第18章 9 亮平の追求

 女湯から出てみると、すでにロビーでは亮平が椅子に座って雑誌を読んでいた。


「お待たせ、亮平」


近付いて声を掛けると亮平が顔を上げた。


「お、鈴音。上がったか」


「うん、ごめんね。待った?」


「いや、俺もついさっき出てきたところだ。」


言いながら亮平はスポーツバッグに雑誌をしまうと立ち上がった。


「よし、それじゃ飯食って帰ろうぜ」


「うん、行こう」


そして私達は連れ立って1階に降りると併設されているレストランへ向かった―。



 レストランはあまり混んではいなかった。私と亮平は窓際の4人がけのテーブル席に座ると早速亮平がメニューを差し出してきた。


「好きなの注文しろよ。今夜は俺の奢りだ。好きなものじゃんじゃん食えよ。大体鈴音、お前痩せすぎなんだよ」


「でもいいの?本当に奢って貰っても…?」


メニュー表を広げながら尋ねた。


「いいんだよ。ボーナス出たばかりなんだから。お?このサイコロステーキ、うまそうだな。俺はこれにするか。鈴音は決まったか?」


「う〜ん…それじゃあんかけうどんにしようかな…」


すると亮平は私からメニュー表を取り上げた。


「は?何だよ、それ。お前、そんなので晩飯済まそうと思ってるのか?」


「う、うん…駄目かな?」


「うどんなんて夜に食うメニューじゃない。もういい、俺が注文する」


「え?そんな!好きなもの食べていいって言ったのは亮平じゃない」


しかし、亮平は聞く耳を持たずにメニューを眺めている。


「よし、お前のメニューはこれだ。ミックスフライ定食!これにしよう!」


「ちょ、ちょっと待って!そんなに無理だってば!」


ミックスフライ定食…揚げ物メニューのオンパレードだ。エビフライにアジフライ、クリームコロッケにメンチカツ…これだけ見ても恐ろしいカロリーになりそうなのに、更にごはん付きなんて。


「うう…どうしてもそれにしなくちゃ駄目なの?」


情けない声で尋ねる。


「ああ、そうだ。大体鈴音、お前自分の体型鏡で見たことあるのか?まるでマッチ棒みたいだぞ」


「マッチ棒…」


いくら何でもそれは少し言い過ぎなのでは?


「ほら、後アルコールも注文しようぜ。何にする?」


亮平が今度はアルコールだけが乗っているメニュー表を差し出してきた。


「それじゃ、グレープフルーツサワーにするよ」


「よしきた。俺は当然生ビールだな」


「食券買ってくる。待ってろよ」


立ち上がった亮平に私は呼びかけた。


「あ、待って!亮平」


「何だ?」


「ミックスフライだけにして。ごはん抜きで」


「分かったよ」


そして亮平は券売機へ向かい、私は窓の外から見える景色を眺めて待つことにした。




「お待たせ」


5分ほど経ったところに亮平が戻ってきた。


「あ、お帰り。遅かったね」


「うん?そうか?ちょっと電話もしてたからな」


「電話?」


「ああ」


電話くらいここでかければいいのに…それとも私に聞かれたくない内容だったのかな?


「ふ〜ん。そうなんだ」


テーブルに置かれた水差しからコップに水をいれて飲んでいると、突然亮平が言った。


「ところで鈴音。お前…また別の男から告白されたんだって?」


「な?!ゴホッ!ゴホッ!」


突然の亮平の言葉にむせこんでしまった。


「お、おい。大丈夫か?」


亮平が慌てて声を掛けてくる。


「ゴホッ!う…だ、大丈夫。だ、だけどどうして知ってるの?まさか…お姉ちゃんに聞いたの?」


「ああ、そうだ。同期の男か?」


「え・・?ち、違うよ、会社の先輩…だよ」


「そうか。どんな男なんだ?」


亮平が身を乗り出して真剣な目で尋ねてきた―。



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