第16章 20 孤独

 直人さんからの電話…!

いや…そんな2人で話をしている姿なんて見たくない…!私は震えながら恵利さんに見つからないようにお財布からコーヒー代として1000円を抜き取るとテーブルの上に置いて、上着を掴むと席を立ち上がった。


「ちょ、ちょっと!何処へ行くのよ!逃げるつもりっ?!」


恵利さんがスマホを握ったまま大きな声で私に言う。だけど、私は後ろを振り返らずにカフェの自動ドアを通り抜けて駅に向かって走った。早く・・一刻も早くあの場所から逃げたい!

私は人目を気にする余裕も無く、駅までずっと走り続けた―。




ガタンゴトン

ガタンゴトン…


気付けば私は電車の中にいた。窓ガラスに映し出された私の顔は酷い有様だった。髪は乱れ、酷くやつれた顔をしている。何とも情けない顔になっていた。

そして先程の光景を思い出して思わず目頭が熱くなってしまい、私は必死で涙を堪えた。

恵利さんにかかってきた直人さんからの電話…。私が知らない、新しい電話番号。もう二度とかかってくることは決してない。自分の最寄り駅に着くまでの間…唇を噛み締め、涙を堪え続けた―。



****


 新小岩駅に到着した頃にはすでに22時を過ぎていた。つい、改札を出ると決してそこにいるはずはない直人さんの姿を探してしまい、ため息を付いた。


「馬鹿だな…直人さんがいるはずないのに…」


どうしようもない悲しみを胸に抱えたまま、駐輪場へ向かった。


ガチャン


駐輪場から自転車を引き抜き、歩道まで押して歩くと自転車に乗った。普段ならコンビニかスーパーに寄ってからマンションへ帰るのに食欲なんか皆無だった私はそのまま自分のマンションへと向かった―。



キーッ…


マンションにつくと、つい直人さんの住んでいる部屋を見上げてしまう。電気の消えた真っ暗な部屋…。もう合鍵も恵利さんに返してしまった。私と直人さんをつなぐものは全て消えてしまった。

気付けば視界が滲んで見えた。いつの間にか涙を浮かべながら直人さんが住んでいたマンションを見上げていたようだった。


「部屋に帰ろう…」


自転車を駐輪場にしまうとふらつく足取りで部屋の前にやってきた。ショルダーバッグから鍵を取り出し、差し込んでカチャリと回す。ドアノブを回して扉を開けると真っ暗な自分の部屋が目の前に飛び込んできた。


「…」


この瞬間―


どうしようも無い程の孤独を覚えた。お姉ちゃんとの関係は最悪だった頃に比べると見違える程改善した。だけどまだ精神の方は完全に安定したとは言えず、頼りにする事が出来ない。そして…亮平。今の亮平はすごく私の事を気にかけてくれるけれども、お姉ちゃんの恋人。だから私は遠慮しなければいけない。


「シャワー浴びてこよう…」


部屋に入ると電気を付けて明るくした。カーテンを閉めて、タンスから着替えを出すと着替えを持ってバスルームへと向かった。



「…」


シャーッ…


熱いシャワーを頭から浴びながら、恵利さんとの会話を思い出していた。ひょっとして直人さんは今日恵利さんと私が会う事を知っていたのかも知れない。だから合鍵を返して貰うように私に伝えて欲しいと頼んだ可能性がある。だとしたら…。


「そっか…もう恵利さんとの仲はうまくいってるって事だよね…?だって2月に結婚するんだし…」


思わず口に出していた―。



 バスタオルで濡れた髪を拭きながらバスルームを出ると、部屋のテーブルの上でスマホが鳴っている。


「もしかしてお姉ちゃんかな?」


テーブルに近づきスマホに手を伸ばすと、着信相手は亮平からだった―。



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