2―4
酔っ払い2人組のうち、1人はすでにかなり出来上がって酩酊としていた。さっき東咲に付き纏おうとしていたほうの奴だ。
もう一方の片割れも、そこそこ酔っ払っていたが、こちらのほうがあけみさんにご熱心なのか、やたら絡もうとしていた。見るからにしつこそうなタイプだ。
遠目に見た限りではあるが、今日が初めての一見さんというわけではなく、この海の家には何度も来たことがあるようだった。
「今日こそはあけみちゃんに、ウンと言わせてみせるから!」
といった声が聞こえていた。もしかすると、さとみ姉さんが様子を見に来たのも、これと関係あったのかもしれない。あけみさんから何気に話を聞いていたのだろうか……?
ただ、あけみさんはもともと本人の本音とは関係なく、対人インターフェイスは結構、素っ気ない感じの印象を持たせるような受け答えをする
先ほど「あばよ」の捨て台詞を残した、しつこそうな感じのほうの男が、あの手この手で気を引こうとしているが、体良くあしらっているように見える。
すると、もう1人のかなり出来上がっているほうの男が、ふと、こちら側の視線に気づいたようだった。
「あれ~、さっきの
マズい。こっちに絡んできやがった。
「あー、そうだねー。そっちの
あけみさんに付き纏っていたほうの相方も、東咲とさとみ姉さんのほうを見て乗っかってきた。確かに2人に比べると、三好や谷口はまだ青臭さが残っているように見える。それは俺と山崎についても同じことが言えるのだろう。ガキんちょ同士で仲良くやっとけということか。
「お姉さーん。こっちに来て俺っちとお話しようよー。楽しいからさー」
いよいよ、さとみ姉さんに絡み始めたので、俺はどうしたものかさとみ姉さんのほうを見たが、さとみ姉さんさんはホンワカした笑顔を湛えつつも、聞こえないフリをして相手にしないつもりのようだった。
「ちょっと、無視しないでー、お姉さんさー」
しびれを切らせ、酔いがまわっているほうの男がついに席を立って、こちらに近づいてきた。俺と山崎が阿吽の呼吸で席を立とうとしたが、それを制するように先にさとみ姉さんが動いた。
「あ~、だいぶご機嫌のようですけど、他のお客さんにもご迷惑ですから~」
そう言って、両手を前にして押すような動作をして、もともといた席のほうに誘導していった。男たちは無視されていたのが、ようやくさとみ姉さんから反応があったことでご満悦だ。
「じゃー、一杯だけだから! 一杯だけ一緒しよう‼」
ウキウキした感じである。
「お客さん、申し訳ないんですがー」
そこに、あけみさんがフォローに入る。年長のさとみ姉さんとあけみさんとで対応しようとしているので、俺たちはなす術なく、先ほどのように割って入ることが憚られた。さとみ姉さんやあけみさんからすれば、俺たちは守るべき対象なのであって守られる側ではないのだろう。
また、やっぱり、男たちもさっきはあっさりと引き下がったのは、東咲はちょっとマシだったが、所詮俺たちがガキんちょだったからではないかと思う。しつこさがさっきとはまるで違っていた。
「なんだよ、あけみちゃーん。あけみちゃんが連れないからだろー」
「あけみ。いいからいいから……」
「えっ、何なーにー、お姉さんとあけみちゃん、お知りあーい?」
ヤバイな。だんだんカオスのような状況になってきたぞ。
――男2人が、いよいよ持ってテンションが高まろうとしていたその時……、
ドォオオオオーーーン!!!
突然、海の家全体が揺れるような衝撃と爆発音が男たちが座っていた席の辺りからした。
「ヒッ!」
「なんだなんだ?」
「何事だ⁉」
「……す……すごい、音した……」
「めちゃ、揺れたんだけど~」
順に、三好、山崎、俺、谷口、東咲である。
「なっ? なんだぁ?」
「ちょっと、すっごい音したけど、大丈夫ー?」
酔っ払い男とさとみ姉さんの声もする。しつこいほうの片割れとあけみさんは声も出ないようだが、びっくりしていることは表情から読み取れた。
「あ~、ちょっとちょっとお客さん? ……これは一体どういうことですか……?」
マスターが奥から出てきて、男たちの席のほうまでやってきた。
「なっ…! 俺たちは、何も関係ねーよ‼」
酔っ払いが必死に抗弁する。
「しかし、今、間違いなくこっちのほうから、異音がしたでしょう? さすがにちょっと見過ごす訳にはいかないのですが……」
マスターは冷静に、しかし、圧のこもった言葉を男たちに投げかけた。
「だから! 俺たちは関係ないって言ってるだろうが!」
片割れのほうがイライラした態度で反論する。
「……誠に申し訳ございませんが、お代はもう結構ですので、お引き取り願えますでしょうか……?」
静かな声でマスターが最終勧告を告げた。
男たちは顔を真っ赤にして、怒り冷めやらぬといった雰囲気ではあったが、あまりに唐突な出来事に混乱し、結局、逃げ出すようにして海の家からほうほうの体で立ち去っていった。
トラブルメーカーがいなくなって、さとみ姉さんとあけみさんは、ホッとした様子だった。多分、連中はこんな変なことに巻き込まれて、あらぬ疑いまでかけられて、もう二度と来ることはないだろう。
「なぁ? 加賀谷? 今のどう思う?」
「俺は床下のほうから、何かが爆発したような気がする。……ちょっと見にいこう」
俺と山崎は外に出ると浜辺に建てられた海の家の床下を覗き込んだ。
「ちょっと、あのテーブルがあった下ぐらいのとこまでいってみよう」
ゴミが風に流されて入らないようカバーするためか、床下を取り囲むようにぶら下げられていた地引き網用の網を持ち上げ、俺たちは床下に潜り込むと、四つん這いになりながら爆発音がした辺りまで移動して何か異常がないか探した。
「うーん? 特に変わったところは何もないなー」
山崎がそう言うように、床下の砂浜の上にはゴミや貝殻が散乱し、所々草などが生えているだけで、目立った形跡は見つけられなかった。
「加賀谷、どう思う?」
「そうだなー、擬似的に大音量を出すならスピーカーか何かなければおかしいし、そもそも、あの音はそういった作り物っぽいもんじゃなくリアルな感じだったと思う……。だからこそ不思議なのは、匂い……だ」
「匂い?」
薄暗い中で、山崎の白い目が俺を見つめる。
「あぁ、ついさっき音がしたんだ。火薬、硝煙、そういった火気を扱ったような匂いが一切しないのはなんでだろうな……?」
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