第2章 4 家賃はいくら?
やがて私たちは人事部の社員の男性に席に座って待つように促され、着席して待っていた。すると研修室に人事部の課長と係長が現れ、その後ろから30代位のスーツに身を包んだ女性が入って来た。
へえ・・・・綺麗な女性・・誰かな?
思わず注視してみるほどに、洗練された美しい女性に私は思わず見惚れてしまった。
「新入社員の皆さん。本日は突然の新人研修に集まってくれてありがとう。」
すると、本日の研修目的の説明を課長がマイクを片手に説明しだした。
要は本日新入社員達が集められたのは接客マナーについての研修だったのだ。そして講師として招かれたのが現役キャビンアテンダントのチーフパーサーを務める女性だったのである。
そっか・・・CAの女性だったから美人だったんだ。それなら納得もいく。
その後、私たちは3時間にも渡って挨拶の方法、接客マナーを徹底的に叩き込まれる事になるのだった・・・。
12時―
研修を終えた私達は会議室で差し入れのお弁当を食べながら真理ちゃん、井上君、佐々木君の4人で一つのテーブルに座り、話をしていた。
「あ~あ・・・それにしても今日の研修は厳しかったわね~・・・。」
真理ちゃんが幕の内弁当の玉子焼きを箸でつまみながらため息をついた。
「ああ、俺なんかあの人に3回も挨拶で駄目だしをくらっちゃったよ。」
佐々木君がげんなりした表情で鮭を口に運んでいる。
一方の井上君は・・・。
「うんめえっ!何、この幕の内弁当、ちょーうまいんですけどっ!」
興奮気味で鶏のから揚げを頬張っている。
「全く、相変わらずだな。井上は。」
ペットボトルのお茶を飲みながら佐々木君は言った。
「当り前だろうっ?!一人暮らしの新入社員は生活していくのに命がけなんだよっ!」
井上君は箸を休める事無く食べ続けている。
「ねえ、そんなに一人暮らしって大変なの?一体家賃いくらの処住んでるのよ?」
真理ちゃんが頬杖を突きながら井上君に尋ねた。
「10万。」
「「「はあっ?!」」」
井上君の言葉に思わず私たちの声がハモる。
「え?え?待って、井上君。本当に一月10万円もする家賃の部屋に住んでるの?」
私は尋ねた。
「ああ、そうだよ。」
井上君はあっさり答える。え・・・ちょっと待って。私達新人の初任給は手取りで23万円。そこから税金とか厚生年金とかいろいろ引かれると、実質20万弱になる。それなのに一月10万なんて・・・。
「だ、だって光熱費とか、食費、通信費とか引いたらお金残らないんじないの?」
真理ちゃんも驚いている。
「ああ、だからこういうタダ飯はまさに俺のような人間にとっては天の恵みなんだよ。」
すると佐々木君が言った。
「馬鹿言うなっ!おい、井上。悪いことは言わない。もっと安いアパートへ引越せ!少しくらい駅から遠くなっても築年数が古くてもこの際目を潰れっ!」
佐々木君は真剣に井上君に訴えている。あれ・・・そう言えば・・・。
「ねえ、佐々木君も確か一人暮らしだったよね?家賃はいくらなの?」
私は佐々木君に尋ねた。
「あ、ああ。俺は8万円のアパートに住んでるんだ。8畳間の1DKなんだ。」
「へえ~その広さで8万円なんて安いんじゃないの?しかも都内でしょう?」
真理ちゃんは梅干しを口に入れた。
「ああ、実は築年数が古いんだ。30年になるんだよ。だけどリフォーム済みだし、古さを感じさせないよ。井上、お前の事だ。どうせ贅沢なマンションを借りているんじゃないのか?」
佐々木君に尋ねられ、井上君が答えた。
「別にそれ程じゃないけどなあ・・・Wi-Fiが飛んでいて、BSが見れて、3口のガスコンロに追い炊き機能付きの風呂・・それにロフト付ってだけなんだけど・・これって贅沢か?」
「「「贅沢だ(よ)っ!!!」」」
再び、私たちの声がハモるのだった―。
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