第18章 23 私と甘栗

「はぁ…」


亮平からの電話を切って、ため息を付くとお姉ちゃんが声を掛けてきた。


「亮平君、何て言ってた?」


「凄く怒ってた…。帰って来たらお説教されるみたい」


「仕方ないわね。亮平君、鈴音ちゃんと連絡取れなくなって凄く慌てていたから」


「そう…なんだ」


でもどうして?何でお姉ちゃんの前だという言うのに私にそんなに構うの?2人で結婚式の話をしていたくせに?

お姉ちゃんの顔を見ながらリビングで立ち聞きしてしまったときのことを思い出していた。


「どうかしたの?鈴音ちゃん」


「お姉ちゃんが不思議そうな顔で私を見る」


「ううん、何でも無いよ」


聞けない…とてもじゃないけど聞けなかった。『2人はいつ結婚するの?』なんて…。


「亮平くんが帰ってきたら皆でお茶でも飲みましょう。鈴音ちゃん。リビングで待っていて」


「うん…」


上着を脱いでコート掛に掛けてから、手を洗いに洗面台へと向かった―。



 リビングへ行くとお姉ちゃんがキッチンに立っていた。ガスコンロにはやかんが掛けられている。


「お湯沸かしていたの?」


「ええ、そうよ。あ、そう言えば鈴音ちゃん。お昼ごはんはどうしたの?」


あ…そう言えばコーヒーしか飲んでいなかったことを思い出した。


「コーヒーだけは飲んだんだけど…」


「また、鈴音ちゃんは!駄目じゃない!それ以上痩せたらどうするつもりなの?!」


私が退院してから初めてお姉ちゃんが強めの口調で言った。


その時―


ガチャッ!


玄関の扉が勢いよく開かれた音が聞こえたと同時に亮平の大声が玄関に響き渡った。


「お邪魔します!鈴音、いるかっ?!」


ダダダ…ッ!


そして廊下を駆けてくる音。


「鈴音っ!」


亮平が目の前に現れた。肩で荒い息を吐いて私をジロリと睨みつけると、いきなり怒鳴りつけられた。


「この馬鹿っ!」


ビクッ!


思わず肩が跳ね上がる。


「ごめんなさい…」


「謝って済むか!何で一度も連絡よこさないんだよっ!」


「あ、あの…図書館で本読んでいたから…」


苦しい言い訳をする。


「それだって一度くらい忘れずに連絡いれろよ!」


「う、うん…」


それにしても私はもう24歳だ。子供でもあるまいし、どうしてここまで怒られなければならないんだろう?


つい、恨めしい目で亮平を見てしまう。


「何だ、何か文句あるか?」


「別に…」


するとそこへお姉ちゃんが割って入ってきた。


「まあまあ、そのへんにしておきましょう?鈴音ちゃん、反省しているから。それより皆でお茶にしましょう」


「うん」


私はおとなしくダイニングチェアに座った。


「…」


亮平はまだ不満げに私を見ているけど、私の隣の椅子に座るとすぐにお姉ちゃんがお盆の上に3人分の湯呑と急須を持ってやってきた。


「あれ?日本茶ですか?珍しい」


亮平がお姉ちゃんに尋ねた。


「ええ、鈴音ちゃんが緑茶を飲みたいって言ったから」


コポコポと急須にお湯を注ぎながらお姉ちゃんが答える。


「え?」


私はお姉ちゃんを見た。確かに今日はコーヒーを2杯飲んでいるので、お茶のほうが良いとは思ったけど・・・まさか私の気持ちを察して?


「はい、鈴音ちゃん。甘栗好きでしょ」


お姉ちゃんがお茶と一緒に甘栗が乗ったお皿を差し出してきた。


「あ!甘栗!」


私は子供の頃から甘栗が大好きだった。


「鈴音ちゃんが来るから買っておいたのよ」


「ありがとう、お姉ちゃん」


私は早速、甘栗の皮を剥き始めた。


「あ…」


すると亮平が何か言いかけた。


「何?亮平」


「どうしたの?亮平くん」


「い、いや…俺も鈴音の為に今、甘栗買ってきたから…」


「え?そうなの?!」


驚いて亮平の顔を見た。


「あ、ああ…お前を探し回っていたら甘栗を売ってる店を見かけたから…」


「ありがとう、亮平…」


「べ、別に!お前の好きな甘栗持ち歩いていれば、匂いにつられて鈴音が現れるんじゃないかと思ったからさ。と、兎に角もうあまり心配掛けさせるな!」


そんな、犬猫じゃあるまいし…。


だけど…。


フンッとそっぽを向く亮平の耳は…少しだけ赤くなっていた―。





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