第15章 10 お土産
「誰だ?電話の相手は・・?」
何処かイラついた口調で亮平は尋ねてきた。
「川口さんからだよ」
それだけ言うと、私はスマホをタップして電話に出た。
「もしもし?」
『あ、今電話大丈夫かな?』
私は亮平をチラリと見ると返事をした。
「うん。大丈夫だよ」
『そっか・・なら良かった。今どこにいるんだい?何時頃迎えに行こうか聞いておきたくて。』
「う~ん・・・ちょっと待ってね。すぐにかけなおすから」
『え?う、うん・・分かった。電話待ってるよ』
電話を切ると亮平を見た。
「電話・・もう終わったのか?」
「まだだよ、すぐにかけなおすから・・・ねえ、それより何時ごろ新小岩の駅に着きそう?」
「は?俺はマンションまでお前を送るつもりなんだぞ?」
亮平はチラリと私を見ると言った。
「それは駄目、困るよ」
「何で困るんだよ?」
「だって自転車を駅前にとめてあるんだから」
「え?そうなのか?」
亮平は前を向いたまま言う。
「そうだよ、さっき会話の中で話したけど?自転車だって買ったって。今日だって自転車で来てるんだよ?」
「そんなもの置いていけばいいじゃないか」
また身勝手な事を言ってくる。
「そんなわけにいかないよ。明日自転車がないと駅に出るのに不便じゃない」
「理由・・・それだけじゃないだろう?」
何故か不機嫌そうな声になる亮平。
「え・・?」
「駅まで迎えに来るって言われたんじゃないのか?」
「そうだよ」
隠してもしょうがないし、正直に答える。
「そうか・・やっぱりあいつが・・」
「あいつって言い方はやめて!」
思わずきつい言い方になってしまった。その時、信号が丁度赤になって車が止まった。
「鈴音・・・お前・・・」
亮平は私の言葉遣いに驚いたように見る。
「駅に着く時間を教えて。彼が・・・電話待ってるから」
わざと『彼』と言った。
「・・・」
亮平はどこか悲し気な目で私を見つめ・・カーナビを見た。そして信号が青に変わり、亮平が再びアクセルを踏む。
「多分・・22時ちょっと過ぎくらいには着くんじゃないか・・?」
「ありがとう」
すぐにスマホをタップすると川口さんの番号を呼び出した。川口さんは電話を待っていたのか、1コール目ですぐに出てくれた。
『もしもし?』
「あのね、22時過ぎ位には着きそうだよ?」
『分かった。22時過ぎだな?駅の改札で待つよ』
「ううん。駅前で待っていてくれると助かるかな」
『駅前・・・?分かったよ、それじゃ』
そして電話が切れた。
「亮平・・・駅前で降ろしてくれる?」
「・・分かったよ・・」
「ところで、高尾山デートはどう?あまり詳しく聞いていなかったから教えてもらえる?」
「デート・・」
亮平が口の中で小さくつぶやく。
「そう、デート。今日はお天気も良かったから・・美術館も混んでいたんじゃない?」
「いや・・美術館はそうでもなかった。でも高尾山口の駅はこんでいたかな」
「え・・?駅に行ったの?」
「ああ・・実は忍と2人で鈴音のお土産を選んで買ったんだよ。後部座席に置いてあるんだ」
「そうなの?」
首をグルリと回して後部差座席を見ると白い紙バッグが置いてある。
「あれがそうなの?」
「ああ・・それを渡す為に・・鈴音の勤め先へ行ったんだよ」
「え・・・?わざわざ届けに・・?お姉ちゃんに預かっててもらえばよかったのに」
すると亮平が言った。
「俺が・・・」
「え?」
すると亮平は不意に車を止めた。見ると、そこはもう新小岩の駅前だった。
「俺が・・お前に直接渡したかったからだよ」
亮平は私を見つめると言った―。
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