第12章 14 暫くの別れ
「え・・?何でだよ・・。身体を動かせるようになるまでは・・面会には来るなって・・それ一体どういう意味なんだ?」
亮平が声を震わせながら私を見下ろす。
「言葉通りの意味だよ・・・。私はまだ・・全然身体が本調子じゃないから・・こんな風に1日中ウトウトする日が続いてるんだよ・・。でも、そんな状態の私を見ると・・亮平心配になるんでしょう・・・?」
「そ、そんなの・・心配するの当り前じゃないかっ!あ・・・ご、ごめん・・。病院の中なのに・・大きな声出してしまって・・・。」
亮平が項垂れたように言う。
「だから・・だよ。」
「え?」
「亮平が・・心配してしまうから・・・良くなるまでは、面会に来ないでって言ってるの・・。」
「だ、だけど・・!」
「亮平・・・私が交通事故に遭った事・・ひょっとして自分の事責めていない?」
すると、その言葉を聞いた亮平の方がピクリと動いた。そう・・・やっぱり・・。
私は溜息をつくと言った。
「私が・・交通事故に遭ったのは・・・亮平のせいじゃ・・ないからね?」
「だけど・・・。俺はあの時・・足がすくんで・・動けなかったんだ。忍が危ない事分っていたのに・・。なのにお前は迷うことなく忍を助けに交差点に入って行って・・・。」
「あの時は・・・怖いっていうよりも・・・お姉ちゃんを助けなくちゃって気持ちの方が・・勝っていたから・・だよ・・。」
「鈴音・・・。」
「交差点に入って・・お姉ちゃんを助けて事故に遭ったのは・・私のせいだから・・・信号だって赤だったのに・・加害者の人には・・悪い事しちゃったかな・・。」
「な、何言ってるんだよ?鈴音・・お前、本当に・・死にかけていたんだからなっ?自分の事故がどれ程のものだったか・・分らないんだろう?お前・・本当に酷いありさまだったんだぞ・・?身体からは血が沢山出て・・ぐったりして、呼びかけにも返事しなくて・・・このまま死んでしまうんじゃないかと思うと・・怖くてたまらなかった・・。」
「・・・。」
「ごめんね。」
「え・・・?」
「凄く亮平に心配かけさせちゃったんだね・・・。私は・・。」
「鈴音・・・。」
「多分、この先も心配かけてしまうと思う・・だから一度私から・・離れて。私の事は一旦忘れてよ。」
「!」
亮平の目が大きく見開かれた。
「そ、そんな事言って・・・お、俺が納得出来ると思ってるのかよ・・?!」
「亮平・・?」
「鈴音・・今の忍の状況だと・・お前に面会に来るのは無理なんだ。それに・・鈴音はまだ事故から目覚めてから日が浅い・・だから本来なら俺は面会できない立場なんだよ。それを・・・病院側に無理を言って・・お前の面会の許可を得ることが出来たんだよ・・・。頼むから・・・そんな事言わないでくれよ・・・。」
亮平は私の痩せ細った、右手を布団の中から出すと両手で握りしめて来た。
亮平・・そこまで私の事を・・・?自分の心臓の音がドクンドクンと大きくなる。でも駄目だ・・・。今、こんな風に亮平が寄り添ってくれていたら・・その温もりを私はきっと忘れられなくなってしまうだろう。私の体調が回復すれば、亮平は私の元を去って・・お姉ちゃんの処へ帰って行ってしまうのだから。そんなのは私には辛すぎる。お願いだから行かないでと泣いてすがってしまうかもしれない。
だから私は・・今のうちにこの手を振り払わなくちゃならないんだ。これ以上・・自分が勘違いしない為に・・・。
「・・痛いよ。亮平。」
私は弱々しく言う。
「あ・・・ご、ごめん・・!」
亮平がパッと手を離した。
「亮平・・私ね・・・もうすぐリハビリが始まるんだ・・。きっと辛いリハビリの日々が続いて・・疲れると思う。」
「そう・・なるかもしれないな。」
「だから・・1人で部屋でゆっくり過ごしていたいの。」
その途端、亮平の顔が強張り・・・次に悲し気な目で私を見た。
「鈴音・・・お前は・・やっぱり・・・俺の事を・・・。」
「え・・?」
「ごめん・・・お前を困らせて・・・。帰るよ・・。」
亮平は今まで座っていた椅子から立ち上った。
「・・・じゃあな、鈴音・・・。リハビリ頑張れよ。」
「う・・うん・・・。出来れば・・。退院するまでは・・・。来ないで・・。」
辛い気持ちを押し殺して私は言う。
「わ・・分かった・・・。」
そのまま亮平は私の方を振り向くことなく・・部屋を出て行った。
「亮・・平・・・・・。」
亮平が出て行った後・・私の目からはとめどない涙があふれ出した。嫌だ、行かないで。傍にいてよ・・。何度この言葉を言い出したくなったことか・・。
でも言えない。亮平は私の物にはならない。何故なら亮平は・・お姉ちゃんの恋人だから・・。
そして・・・亮平は本当にその後、一度も面会に訪れる事は無かった・・。
私が病院を退院するその日まで―。
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