第12章 5 夢か現か幻か

 ガラガラガラガラ・・・・


何か大きな音が響き渡っている・・・。う・・。何か話そうとしても言葉が出てこない。まるで自分の身体がどこかへ消えてしまったかのように何も身体の感覚を感じない。おまけに周りがすごくうるさい。頭の中でウワンウワンと何かが反響する音が聞こえてくる。

私は自分の置かれている状況が分からなくて怖くなった。重たい瞼を何とかこじ開けようと必死で頑張り・・目を開けると私を覗き込む誰かの顔が目に入った。


「鈴音ちゃんっ?!意識が戻ったのっ?!」


鈴音ちゃん・・?それって私の名前・・?でもこの声・・どこかで聞いたことがある・・・。


「鈴音っ!死ぬなっ!しっかりしろっ!」


嗚咽混じりの誰かの声が聞こえてくる。誰・・?誰かは分からないけれど・・私はこの声を知っている。そう・・・この声は・・私の大好きな・・・。


「落ち着いて下さいっ!2人ともっ!今この患者さんは非常に危険な状態なのです。興奮させないで下さい!」


患者・・・?患者って・・・私の事なの・・・?

そこまで考えた時・・再び私の意識は闇に堕ちた―。




****


 次に気が付いた時・・私は見たことも無い場所に立っていた。今はまだ2月のはずなのに・・・辺りは一面美しい色とりどりの花々が咲いていた。その花の周りをキラキラ光る蝶が無数に飛んでいる。


「ここは・・どこだろう・・?」


空を見上げると、青く雲一つない澄み切った空にどこまでも広がる水平線。そして空に大きな虹がかかっている。


「何て綺麗な景色なんだろう・・。」


その時、私は前方に大きな川が流れている事に気が付いた。川にはボートが浮かんでいる。


「あれ・・?あんなところに川が・・・。」


吸い寄せられるようにふらふらと私の足は川に向かって歩いていた。徐々に川に近付いてきた時、あることに気付いた

そのボートは真っ白に塗られ、大ぜいの人々が列をなしてボートに乗り込もうとしている。


私も乗らなくちゃ・・・。


その時・・。


「鈴音。」


背後で声が聞こえた。え?その声は・・・。振り向くと背後に立っていたのは死んだはずのお父さんとお母さんだった。


「お父さん!お母さんっ!」


会いたかった・・・!

思わず駆け寄ろうとすると険しい顔でお父さんが声をあげた。


「来るなっ!」


「え・・?お父さん・・?」


「そうよ、来ちゃ駄目よ。」


「お母さん・・どうして・・・?」


気付けば私は泣いていた。


「どうしてお父さんとお母さんの処へ行ったら駄目なの?私・・もう辛くてたまらないんだよ・・。お姉ちゃんには憎まれ・・・大好きな亮平はお姉ちゃんに夢中で振り向いてもくれない・・。そんな2人の傍にいなくちゃいけないなんて・・・辛すぎるよ・・お願いだからお父さんとお母さんの傍にいさせてよ・・。」


ガックリと膝をついて、泣き崩れるとお父さんが言った。


「鈴音・・・。2人がお前が戻ってくるのを待ってるんだ。」


「そうよ、鈴音。一生あの2人を死ぬまで後悔させるつもりなの?」


お父さんもお母さんも悲しげな顔で言う。


「あの2人って・・誰の事なの?」


「戻れば分かるよ。」


お父さんが言う。


「戻れば・・?」


「そう、戻れば・・どれだけ2人が鈴音の事を大切に思っているか分かるから。」


お母さんが笑っている。


「早く行けっ!鈴音!今ならまだ間に合うっ!」


「そうよ!行きなさいっ!」


お父さんとお母さんの言葉に追い立てられるように、私は2人に背中を向けて走り出し・・一度だけ振り向いた。


2人はいつの間にかとても遠くにいた。そして頭の中に声が響いてきた。


< お姉ちゃんを許してやって欲しい・・・・。 >


と―。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る