「猫と喋る魔女の静所さんと、しそジュースを飲んで人間を辞めた成行くん編(旧題:クラスメイトの静所さん編)」ペルソナ・ノン・グラータ①
鉄弾
第1章 魔法使いとの再会
その①「猫と喋ってるよ、静所さん」
高校生活が始まって、すでに2週間。4月も折り返しに差し掛かり、ゴールデンウィークの足音が聞こえる。そんなある日の昼休み。
成行の通う高校・
成行は高校受験をして入学した。彼のような高校受験組は、中等部からの進級者からすれば『
だが、すぐに新しい友人を作っていた成行。今日は昼食後、校舎北側でスマホゲーム大会をしようと約束していた。その約束を果たすため、彼は待ち合わせ場所に向かっていた。
森林ゾーン。文字通りの森林が広がっているゾーン。名前は
数日前、初めてそこを訪れた成行。遊歩道の奥には、円形状に切り開かれた広場がある。問題は、そこまでの
ほったらかし
森林ゾーンの入口付近まで来たが、人の
「こんな所、誰も来ないよな・・・」
思わずそう呟いてしまう成行。さっさと待ち合わせ場所へ向かおうと思ったときだ。一瞬、何かが遊歩道へ入るのに気づいた。
「猫?」
犬派か、猫派かと聞かれると、猫派の成行。あれはハチワレ猫だったか?なぜか気になったので、遊歩道へと向かう。
辺りを注意深く眺めながら、ゆっくり歩く成行。遊歩道の脇は雑草が生い茂り、タヌキや野ウサギが姿を見せても不思議ではない位だ。しかし、肝心の猫の姿はない。気のせいだったか。
成行は遊歩道を引き返そうとした。
『ニャア!』
「えっ?」
一瞬だが、猫の鳴き声が聞こえた。反射的に鳴き声のした方を向く。
そこは成行が足を止めた所から、またさらに奥。遊歩道が緩やかな下り坂なる。その先に、円形状に開けた場所がある。そこがまさに先日訪れた広場だった。この広場の中心部に、ベンチがポツンと一基設置されている。
あの広場に猫がいるのか?成行は奥へと進んだ。
すると、広場のベンチが見えてきた。だが、成行の視線の先にいたのは、猫ではなくベンチに座る女子生徒だった。
成行の位置からは、ベンチに腰掛ける女子生徒の後ろ姿しか見えない。顔の確認ができない。だが、彼女の後ろ姿に見覚えがあった。オレンジがかったストレートの茶髪ロングヘア。天から降り注ぐ太陽の光は、その髪の毛を
しかし、その僅かな情報で彼女が一体誰なのか、すぐにわかった。
「
そこにいたのは成行のクラスメイト・
入学式の日。クラス名簿で彼女の名を目にしたとき、名前を何と読むのかわからなかった。その疑問もフリガナですぐに解決したが。
見事は高校一年生の女子では背が高い。聞けば165センチの長身で、
こんな
待ち合わせだ。ここで、誰かと待ち合わせをしているのだ。以前、聞いた話からすれば、そう考えるのが妥当だろう。
誰かが見事を呼び出し、ここで愛の告白をする。彼女の美貌からすれば、あっさり恋に落ちる男子生徒がいても不思議ではない。麗しい容姿だけでなく、勉強も、スポーツもそつなくこなす。人格的にも、嫌われるような言動は一切ない。
誰と待ち合わせだろうか。少なくとも、今の見事は食事をしている様子ではない。静かにベンチに
「ニャア!」
だが、その鳴き声は猫ではない。声を発したのは見事だ。
『ニャア!』
それに呼応し、恐らく本物の猫が鳴き返す。猫があそこにいるのか。
見事の仕草から、彼女が座っている左側に猫がいると思われる。だが、ベンチの背もたれのせいで、猫の姿が見えない。しかし、猫が見事に懐いている
「ニャア」
『ニャア』
見事が微笑みながら猫の鳴き真似をする。猫がそれに鳴き返す。猫が美少女にじゃれつく。そんなことを考えていると、なんだが気持ちがほっこりする。
「で、あちら側は?」
『特に不穏な動きはないニャ。だが、平穏だからって何もないというワケじゃない。警戒してほしいとのことだニャ』
聞き間違いだろうか。成行には、猫が日本語を喋ったように聞こえた。感じたのではない。聞こえた。日本語の会話として成立しているように聞こえた。
見事の独り言なのか。
成行は自然とその場にしゃがみ込み、見事の不審な動きを監視するような態勢になった。
「そう、わかったわ。用心に越したことはないし」
『全くだニャ』
「でも、厄介ね。以前はこんなこと
『確かに。だけど、ニャアはいつか、こんな事態が起きるかもしれないと思っていたニャ』
「本当に?でも、想定できないことじゃないわね。ただ、昔に比べれば巧妙化しているというか、悪質になっているとも言えるわね」
『確かにニャ』
ダメだ。やっぱり猫と会話しているようにしか見えない。独り言や、腹話術の練習には見えない。人と人が会話する。この場合、人と猫が会話するようにしか見えない。
真実を確かめるには、見事を問い詰めるしかない。しかし、今は出ていかない方がいい気がする。見てはいけないものを、見ている気がしたからだ。
『厄介なことは、それだけじゃないニャ』
「何?他にも何かあるの?」
不意にベンチの背もたれから猫が顔を出す。黒と白のハチワレだ。
『ニャアたちの会話を盗み聞きする奴がいるニャ!お前、何してるニャ!』
ハチワレは成行に向かってそう叫んだ。明らかに成行を威嚇するように睨んでいる。
「えっ!」
見事も振り返る。
「あっ・・・!」
スッと立ち上がる見事。驚いた様子で成行を見ている。
「気づかれた!」
反射的に走り出す成行。後ろを一切振り返らず走る。体育の授業でも、こんな必死に走ったことはない。走るのに適していない遊歩道を全速力で走る。湿った落ち葉に足を
悪いことをしたワケではないが、間違いなく見てはいけないものを見た。お喋りする猫。そして、その話し相手のクラスメイト。成行は薄ら寒い感覚に囚われていた。
遊歩道を一気に駆け抜けて、森林ゾーンの外へと辿り着く。そこで一旦、足を止めて背後に目を向ける。そこには誰もいない。
「誰もいない・・・」
それを確認すると、呼吸を整え再び走り出す。成行はスマホゲーム大会のことも忘れて、
(※このエピソードは、2022年7月29日に改編をしています)
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