第17章 20 人恋しい夜

 22時半―


「それじゃ、そろそろ俺帰るな」


2人で宅飲みした後、手分けして片づけを終えると亮平が言った。


「うん、気を付けて帰ってね」


すると亮平がため息交じりに言う。


「だから前にも言ったろう?俺は男だからそんな心配する必要無いって。それに鈴音がこっちに引っ越ししてきたから家だってグッと近くなったし」


話をしながら亮平がコートを羽織って玄関へ向かう。私も見送る為に玄関までついて行った。玄関で亮平は靴を履くと言った。


「この部屋、以前住んでいた処よりもずっといいじゃないか。風呂もついているんだろう?何より職場から近いんだものな。第一もう煩わしい思いをしなくていいじゃないか」


煩わしい思い…それはきっと直人さんが住んでいたマンションの事を言ってるんだろうな。


「うん…そうだね」


「…」


力なく返事をする私を亮平は黙って見ていたが、不意に亮平の手が伸びてくると頭の上に乗せられた。


「まぁ…元気出せよ。あいつとの事は縁が無かったって事だ。鈴音ならきっとまた別に相手が見つかるだろう」


「だけど、亮平。私当分恋愛は…」


言いかけた時、亮平のスマホが鳴った。


「あ、悪いな。ちょっと電話出るから」


「うん」


亮平はスマホを取り出すと言った。


「あ。忍からだ」


「え?お姉ちゃんから?」


「ああ、そうだ。それじゃあな、鈴音」


「え?亮平?」


「もしもし?」


亮平はお姉ちゃんとの電話の内容を聞かれたくないのか、電話に出たまま玄関の扉が閉まってしまった。


「亮平…」


とたんにさっきまで賑やかだった部屋がまたシンと静まり返る。やっぱりいくら幼馴染で、交際相手がお姉ちゃんでも恋人同士の会話を聞かれたくないのかな?


「…」


少しだけ、俯いて玄関で立っていたけれど、気を取り直す事にした。


「お風呂入ろう」


私は早速お風呂場へ移動し、浴槽にお湯を張ってお風呂の準備を始めた。部屋に戻ってパジャマやバスタオル、タオルを用意して脱衣所へ戻った私は備え付けの棚を眺めた。


「今日はどの入浴剤にしようかな…」


そして最近買ったばかりの入浴剤に手を伸ばした。


「よし、今夜はこれにしよう」


入浴剤のチョイスも終わり、お風呂場をのぞいてみると丁度良い具合にお湯がたまっていた。すぐにお湯を止めて脱衣所に戻ると、私は服を脱いだ―。




「ふ~…今日もいいお湯だな…」


お風呂のお湯を手ですくって、パシャパシャと肩にかける。今夜のお風呂はレモン風呂にした。浴槽にはレモンの良い香りが漂っている。


「フフ…今度はどんな入浴剤を試してみようかな…?」


頭の中で様々な入浴剤を思い浮かべながら、大好きなお風呂にゆっくり浸かった。


****


 すっかり身体も温まり、パジャマに着替えて濡れた髪をバスタオルで拭いながら部屋に戻るとテーブルの上に置いてあったスマホがチカチカ点滅して着信を知らせていた。


「亮平かな?」


スマホをタップすると、メールの着信相手は太田先輩からだった。しかも今回も動画が張り付けてある。私はメールをタップしてみた。


『シロの公開動画第2弾』


メールにはそれだけ書かれている。


「へ~どんな動画なんだろう?」


早速動画を再生させてみた。するとそこに映る動画はシロがスヤスヤ眠っている動画だった。時折尻尾をパタパタ動かしたり、髭をピクピク動かして眠る様は本当に愛らしかった。


「先輩、また送ってくれたんだ…」


何だかその動画を観ていたら、私も猫を飼いたくなってしまった。やっぱり1人きりで部屋で過ごしていると、無性に人恋しくなって寂しくなってくる。まして私は直人さんと別れたばかり。


「私も猫飼いたいな…」


気付けばポツリと呟いていた―。

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