第17章 17 戻りつつある日常

 10時になって太田先輩が出社してきた。私はPCで顧客データを入力していた手を止めて先輩が席に座る前に素早く近づき声を掛けた。


「おはようございます」


「ああ、おはよう。加藤さん」


太田先輩は爽やかな笑顔で挨拶を返してくれた。


「昨夜、動画を送っていただいてありがとうございます。おかげさまで元気が出ました」


「そうか、シロの動画気に入ってくれたのか」


「え?シロ?もしかしてあの子猫、シロって名前なんですか?」


「ああ、そうだよ。毛並みが白だからシロって名付けたんだ」


「そうだったんですね。シロちゃんですか…とても可愛かったです。本当にありがとうございます。では失礼します」


「ああ」


頭をさげて席へ戻ると井上君が小声で話しかけてきた。


「何?昨夜…太田先輩と何かあったのかい?」


「え?別に。メール貰っただけだよ」


それだけ答え、再びPCに向かってキーボードを叩き始めると、何か言いたげだった井上くんも再び仕事を始めた―。




****


 お昼休み―


コートを羽織って、代理店を出てランチに向かった。


「今日はどこで食べようかな…」


歩きながらお店を散策していると、ふと前方に見たことの無いベーカリーショップが目に入った。


「あれ?いつの間にオープンしたんだろう?」


近付いて中を覗いてみると、そのベーカリーショップは店内で購入したパンも食べられるようになっていた。


「へ〜…ちょっとしたカフェみたい。コーヒーも売ってるみたいだし…」


よし、今日のランチはこのお店にしよう。私は店内へ足を踏み入れた。



 お店に中はお昼の時間帯ということもあり、なかなか盛況だった。そしてお客の殆どは女性が大半を締めていた。陳列棚には大きなトレーやバスケットの上に載せられた様々な種類のパンが売られている。どれも美味しそうで、さんざん迷ったけど、とりあえずハーブとチーズの練り込まれたパンといちじくとナッツのテーブルパンを購入することにした。ついでに飲み物はグリーンスムージーを注文した。

品物を受け取ると私は窓際のカウンター席にトレーを持って移動すると席に付いた。


「頂きます」


早速いちじくとナッツのテーブルパンを口に入れるとドライフルーツの程よい甘みが弾力のあるパンにとてもよく馴染んで美味しかった。


「美味しい…。そうだ、何時までこの店やってるのかな?」


店内をキョロキョロ見渡してみると、このお店のポスターが貼られていた。見ると営業時間は朝の7時〜20時までとなっている。そうだ、明日の朝食用に仕事の帰りにまたこの店に来よう…そんな事を考えているとスマホに着信が入ってきた。相手は亮平からだった。


『鈴音、今夜お前のマンションへ寄っていいか?2人で引っ越し祝しないか?』


「引越し祝いか…」


まだ部屋の中の片付け終わっていないんだけどな…。でも私の事を元気づけてくれようとしているのかもしれないし…。


『うん、いいよ。何時頃になりそう?』


メールを返信すると、直後に電話がかかってきた。


「もしもし?」


『鈴音、今昼休みなんだろう?電話大丈夫だよな?』


「うん、大丈夫だよ。亮平はお昼食べたの?」


『いや、これからなんだ。今外回りの最中なんだ。何か食べ物買って行くからお前は何も用意しなくていいからな?多分19時位には行けると思うから』


「え?いいの?でも何か簡単なものくらい用意できるけど?」


『でも鈴音だって仕事だろう?無理しなくていいぞ?』


「それじゃあさ、もし用意できそうなら何か準備しておくよ」


『そうか、悪いな。でも本当に無理しなくていいからな?』


「うん。分かったよ」


『じゃあまた夜にな』


「またね」


そして電話を切った。


「そうだ、ここのパンを買って亮平に食べさせてあげよう。ついでにお姉ちゃんにも持っていってもらおう。」


私は自分の日常生活が少しずつ戻ってきていることを感じた―。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る