第12章 8 涙の再会

 翌日―



私はまだ自分の力で食事を取る事は出来なかった。点滴で体力を付けて、流動食から徐々に普通の食事に切り替えて行きましょうとのことで、今点滴を受けながらぼんやりと個室の窓から見える外の景色を眺めていた。

そう言えば・・・今日は何月何日の何曜日なんだろう・・。

その時・・。


コンコン


病室のドアがノックされ、看護師さんがワゴンを押して部屋に入ってきた。看護師さんは私が目を覚ましているのを見て声を掛けて来た。


「あら、起きていたんですね?加藤さん。」


「は・・い・・・。」


「では検温しましょうね。」


看護師さんは私の額の前に検温器を持ってきた。


ピッ


小さな機械音と共に検温終了の音が流れる。


「36.8度ね・・。」


ワゴンの上に置いたノートパソコンに看護師さんは入力していく。


「あの・・・。」


私は看護師さんに声を掛けた。


「何ですか?加藤さん。」


「今日は・・・何月何日ですか・・?」


「今日?今日はね。6月5日の土曜日・・午前7時よ。」


「6月5日・・・。土曜日・・。」


本当に・・あれから3か月が経過していたんだ・・あの同窓会から・・・。

事故直後の記憶は私にはほとんどないけど、直前の事ならようやく最近思い出せるようになっていた。

あの時・・お姉ちゃんは・・。


私の点滴の量をチェックしながら看護師さんは言った。


「それにしても・・加藤さん、ようやくICUから個室に移れたから・・・彼氏と会えるわね。」


「彼氏・・・?」


彼氏って誰の事だろう?私にはそんな人はいない。


「加藤さん、入院中・・いろんな人からお見舞いの品が沢山届いていたのよ。この部屋のロッカーに入れてあるからいずれ歩けるようになったら見て見るといいわ。」


「歩ける・・・?あの・・・私・・また歩けるように・・なるのでしょうか・・?」


交通事故に遭って・・・3か月も意識を無くしていた私はもう一度自分で歩けるようになるのか不安でたまらなかった。


「ええ、勿論よ。確かに複雑骨折はしてしまったけど・・・足の神経は痛めなかったし、それに・・加藤さんは凄く運が良かったのよ。大事な頭や首がそれほどダメージを受けなかったそうなのよ。」


「そう・・だったんですか・・。なら・・私、また・・歩けるようになるんですね・・?」


「ええ、そうよ。だから・・頑張ってリハビリしましょうね・・?」


「はい・・分かりました・・・。」


良かった・・私、もう二度と歩けないんじゃないかと思っていたけど・・また歩けるようになるんだ・・・。私は・・少しだけ泣いた―。




 それからウトウトベッドの上でまどろんでいると・・・。


ガラッ!!


突然ドアが激しく開く音が聞こえた。え・・?一体何事・・・?


「鈴音っ!」


聞き覚えのある声が部屋の中に響き渡った。あの声は・・・?すると眼前に亮平の顔が現れた。


「え・・・?りょ、亮平・・・?」


「す、鈴音・・・・。」


すると見る見るうちに亮平の目に涙が浮かび・・。突然顔が近づいてきた。

え?え?ちょ、ちょっと・・?

次の瞬間、亮平は私の額に自分の額を一度擦り付けると今度は私のベッドに顔をうずめ、まるで私の身体を抱きかかえるように激しく泣き出した。


「よ・・良かった・・・!鈴音・・・っ!お、俺・・・お前が死んでしまったらどうしようって、ずっと思っていて・・この3か月・・生きた心地がしなくて・・鈴音・・本当に・・本当に良かった・・お、お前が目を覚ましてくれて・・・!」


「りょ・・亮平・・・・。」


そんなに・・・私の事・・・心配してくれていたの?私は・・・亮平にとってどうでもいい人間じゃ・・無かったって事なの?


いつしか私の目には涙が滲んでいた。


亮平はベッドで横たわっている私に縋りつくようにいつまでもいつまでも嗚咽し続けていた―。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る