第17章 14 寂しいクリスマス


「ふう…ただいま〜…」


 仕事が終わって誰もいない新居に帰ってくると、玄関脇に付いている壁のスイッチに触れて部屋の電気をつけた。靴を脱い部屋に上がり込むと持っていたレジ袋をドサリと床に置く。

壁に掛けてある時計を見ると時刻は21時半だった。


「やっぱり家が近いって良いな。自転車で10分位で職場に着いちゃうんだもの。引っ越して良かった」


私はわざと言葉に出して自分を納得させた。そして足元にあるダンボール箱を見た。


「…」


このダンボールの中には食器が入っている。私と直人さんのペアで買った食器が…。私はため息をつきながら、段ボール箱のガムテープをベリベリと剥がした。そして蓋を開けると、そこには新聞紙にくるまれた食器が入っている。

震える手で新聞紙にくるまれた食器を手に取り、開封してしみた。


「!」


それは直人さんが使っていたお茶碗だった。


「…っ」


慌てて新聞紙に包み直すとそっと床の上に置く。


「やっぱり…もったいなかったかもしれないけど、捨ててくれば良かったかな…」


思わずポツリと呟いた。亮平に言われるまま持ってきてしまったけれども、やっぱり私の心はまだ弱い。だって直人さんの使っていた食器を目にすることが出来ないのだから。それに昨夜と今朝、恵利さんからあんなメールを目にしてしまったから…尚更だ。


「これは…まだダンボール箱に入れておこう。とりあえずは自分の食器だけ出してしまっておこう」


わざと言葉に出して、自分を奮い立たせると食器の仕分けを始めた―。



****


22時―


「ふう〜…やっと終わった。」


洗い終えて、拭いた食器を備え付けの食器棚にしまうとエプロンを外した。

結局あの後、直人さんが使っていた食器は小さな段ボール箱に入れ直し、自分が使っている食器だけを取り出して洗った。

私は足元にある小さな段ボール箱を見下ろして思った。いつか…この食器を見ても胸が傷まない日がくるのかな?


「さて…遅くなっちゃったけど、ご飯食べようかな」


床の上に置いたレジ袋からコンビニで買って来たドリアとチキンを取り出し、ドリアはレンジに入れて、チキンはアルミホイルの上に置いてオーブントースターに入れて調理時間のタイマーをセットした。そして冷蔵庫に冷やしておいた缶に入ったカクテルのプルタブをプシュッと開けて、クイッと飲んだ。


「うん、美味しい」


カクテルを持ったまま部屋に行き、センターテーブルの前に座ってゆっくりカクテルを飲んでいると、キッチンで電子レンジとオーブントースターのタイマーが同時に終了した。


「あ、出来たかな?」


飲みかけのカクテルをテーブルの前に置いてキッチンに料理を取りに行ってみると、

レンジの中ではドリアはグツグツいってるし、オーブントースターで焼き直したチキンは皮目がパリッと焼けて美味しそうだった。私はチキンを取皿に乗せてお盆にドリアとチキンを乗せると部屋に運んだ。


「うん。これで少しはクリスマスらしくなったかな?」


そして既に口をつけてしまったカクテル缶を持って小声で『乾杯』と言って、再びカクテルを飲むと熱々のドリアをフォークですくってフウフウと冷ましながら口に入れてみた。


「美味しい。へ〜コンビニのドリアって初めてたべるけど、こんなに美味しかったんだ。チキンはどうかな〜」


クリスマス限定のチキンもとても美味しかった。私は熱々のドリアとチキンを食べながら思った。


亮平とお姉ちゃん、そして…直人さんと恵利さんは今頃どんなクリスマスを過ごしているのだろう―と…。






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