5 子供だましな結界魔法

「人間の魔導師? ふーん」


 値踏みするように横目でグラントを見ながら、キルリーは言った。


「たしかに人間なら森の瘴気で強化されることもないから、それを封じられたところで影響はないだろうけど……でもさー、人間がアタシに勝てると思う?」

「それは……」

「おやおや、子供が戦場になんの用じゃ」


 グラントはふんと鼻を鳴らした。


「悪いことは言わん。この先人生は長いんじゃから、魔女には関わらんほうがいいぞ。魔女に関わってもろくなことにならんということは、そこの無能隊長がよく知っておる」

「くっ! きさま……」


 剣を構えるミハエルをキルリーが制する。

 彼女は勝ち誇ったような笑みをグラントに向けた。


「残念だったわね。お聞きのとーり、パッヘルの魔力はアタシが封じ込めてあげたの。森の魔物どもも今頃、アタシの可愛い魔導師たちに一掃されているところよ」

「封じ込めた……? ふふ」


 グラントはそう言いながら、口元を手で抑えた。


「この程度の結界魔法で、奴の魔力を……封じ込めたじゃと? くく、ふぁっはっはっは!」


、ついにこらえきれぬとばかりに、腹を抱えて笑い始める。


「なーに笑ってんのよ、ジジイ」

「奴も随分とナメられたもんじゃ。こんな子供だましじゃ到底手に負えんだろうということを、そこの無能隊長さんに教えてもらわんかったのか?」

「こ、子供だましなどではない!」


 たまらず、ミハエルは割って入った。


「現に魔女は姿を現さんではないか! 奴の魔法も影を潜めておる」

「昼寝でもしとるんじゃろう」

「きさまっ!」

「いいわ。下がってなさい、無能隊長。アタシがやるから」


 キルリーにそう言われ、仕方なく引き下がる。聞き捨てならない呼び名を聞いたような気がしたが、今は黙っておこう。


「ほう、子供のお守りは趣味ではないぞい」

「アタシ、なんかそーゆー舌戦とか嫌いなの」


 吐き捨ててからキルリーは、片手で気弾を飛ばした。グラントに命中した気弾は轟音と共に弾け飛び、同時に閃光が走った。

 ミハエルはあまりの眩しさに、思わずまぶたを閉じた。

 やがて、光が収まったあとにゆっくりと目を開けると、そこには傷一つないグラントが佇んでいた。


「キルリーさま、今のは……?」

「術者の魔力を封印する魔法よ。魔導師相手にはこいつを一発かませば終了。でも……駄目だったみたいね」


 もう一度グラントの様子を確認すると、いつの間にか彼の目の前に先ほどの結界が張られていることに気がついた。気弾はあの結界に当たって弾けたというわけか。


「ふーん、アタシの魔法防げちゃうんだ。ジジイのくせになかなかやるわねー」

「わしもその魔法は得意じゃよ」


 言うが早いかグラントも気弾を放つ。キルリーはそれを受け流し、気弾はどこかあられのない方向へ飛んでいってしまった。


「いいわ」


 くすくすと彼女は笑う。


「どうして魔女の手先なんかやってるのか知らないけど、邪魔するなら殺してあげる。アタシ、あんたみたいなジジイを痛めつけるのが大好きなの」

「ほう、やれるもんならやってみい」


 そして二人は同時に、新たな魔法を繰り出した。

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