第18章 20 立ち聞き。そして…

 亮平の事でお姉ちゃんに誤解されたくない為に咄嗟に家を出て来てしまったけど行き先が決まらなくて困った。すぐに帰る訳には行かないし、ぶらぶら歩いているといつの間にか駅前商店街までやって来ていた。その時ファミレスが目に入った。そうだ、あの店でコーヒーでも飲みながら真理ちゃんに新年会の話をしてみよう。

そこで私はファミレスへと足を向けた―。



 窓際の一番奥のボックス席に座った私はホットコーヒーを注文すると早速スマホを取り出した。う~ん…メールにするか、電話にするか迷ったけれども…結局メールを送ることにした。


『久しぶり、元気にしてた?井上君が来年1月10日に新年会を開こうって誘われてるけど、都合はどう?』


それだけ簡単にメールを打つと、私は窓の外に目を向けた。町を行き交う人達にどうしても私は若いカップルだけを見つめてしまう。どのカップルも仲良さげに手を繋いで町を歩いている。


直人さん…。今どうしてる?恵利さんと…うまくいってる?今…幸せ?


その時…。


「あ、あの。お待たせ致しました」


不意に声を掛けられ、驚いて見上げると高校生らしき店員の男の子が戸惑ったように私を見ていた。トレーにはコーヒーが乗っている。彼は何やら気まずそうにしていた。その時、私は気が付いた。いつの間にか涙を流していた事に。


や、やだ!


慌てて目をゴシゴシ擦っていると、目の前にコトンと湯気の立つコーヒーカップを置かれた。


「ありがとうございます」


「い、いえ!ごゆっくりどうぞ!」


泣き顔を見られた事をごまかすために笑みを浮かべてお礼を言うと、男の子は顔を真っ赤にさせて頭を下げると慌てて去って行った。


「はぁ…お店の人に泣き顔見られちゃった…」


私は、相当重症なのかもしれない。こんなにもまだ直人さんの事を思い出しては涙が出てしまうなんて…。早く忘れなくちゃいけない人なのに、今だにズルズル引きずっている。こんな自分がすごく嫌でたまらない。


「何か、趣味見つけよう…」


私はポツリと呟いた。趣味に没頭すれば…直人さんの事早く忘れられるよね…。

取りあえず何か通信教育でも始めてみようかな?ネットで何か調べてみよう。

私はスマホを手に取った―。




 結局30分ほどネット検索してみたけれども、これと言って目ぼしいものが見当たらなかった。


…帰ろう。コーヒーも飲んでしまったし、真理ちゃんは忙しいのか、まだ返信も返って来ていないし。椅子の上に置いておいた上着を着てトートバックを持つと、伝票を手にしてレジへと向かった。



 レジを担当していたのは先ほど私にコーヒーを運んできてくれたアルバイトの男の子だった。彼はずっとレジの方を向いている。


「380円になります」


「お願いします」


お財布から丁度の金額を出し、レジのトレーに置いた。


「レシートのお返しになります」


そして彼はこの時になって初めて私の方に顔を上げると小声で言った。


「元気出して下さい」


「え?」


すると彼は顔を真っ赤にすると言った。


「ありがとうございました!」



 ファミレスを出たのは11時半を過ぎていた。いつの間にかもうすぐ昼になろうとしてたなんて…。


「みかん買って帰ろう」


その足でスーパーへ向かい、Lサイズのミカンを1袋買うと、家に向かった。



****


「ただいま~…」


扉を開けて玄関を見ると、亮平のスニーカーが揃えてあった。亮平…今日は自分の家に帰らないのかな?それにしても何だかやけに家の中が静かだけど…。お姉ちゃんの靴もちゃんとあるし。不思議に思いながら靴を脱いで部屋に上がり、リビングに足を向けた時、亮平の声が聞こえて来た。



「それで…どんな結婚式を考えてる?」


え…?結婚式…?


心臓が一瞬止まりそうになった。


「そうね…鈴音ちゃんにプランを立てて貰いたいわ。何と言っても旅行会社に勤めているんだもの。リゾートウェディングなんて素敵じゃない?」


お姉ちゃんの嬉しそうな声が聞こえて来る。


ズキッ!


胸に痛みが走る。


「そうだな。鈴音に決めてもらうのが一番かもしれない」


亮平の声も弾んでいる。


ドクン


ドクン


私の心臓の音が大きくなる。


そ、そんな…ついに2人は…結婚…するの…?



私は訳の分からない苦しみで胸を抑えた―。






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