第17章 12 最後のメール

 その写真を見た時、思わずスマホを取り落しそうになってしまった。


「こ、この部屋…間違いない。直人さんと初めてデートしたときに泊まった部屋と同じ…」


思わず声が震えてしまった。だけど…写真の中の恵利さんは楽しげに笑っている。と言う事は…直人さんともうまくいってるって事だよね?直人さんが楽しげにしているから、恵利さんも笑っているんだ。私は無理にそう思うことにした。


「これって…返事返さないといけないのかな…?」


やっぱりメールを貰っているのに返信をしないのは失礼に値するかもしれない。だから私は、返信をすることにした。


「どうしよう…何て返信すればいいのかな…?」


少し悩んでから、メールを打ち始めた。


『楽しくクリスマスイブを過ごされているようで何よりです。お幸せに』


それだけ書いてメッセージを送ると、ため息を付いた。これでもう恵利さんからメールが届くことは無いだろう…。だって直人さんとイブの夜を2人で過ごしているのだから…。


私はそう思っていた。


なのに、またメールが届くなんて―。



****


翌朝7時―


ピピピピピ…


「う〜ん…」


スマホにセットしたアラームが7時を告げる音を鳴らしている。布団の中から手を出して、枕元に置いてあるスマホを手探りで探すと、私はアラームを止めてベッドから起き上がった。


「フワアアア…」


欠伸をしながら大きく伸びをした。それにしても昨夜はよく眠れた。直人さんと別れてから私はずっと眠れない日々を過ごしてきた。おまけにここは引越して来たばかりで慣れない部屋だと言うのに、こんなにぐっすり眠ってしまうなんて…。


「引っ越しで疲れたから眠れたのかな…?」


ベッドから起き上がると、部屋のカーテンを開けた。今朝もとても良い天気で大きな窓から朝日がよく見えた。今度の部屋は以前住んでいた部屋より高い階にあるので眺めも良かった。


「さて、着替えよう」


私は着替えに手を伸ばした―。


****


 洗濯物を回すと、お財布を持って1階にあるコンビニへ向かった。まだ食器や料理器具が入ったダンボールの箱が未開封だったからだ。

自動ドアをくぐり抜けてコンビニの中へ入ると、おにぎりのコーナーへ向かった。そこで鮭のおにぎりにカップサラダ、お茶を買って自分の部屋へ戻った。


「やっぱりコンビニがあると便利だな〜10分以内に戻って来れちゃうんだから』


でもいくら便利でも利用はそこそこにしておかないと。お金なんてあっという間に無くなってしまうから。


 買ってきた食事をテーブルの上に置くと、早速テレビをつけて朝ごはんを食べ始めた。テレビの中ではクリスマスケーキのCMを流している。そう言えば今日はクリスマスだ。亮平はお姉ちゃんと一緒にクリスマスを過ごすんだっけ…。


 コンビニで買った食事を全て食べ終えた時、スマホがチカチカ光っていることに気がついた。


「あれ?気付かなかった。着信が入っている」


何気なくスマホに手を伸ばし、着信相手を見た。


ドクン!


再び私の心臓の鼓動が大きくなる。


「ど、どうして…?」


着信相手は恵利さんだった。何故?どうして私にまたメールを送って来るの?昨夜は直人さんとホテルで過ごしているんでしょう?恵利さんが私にメールを送っていること…直人さんは知ってるの…?


イヤだ。

もう勘弁して欲しい。私はもう完全に2人の前から消えた人間なのに…どうして恵利さんは私を放っておいてくれないの?


震える手でスマホをタップして恵利さんからのメールを開く。



『貴女に言われなくても勝手に幸せになるわ。もう二度と貴女の前に現れないし、連絡もこれが最後にするわ。さよなら。』


メールにはそう、書かれていた―。


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