第6話 葛葉小路商店街の怪(2)
犬も歩けば棒に当たる……という表現がふさわしいのだろうか?手がかりは身近なものにあった。
確かに、肉屋のじいちゃんのコロッケは、平日ほぼ毎日食べているのだ。それなら唇に零因子の痕跡があるのは理解できる……だけど、その場合、もっと霊界に引きずりこまれる人は多いのではないだろうか。
「私の唇にシンの零因子があったのは、これが原因?」
「いや……、愛紗の唇の零因子は、今回のものとは違う。僕とシンの零因子は別格だからね。それに霊界に引きずりこまれたのは、愛紗に『死の契』があるからだよ」
「あぁ、そうか。でも、零因子って種類があるんだね」
「まぁ、上位と中位以外は大体同じものだよ」
「ふーん」
まぁ、手がかりはあったことだし、肉屋に戻ることにしよう。
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肉屋に戻ると、じいちゃんのかわりに、娘さんの環奈(かんな)さんがカウンターに出ていた。環奈さんは40代だが、20代に見えるほど若く見える。裏では商店街の四大美人といわれているようだ。環奈さんがカウンターにいるときは肉の売れ行きがものすごくいい。やはり、ショートヘアの黒髪美人が肉を裁いている姿が人気なのだろう。
しばらく、その様子を見つめていると、環奈さんが私たちに気づいたようだったのて、話しかけてみた。
「環奈さん、じいちゃんは?」
「あ!あいちゃん。お父さんはね、腰が抜けて今日一日休むって」
……やはりか。
「お父さんに何か用事?」
「ん? いや、ちょっとコロッケの作り方で聞きたいことが―」
「えー? ついにあいちゃんにも作りたい相手ができた?」
環奈さんは、私を見てニヤニヤしている……かつ、私と話しながらも肉を捌いている。手を止めるつもりはないらしい。慣れたものなのだろう……よい子はマネしてはいけない。
「いや、この子が―」
「え?」
私は、ツヨを環奈さんの方に突き出す。
「わぁ、可愛い子ねー。ん? でも男の子?」
「わー、環奈さんよく分かるね」
「分かるでしょー。さすがに」
どうやら女性はツヨが男の子だと分かるらしい。ツヨの色気にも動じていない。
環奈さんは、ツヨの色気を気にせずに声をかける。
「君!コロッケ作ってみたいの?」
「は、はい」
ツヨも、作り方が分かればどの材料に零因子があるのか分かると思ったのだろう。特に否定もしなかった。
「じゃあ、夜8時頃来てくれる? 一緒に作って食事でもしよう」
「ありがとー。環奈さん!」
「じゃあね~」
環奈さんは、視線を肉に戻して肉を捌き続けた。そのスピードはさっきより早く……ちょっと怖い。
「さて……と、じゃぁ、家に電話して、もう少しブラブラ歩こうか?」
「うん」
私は、ツヨにそう言うと、スマホで母親に電話し、今日の夕飯は環奈さんと食べることを伝えた。
「-というわけだから」
『いいよ、ならお母さん、お隣さんと外食してくるわ。ゆっくりしてねー。じゃっ……ガチャ』
母さんとの電話が切れた。
私の家は、父さんは海外赴任。2人のお兄ちゃんも独立して別の場所で暮らしている。なので、家には誰もいなくなる。母さんの外食は長いから、ゆっくり環奈さんと食材の話もできるな。
私たちは、8時になる前に、他にも何件がお店を回ることにした。
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