第19章 3 先輩からの電話

「それじゃ、行って来るわね」


「行って来る」


お姉ちゃんと亮平が玄関ドアの前に立っている。


「うん、行ってらっしゃい」


それを見送る私。今からお姉ちゃんと亮平は初詣に出かける。そして私はお留守番。


「鈴音ちゃん。1人になるけど大丈夫?」


お姉ちゃんが尋ねて来た。


「うん、大丈夫だよ。行ってらっしゃい」


「鈴音、マンションに帰るまでに体調治しておけよ?」


「分ってるってば。大丈夫だから、ほら。早く行ったら」


「ああ」


「じゃあね。鈴音ちゃん」



バタン…


2人が玄関から出て行くと、途端に家の中がしんと静まり返った。


「ふう~…」


戸締りをして溜息をつくとリビングへ戻り、ゴロリとソファに横になった。

少し横になろう‥‥。

クッションを抱きかかえて私は目を閉じた―。


トゥルルルル

トゥルルルル

トゥルルルル…


何処かで電話が鳴っている…。着信音で目が覚めると、傍らに置いてあったスマホが鳴っている。半分寝ぼけ眼で私は着信相手が誰かも確認しないで電話に出た。


「もしもし…」


『もしもし、加藤さん?明けましておめでとう』


電話から流れてくる声は太田先輩からだった。一気に眠気が吹き飛ぶ。


「あ!お、太田先輩!明けましておめでとうございます!今年もどうぞよろしくお願い致します」


思わず正座して、頭を下げた後心臓がドキドキしてきた。どうしよう…先輩からの告白の返事何も考えていなかった!


『アハハハ…今年もよろしくって事は期待していてもいいのかな?』


「え?」


思わずその言葉に心臓が跳ね上がった。


『何てね。ほんの冗談さ。実は職場の人達に年賀状書いて送ったんだけど、考えてみれば加藤さんの新しい住所変わったの忘れていてうっかりして戻って来てしまったんだ。それでメールで新年の挨拶しようと思ったんだけど…加藤さんの声が聞きたくなって電話してしまったんだ。電話‥大丈夫だったかな』


「はい、大丈夫です。今家に誰もいないので」


『そう言えば実家に来ているんだっけ?』


「はい。今実家です。お姉ちゃんは今初詣に行ってるんです」


何となく亮平の事は言い出せなかった。亮平は太田先輩の告白の事知ってるから。


『加藤さんは行かなかったのかい?』


「はい、お恥ずかしいですが…前夜に梅酒飲み過ぎて二日酔いで…」


『え?それじゃ今具合悪いって事?』


「あ、今はもう大丈夫です。横になっていたので」


『それじゃもしかして起こしてしまったって事かな?何だか悪かったね』


「いえ、そんな事気にしないでください」


『加藤さん』


急に太田先輩の声のトーンが変わった。


「は、はい」


『その対応…もう、SDカードは見てくれたって事でいいのかな?』


ドクン


心臓の音が大きくなる。


「はい…」


『あのさ、返事の事だけど…』


ついに来た!どうしよう…先輩の告白を断る理由は無いけれども、受けていいのかも分らない。


「あ、あの…」


『3月までに返事くれればいいから』


「え?」


『3月までに返事を貰えなければ駄目だったって捕らえるから焦って返事しなくていいからね。あ、でも俺から返事聞いてしまうかも。その時はごめん』


「え?せ、先輩」


『俺との事…じっくり考えて欲しいからさ』


「!」


何と返事をすれば良いか分らなかった。それどころか、お姉ちゃんにも亮平にも、そして井上君にも太田先輩が告白してきたこと知られてしまっている。お姉ちゃんは大丈夫だとしても心配なのが亮平と井上君だ。特に井上君は同じ職場だから一番マズイ相手かも知れない。


「あ、あの…先輩」


『何?』


「あ…明後日からまたよろしくお願いします」


『うん、こちらこそよろしくね。それじゃ』


「はい。失礼します」


ピッ


電話を切った。


「…」


ど、どうしよう…亮平と‥特に井上君の問題…。


私は逃げられない局面に立たされていた―。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る