第20章 7 甘いティータイム

午後1時―


ガチャッ


「ただいま~…」


玄関のドアを開けると、そこにはお姉ちゃんの靴しか置かれていない。服部さんはもう帰ったのかな?すると…。

パタパタと軽い足音を響かせながらお姉ちゃんが玄関まで出迎えてくれた。


「お帰りさない。鈴音ちゃん」


「うん、ただい…え?」


玄関に立つお姉ちゃんを見て私は一瞬言葉を失ってしまった。


「あら?どうしたの?」


首を傾げるお姉ちゃん。


「う、うん…。め、珍しいね?お化粧しているなんて…」


心の病気になってから、ほとんど化粧をする事が無くなっていたお姉ちゃんが今日はきちんと薄化粧をしている。


「そんなの当然でしょう?だって服部さんが来てくれる日だったんだから」


え?それって一体どういう意味なんだろう?


「そ、そうなんだね。でもすごく似合ってるし…綺麗だよ」


「そう~‥?服部さんもそう思ってくれたかしら‥」


お姉ちゃんは薄っすら頬を染めて、両頬を手の平で抑えている。


「…」


そんなお姉ちゃんを複雑な気持ちで見つめながらショートブーツを脱いで玄関から上がり込むと、お姉ちゃんが声を掛けて来た。


「ねぇ、そんな事よりも…鈴音ちゃん。何かあったの?」


ドキッ!


一瞬心臓の音が大きくなる。


「な、何かって…?」


ドキドキしながらお姉ちゃんを見た。


「何だか元気が無いし、顔色も良くない様に見えるわ」


「あ、ちょっとスプリングコートを探す為に色々歩き回ったから…かな?」


適当にごまかしておこう。


「そう?それなら別にいいけど…そうだ!疲れた時には甘い物よね?温かいココアいれてあげるから手を洗ってらっしゃいよ」


「うん、そうだね。それじゃちょっと行って来るね」


「ええ、お湯を沸かして待っているわ」


早速洗面台へ行き、手洗いを済ませてリビングへ行くと既にキッチンではやかんがガス台にかけられ、お姉ちゃんはカップにココアをティースプーンでいれていた。


「ついでにクッキーでも食べましょうね」


お姉ちゃんは棚からクッキーの入った缶を取り出して、お皿に開けると目の前に置いてくれた。


「ありがとう」


「いいのよ」


笑みを浮かべて私を見るお姉ちゃん。

やがてお湯が沸き、カップにお湯を注いでくれた。すると途端に部屋の中に漂う甘い香り。


「それじゃ、一緒にティータイムでもしましょうか?」


私の向かい側に座るとお姉ちゃんが言った。


「うん、そうだね」


そして私は買い物へ行って来た事の話。お姉ちゃんは服部さんの話を笑顔で聞かせてくれた。だけど、私は…あの話だけは‥黙っていた―。




****


19時45分―


ピンポーン


家のインターホンが鳴り響き、お姉ちゃんがけんちん汁の味付けをしながら私に言った。


「あ、鈴音ちゃん。きっと亮平君が帰って来たのよ。玄関見て来てくれる」


「うん」


お皿を並べていた私はお姉ちゃんに言われて玄関まで行ってドアを開けてあげた。するとやはり立っていたのは亮平だった。


「ただいま。鈴音。よし、まだ家にいたな?」


亮平が何故か私の頭をポンポン軽く叩きながら言う。


「ちょ、ちょっと…子ども扱いしないでくれる?それに何?『ただいま』って」


「何で?別にいいじゃないか?俺達は家族みたいなものだし」


「え?!」


か、家族って…!どうして最近亮平もお姉ちゃんも私を動揺させるような事ばかり言うんだろう?


「と、とにかく上がってよ。もうご飯出来てるから」


亮平に背を向けながら言う


「うん、そうみたいだな。家中に旨そうな匂いが漂っている。楽しみだな~」


亮平が靴を脱いで上がり込むと私の耳元で言った。


「帰り、車で送ってやるから安心しろよ?」


「え?いいよ。別に」


何で耳元で言うのか分からない。


「お前に大事な話があるしな。だからマンションの前まで送らせろ」


亮平の意味深な言葉にドキリとした。


まさか…?


私は胸が苦しくなるのを感じた―。

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