第39話未確認生物の調査5


死闘は数十分に及んだ。クロとオウカが戦闘の大半を受け持っているが、そこに集中しない様にルシウスとライズも時折戦闘に参加している。ここまで生きてられたのはクロとオウカのお陰でもあるが時折攻撃が緩み、雪男が必死に己の中に存在しているモノに抵抗しているようだった。そのお陰でまだ生きながらえている、オウカのトマホークは刃こぼれなどしていなかったがライズとルシウスの剣は刃こぼれが酷く今にも砕けてしまいそうだ。


肉体的な疲労もさることながら、精神的な疲労は限界を超えていた。段々と動きが遅くなるオウカとクロ、初めての戦闘で良くここまでもってくれたと感謝の念が絶えなかった。雪男が立ち止まり雄叫びをあげると空から雪がパラパラと降ってきた。雪は段々と激しさを増し地面を真っ白に染めた。


「なんだこれ?雪がこんなに………クロっっっ!よけろっっっっ!」


段々と視覚が悪くなっていく中クロの足に雪男の裏拳が炸裂した。一撃を受け吹き飛んだクロは力の無い声で鳴いた。


「クロ!もういいっっ!魔玉に戻れ!」


「にゃあ……!!」


いつも言う事を聞いているクロであったが、今回ばかりは譲れないと魔玉に戻る事を拒否しゆっくりと立ち上がった。片足を地面につくことも出来ずに、それでも大好きな主人を殺させないぞと闘志を……命を燃や

す。クロを傷つけられて許せないのはもう一人、いやもう一頭居た。


「ブブォォォォ!!!!!!!」


いつものような優しい瞳はそこには無かった。目は血走り腕の筋肉が一回り、二回り盛り上がった。今持てる最大限の力を振りかざしトマホークで殴打した。

キーンキーンと甲高い音を鳴らす。


その体毛の先端を僅かながらに削り取るが目立ったダメージはない呼吸する事も忘れ雪男を殴打する、羽虫が煩いとばかりに先程まで静かにしていた雪男が拳を縦横無尽に振り回す。かわせる物はかわしかわせないものはトマホークで受けたが、周囲の気温が下がるとオウカの動きが鈍くなるにつれて雪男の動きは素早さが増していた。


雪男の攻撃を受け肩をダランと下げるオウカをよそに雪男はその標的をルシウスとライズに定める。四足で雪の上を走る怪物に寒さのせいかそれとも恐怖でか足が震える。


ルシウスの近く迄迫った雪男に最後の一撃を喰らわせる為にオウカはトマホークを投げつけ走る。クロは痛い足を引きずる事なく雪男に噛みついた。主人は殺させないこの命にかえても、だから逃げてと二匹はルシウスを見つめる。


「ニャャャャッッッッッ!!!」


「ブブォォォォ!!!」


クロが噛みついてまもなく武器を持たないオウカは拳を雪男に叩きつけた。拳から血が流れるがそんな事を気にする時間は無かった。とても煩わしく感じた雪男はオウカとクロを一緒に殴り飛ばす。一回二回と転がっていくオウカとクロ、木にぶつかって止まった二匹はピクリとも動かなかった。


「オウカッッッッッ!クロッッッッッ!戻れっ!」


何回戻そうとしても戻らない、魔物の意識がないはずなのに一向に戻る事が無かった。そこに追い討ちをかけるかの如く新たな魔物の鳴き声がこだました。


「ワオォォォン」


「なんだって言うんだ俺が何をしたって言うんだよぉぉぉぉ」


傷つき生きてるか死んでるかも分からないせいでルシウスは半狂乱していた。それを見てライズが覚悟を決める。


「ルシウス……お前は逃げろ!俺が時間を稼ぐ!」


「そんな事出来る訳ないだろっっ!もうここには俺とお前しか居ないんだぞ!」


「良いから行けっ!今だっっっ!ウオォォ!」


早々に魔力切れを起こし戦線を離脱したテラ、此処に残っていたのはルシウスとライズだけだった。

ライズは雄叫びをあげ雪男に向け走り出す。雪男の近く迄くるとポーチから玉を二つ取り出して、雪男に投げつけた。それを見て無駄にしては行けないと思ったルシウスはオウカとクロへ駆け寄る。


「オウカ!クロ!戻れよ!戻ってくれよ!」


ルシウスは懇願した。その願いが通じたのか魔玉に戻っていく二匹、魔玉に戻し終えるとライズの方を向く、そこには悶え苦しむ雪男が居た。


「ふぅ……やってやったぜッッッッッ!ルシウス早く逃げるぞ!」


「あぁ、なんで雪男はあんなに苦しそうなんだ?」


「アレは俺の秘密兵器香辛料爆弾だっ!あらゆる激辛香辛料を玉に詰めて投げつけてやった!意外に金掛かるんだぞアレ!」


走りながら得意げに話すライズだったがその顔も段々余裕が無くなってくる。苦しそうにしていた雪男だったが周りの雪を口に突っ込むと口内の感覚が無くなったのか追いかけてきた。今ある力を足に込めて走るが足場が悪く、そして疲労からか速度が出ない。


「もう良いおいてけ!」


「おいていける訳ないだろ!お前だって俺に言ったよな!」


転んでしまったルシウスを引き摺るがその場から一向に進まない、手の感覚も体の感覚も無くなっていた。


(あぁ……幸せだったなぁ……オウカ……クロ……俺の従魔になってくれてありがとう!)


ルシウスはオウカ達と出会った頃から今迄の走馬灯を見ていた。雪男が拳を振り上げた時辺りは青白い光に包まれた。

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