第7章 4 私と亮平の過去 ①  


 トゥルルルルル・・・・


何処かで電話の着信音が鳴っている・・。そこで私はパチリと目が覚めた。いつの間にかウトウトしていたみたいで、私はローテーブルに頭を乗せてうたた寝していた。

寝ぼけていた私は一瞬ここが何処なのか分からなくて、慌ててキョロキョロ部屋を見渡し、いまだにスマホが鳴り続いてい事に気が付いた。


「あ、いけない!電話。」


慌ててスマホに手を伸ばし・・着信相手を見て私は眠気が一気に吹き飛んでしまった。その電話の相手は・・・隆司さんだった。


「た、隆司さん・・・。」


私は電話に出ようか出まいか迷った。どうして?折角隆司さんの元から自立して1人暮らしを始めた矢先に電話を・・・?

そして、迷っている内に電話は切れてしまった。


「あ・・・切れた・・。」


正直、電話が切れて私はホッとしていた。だって隆司さんがまだ私の事を好きだという事がはっきり分かってしまったから。そんな状態でこれ以上隆司さんに甘えて同居させて貰うわけにはいかない。私が・・・隆司さんの気持ちに応えられればいいのに・・でも、やっぱり私は亮平が好き。亮平じゃなきゃいやだ。

いっそ本当に亮平がお姉ちゃんとすぐにでも結婚してくれれば・・私は諦める事が出来るのに。どんなに冷たい言葉を投げつけられたり、素気無い態度を取られても・・私は諦める事が出来ずにいた。


「亮平の馬鹿・・・こんなに私を好きにさせてしまうなら・・初めから私の事なんか、構わないでいてくれれば良かったのに・・・。」


私は床の上に置いてあるクッションを抱きしめると顔をうずめ、私と亮平が子供の頃を思い出していた―。



****


 私達家族があの家に越してきたのは今から20年前の事。私が3歳でお姉ちゃんは8歳だった。でも・・・私は小さすぎたから、その当時の記憶はないけれども。

既にお隣には私と同じ年の亮平が住んでいて、我が家と亮平の家族は世代が近いと言う事で、引っ越してきてすぐに意気投合して親しく付き合うようになったらしい。

私の一番古い記憶は亮平と手を繋いで、一緒に幼稚園に通っていた記憶。


 あの当時の私はとても引っ込み思案でいつもお姉ちゃんの後ろにくっついて幼稚園に行く事をすごく嫌がって、泣いてお父さんやお母さん、そしてお姉ちゃんを困らせてばかりだった。そこで・・・・多分家族が亮平に頼んだんだと思う。


 私と亮平は同じ幼稚園でクラスも一緒だった。だから毎朝泣いて嫌がる私を飽きもせず毎日毎日迎えに来てくれて、亮平に手を引かれて幼稚園に通うようになっていた。幼稚園ではいつ、いかなる時でも亮平の後をついて歩いていた。まるで兄妹みたいねと先生たちには言われていたけれども、あの当時の私は亮平の事をお兄ちゃんのように頼りになる人だと感じていたのは間違いなかった。だってしまいに亮平の事を『亮平お兄ちゃん』と呼ぶようになっていたくらいだったから。


 亮平はとても活発な男の子で、幼稚園にお友達が沢山いた。そしてずっと亮平と一緒にいた事によって私も徐々に感化されて行き、いつしか嫌がらずに幼稚園に通えるようになっていた。


 幼稚園には時々意地悪なお友達がいた。特に亮平は女の子達から人気があって、幼稚園の行き帰りも亮平と一緒にいた私は度々女の子たちから意地悪をされた。

砂場で山を作って遊んでいたら、踏まれて壊されたり、クレヨンで画用紙にお絵かきをしていたら、突然落書きされたりと・・・でもその度に亮平が駆けつけてくれて助けてくれた。


あの頃の亮平は・・・常に守ってくれる、まさに私にとってのヒーローみたいな存在だった―。

 




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