第15章 15 2人で朝ごはん
洗濯を干し終えると時刻はもう8時になろうとしていた。
「大変!早く行かなくちゃ!」
貴重品をショルダーバッグに入れ、戸締りをした私は川口さんの部屋へと向かった。
「えっと、確か川口さんの部屋は501号室だったかな…」
一応マンション入口にある郵便ポストを確認すると501号室に『川口』と書かれている。確認を終えるとエレベーターホールへと向かった―。
501号室へ着いた私はインターホンを押そうとして、鍵を預かっていることを思い出した。そこで鍵を取り出して鍵を開けるとドアノブに手を掛けた。
キイ~…
「お邪魔します…」
遠慮がちに声を掛けて玄関へ入り、改めて部屋の中を見た。
「すごい部屋…」
部屋の中は綺麗だし、部屋に置かれたインテリアも私の様に安物を寄せ集めた家具とは一味違う。何というか、すごく上品で高級感が漂っている。
「引っ越し屋さんのお給料ってそんなにいいのかな…」
それにしても…肝心の川口さんがいない。このまま部屋にあがってもいいかな…?
どうすればいいか分らず玄関で立ち尽くしていた。
「あれ?鈴音。そんなところで何してるんだ?」
不意に声を掛けられ、そちらを振り向くとシャワーを浴びてきたのか腰にバスタオルを巻き付けた姿の川口さんが現れた。
ヒッ!
心の中で悲鳴を上げ、内心の動揺を隠しつつ私は笑みを浮かべて川口さんを見ると言った。
「あ、あの…も、戻りました…」
「うん。お帰り。」
川口さんはニッコリ笑うと言った。
「ごめん。シャワー浴びてたから…ん?どうして上がらないんだい?おいで。」
私がいつまでも玄関に立っていたからか、手招きしてきた。
「う、うん。お邪魔します…」
川口さんは私が靴を脱いで部屋に上がる様子をじっと見つめている。
「?」
首を傾げた途端、突然腕が伸びて来て抱きしめられた。
「え?あ、あのっ!」
上半身裸の胸に顔を押し付けられて、たちまち顔が赤面してしまう。
「お邪魔しますじゃなくて、ただいまって言って欲しいな」
隆司さんと同じ事を言われてしまった。男の人って、そういう事気にするのかな?そこで私は言った。
「ただいま…直人、さん」
「お帰り、鈴音」
そして再び川口さんに顎をつままれ、キスされた―。
「え・・?これ、全部直人さんが作ったの?」
センターテーブルに並べられた朝ご飯を見て驚いた。
ご飯、わかめと豆腐の味噌汁、ほうれん草の胡麻和え、焼き鮭にだし巻き卵が乗っている。
「そうだよ。食べよう」
川口さんはニコニコしながら言う。
「す、すごい…直人さんて料理が得意だったんだね…料理が得意な男の人って初めて見たよ。すごく美味しそう。頂きまーす」
「頂きます」
2人で向かい合わせに座って食べる朝食。炊きたてご飯は美味しいし、だし巻き卵はフワフワで味付けも私好みだった。
「ねえ、このだしまき卵って、前に一緒に食べに行った焼き鳥屋さんで食べた親子丼に味が似てる気がする」
卵を食べながら川口さんを見た。
「それは当然さ。鈴音があの店の親子丼を気に入っていたから…似たような味付けにしてみたんだ。喜ぶ顔が見たかったから」
「あ、ありがとう…」
その言葉に再び、顔が赤くなってしまった。
「恋人なんだから当然さ」
川口さんはサラリと言ってのける。そんな彼を見て思った。前の彼女だったすみれさんはこんなに優しい川口さんと別れたくなかったんじゃないのかな…と。
「あのさ、食事が終わったら何がしたい?」
食事をしながら川口さんが尋ねてきた。
「うん、そうだね…。何でもいいけど…。」
「それじゃ、DVDを借りに行かないかい?よく考えてみると、鈴音は退院して間もなかったのに…昨夜は無理させてしまったからね。ごめん、反省してる。」
その言葉に思わず私はむせてしまった。
「ゴホッゴホッ!」
「だ、大丈夫か?」
慌てて声を掛けて来る川口さん。その時…
トゥルルルル...
トゥルルルル...
私のスマホに着信音が鳴り始めた。
「あ…」
私は着信相手を見て息を飲んだ。
相手はお姉ちゃんだった―。
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