第19章 7 同情なんかいらない

 車が私の住むマンションの前に停車した。


「ありがとう、送ってくれて」


駅まで車を降ろしてもらおうかと思ったけれども結局マンションまで送って貰った。


「ああ。鈴音はいつから仕事だっけ?」


車を降りようとした時亮平が声をかけてきた。


「私?明後日からだよ。亮平はいつからなの?」


「俺は4日から仕事だ」


「ふ〜ん。それならまだ2日は休めるね。それじゃ行くね」


助手席のドアを開けようとしたドアノブに手をかけた時、亮平が呼び止めた。


「鈴音」


「何?」


「お前、明日は何して過ごすんだ?」


「明日か…う〜ん…ひょっとすると初詣に行くかも知れない」


ちょっと考えてから答えると亮平が反応した。


「何だ?誰と行くつもりだ?職場の先輩か?それとも井上って男か?」


「な、何でそんなに追求してくるの?行くかも知れないって言っただけだし、仮に行くとしても近所の神社に1人で行くぐらいだよ」


「鈴音…お前、女友達いないのか?」


亮平は呆れたように言う。


「な、何よっ?失礼だね。ちゃんといるよ。でも皆彼氏がいて、お正月休みは旅行に行ってたり、2人で過ごしてたりしてるんだよ」


全く失礼な事を言ってくる。


「そうか、お前は今独り身だしな。可哀想に…。だからといって安易に新しい男作ろうなんて思うなよ?」


「な、何でそんな事言うのよ?大体矛盾してない?同情してるくせに、安易に新しい人作るなとか言うし…」


「何だよ?それじゃやっぱり付き合うつもりか?」


何故か突っかかってくる亮平。もう!どうして私にの恋愛事情に首を突っ込んでくるんだろう?もうすぐお姉ちゃんと結婚するくせに。あ…もしかして…。


「何よ、もう小舅になった気でいるの?」


「は?一体何のことだよ?」


亮平はハンドルを握ったままとぼけた顔をする。まだ私にお姉ちゃんと結婚が決まったこと内緒にするつもりなのかな?


「何でも無い。それじゃ降りるから」


今度こそ降りるためにドアを開けると亮平が言った。


「鈴音、明日暇なら連絡してきてもいいぞ。どこか遊びに連れて行ってやるから」


何それ。1人ぼっちの私に同情して言ってるのかな?私なんか放って置いてお姉ちゃんと過ごすべきでしょう?同情なんかいらないから。


「結構です。色々忙しいから。じゃあね」


「え?お、おいっ!」


亮平が呼び止めたけど、構わず荷物を持って車から降りるとそのまま振り向きもせずマンショの中へ入って行った。…ちょっと冷たい態度だったかな?

エレベーターホールに入る直前に振り向くと、もうそこに亮平の車は無かった。


「…何だ。もう帰ったんだ…」


ため息をつくと、私はエレベーターのボタンを押した―。




****


「ただいま〜…」


誰もいない真っ暗な部屋。廊下の電気をパチリとつけると靴を脱いで玄関から部屋へ上がった。


「ふぅ〜…」


廊下にお姉ちゃんが渡してくれたおせちの入ったバックをおくと上着を脱いでコート掛けに自分の上着をかけてお風呂の準備に向かった。



 お風呂にお湯を入れている間におせち料理の入ったタッパを開けてみた。中には色とりどりの美味しそうな料理が丁寧に詰め合わされている。


「へ〜…すごい」


お姉ちゃんに感謝しなくちゃ。

冷蔵庫にタッパをしまい、下着やパジャマを引き出しから取り出すとバスルームへ向かった。



40分後―


「あ〜…さっぱりした…」


濡れた髪をバスタオルで拭きながらバスルームから出てくると洗面台に置いてあるドライヤーで髪を乾かし始めた。


「う〜ん…大分髪伸びたな…」


今の私の髪は背中に肩先より10センチは伸びている気がする。明日は美容院にでも行ってさっぱりしてこようかな?


「よし!乾いた!」


ドライヤーを置くと冷蔵庫へ向かい、シークワーサーの缶チューハイを取り出すと部屋に持っていき、ベッドに寄りかかるとプルタブを開けた。


プシュッ!


ゴクッゴクッ


「あ〜…美味しい…」


それにしても…亮平は何であんな事を言ったんだろう?


<悪いことは言わない。まだ忘れられない男がいるなら…断ったほうがいい>


亮平の言葉が蘇る。


「でも、どうせ大した意味ないんだろうけどね」


ポツリとつぶやき、缶チューハイを飲みながらカーテンの隙間から見える夜空を見つめた―。









 




 





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