第2章 13 毒舌亮平

 どの位眠っていただろうか・・・。私は突然目が覚め、慌てて飛び起きた。

ベッドサイドに置かれた置時計を見ると、もう12時を過ぎていた。


「嘘っ?!私・・・6時間以上眠っていたの?!」


お姉ちゃんはどうしているのだろう?慌ててベッドから降りると私は自分の部屋を飛び出し、お姉ちゃんの部屋のドアを遠慮がちにノックした。


コンコン


「・・・・。」


しかし返事は無く、部屋からも人の気配を感じない。


「ひょっとして・・部屋にいないのかな・・?お姉ちゃん・・・入るね・・・。」


遠慮がちに部屋のドアを開けるとカーテンは閉められたままだったが、やはり部屋はもぬけの殻だ。


「お姉ちゃんっ?!」


何だか嫌な予感がする。私は階段を急いで降りてリビングへ駆け込み・・ヘナヘナと床の上に座り込んでしまった。リビングのソファでは亮平と食事をしているお姉ちゃんの姿があった。


「おう、鈴音・・・目が覚めたのか?」


亮平はコンビニで買ってきたお弁当を食べながら私を見た。


「う、うん・・・。」


「鈴音ちゃん!」


お姉ちゃんは立ち上がると私の傍に駆け寄り、ギュッと強く抱きしめてきた。


「お姉ちゃん・・・。」


「ごめんね・・・ごめんね・・・ 鈴音ちゃん・・・心配かけて・・。」


お姉ちゃんは私を強く抱きしめたまま肩を震わせた。

熱い・・・。お姉ちゃんの涙が私の肩を濡らしていく。


「お姉ちゃん・・・謝らないでよ・・・。お姉ちゃんはちっとも悪い事していないじゃない・・・。」


私もお姉ちゃんを強く抱きしめ返す。そして私たちは暫くの間、言葉を交わさずに泣きながら互いの体を抱きしめあった―。



 ようやく落ち着いた私たちに亮平が言った。


「鈴音。お前も昼飯にしろよ。」


椅子に座った亮平を見上げると、立ち上がったお姉ちゃんはソファに座りなおすと言った。


「そうね・・。鈴音ちゃん。今夜18時からお通夜があるのよ。・・・一緒に来てくれるかしら・・?」


申し訳けなさそうに言うお姉ちゃん。


「もちろんだよ!行くに決まってるでしょう?」


「なら、尚更早く昼飯食ってしまえよ。」


「うん。分かった・・・。」


・・あれ?立てない・・・。


「どうしたんだ?鈴音。」


「鈴音ちゃん?」


亮平とお姉ちゃんが怪訝そうな目で私を見る。


「あ・あはは・・な、何でもないよ。」


まさか驚きのあまり腰が抜けてしまったなんて2人に話せば心配させしまう。


「なら早く来いよ。あ、忍さん。お茶淹れますよ。」


亮平は立ち上がるとキッチンへ向かった。よ、よし・・・今のうちに・・。

私は腰を落として四つん這いになってリビングへ向かおうとして・・・。


「鈴音ちゃん?どうしたの?その恰好・・・。」


お姉ちゃんが心配そうに声を掛けてきた。


「あ、えっと、これは・・。」


私がお姉ちゃんを見上げた時・・・。


「うわっ!何してるんだよ、鈴音。まるでその姿・・・芋虫みたいだぞっ?!」


するとタイミング悪くポットにお盆にお茶を乗せた亮平がリビングへとやってきて、床にはいつくばっている私を見ると言った。


「い、芋虫・・・・。」


しかし・・・言うに事欠いて芋虫とはちょっと酷いんじゃないの?でも・・・。


「ふふん、なるほど。そういうことね?」


私は這いつくばったまま得意げに亮平を見上げた。


「なんだよ・・・その不敵な笑いは・・・?」


「芋虫はいずれ美しい蝶になるものね~・・・つまり、将来的にきっと私は蝶のように美しくなるだろうって言いたいんでしょう?」


「は?そんな訳あるか?見たまんま言っただけだ。ほら、いいからふざけてないで早くこっち来て座れよ。」


「別にふざけてないもん。歩けなくなっただけだもん。」


「え・・・?鈴音ちゃん・・・?」


お姉ちゃんの顔が心配そうに歪む。


「あーっ!ち、違うのっ!ちょ、ちょっと腰抜けて歩けなくなっただけで・・・。」


慌てふためくように言うと、亮平がため息をついて3人分のお茶をテーブルの上に置くと、突然軽々と私を抱き上げた。


「キャアッ!な、何っ?!」


「こらっ!ただでさえ重いんだから。暴れるなっ!」


そして私がおとなしくなると亮平は私を抱き上げたまま、ソファに運んでお姉ちゃんの隣に座らせてくれた。でも今のショックで私は自分の腰が治った事を確信した。


「大丈夫?鈴音ちゃん。」


「うん、大丈夫だよ。」


「お前・・そんな状態で今夜お通夜に行けるのかよ?」


亮平がため息をついて私を見た。


「う、うん・・・それが立った今・・治ったみたいなんだよね・・・。」


「「え・・・?」」


それはお姉ちゃんと亮平が同時に私を見た瞬間だった—。


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