレスは本当に素敵だった。半そで、オフショルダーの襟もとは総レース仕立てで、スカートは適度に裾が広がり、美しいデザインだった。
「素敵なドレス…」
だけど、鏡の中の私は悲し気な顔をしている。結婚する相手もいないのに…ドレスを着ても自分が惨めになるだけだ。
「脱ごう…」
ドレスに手を掛けた時、お姉ちゃんが声を掛けて来た。
「鈴音ちゃん。着たの?」
「う、うん…でももう着がえようかと思って…」
「あら。そんな事言わずに…少しでいいから見せてよ。お願い」
「う、うん…」
仕方ない…お姉ちゃんに見せる位なら…。
シャッ…
試着室のカーテンを開けて、私は仰天した。なんと目の前に立っていたのはお姉ちゃんでは無く、タキシード姿のままの亮平だったからだ―。
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