白のテルミヌス ~私は未来で何を約束したのか~
ゆずり
第1話 はじまり
……気がつくと、そこは見たこともない赤い空と緑の海と青い大地。
平入 愛紗(ひらいり あいしゃ)は、自分の置かれている状況を理解できなかった。日頃の行いは決して悪くない…はず…。そもそも、こんなナイスバディ美少女な高校2年生に悪いことをする人なんているはずがない。
そう自分に言い聞かせ、あたりを見渡す。どこまでも続く、空、空、空……そして海、海、海……。
「ん?」
遠くの大地に何かある。誰かいるかもしれない。
恐る恐る近づいていくと、ぽつんと荒廃した白い神社があり、鳥居の傍で、フワフワした白の毛並みの狐のようなものが横たわっていた。犬にも似ているが、すごく可愛いことには違いない。可愛さだけで生きているような感じがする。
「うわぁああああ……可愛い……って、生きてる?」
近づくと、呼吸の音が聞こえる。こちらの声が聞こえたのか、それは耳を動かし立ち上がった。
「…誰?」
「ん?」
「…あぁ…また来ちゃったんだ…」
「喋ってる!」
「まぁまぁ、落ち着いて、愛紗」
狐のようなものは静かに、私に傍に寄り添う。そして、悲しい顔をして私の顔をなめた。
「…やっぱり忘れてしまったんだね」
正直、全然理解がついていかない。
「…何を?」
「ううん…、いいんだ。またやり直そう…今度は正しい道を選ぶんだよ」
狐のようなものはそういうと、体を輝かせ、辺りを白い光で包み込んだ。
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「え?」
気が付くと、自室のベッドに寝そべっていた。
「……うん、あまり考えないようにしよう……」
なかなか現実味のある夢だった……私は決しておかしくない……多分。
「とりあえず、朝食を食べに行こう。」
ベッドから起き上がると、下の階に降りる。キッチンでは母さんが朝食の準備をしていた。
「あら、あいちゃん。今日は早いのね?」
時計を見ると、まだ7時半……。うん、週末の高校生としては不健全極まりないね。
「うん、たまにはね。今日のご飯は?」
「昨日の残り物でおいなりさんとお味噌汁にしちゃった」
『おいなりさん!』
「!」
驚いて、あたりを見渡すと、あの狐のようなものが尻尾をふっている。
「……どうしたの急に」
「え? お母さん、見えないの?」
「……何が?」
『愛紗にしか見えないよ。それに声も頭の中で聞こえるでしょ? それよりおいなりさんちょっと頂戴ね』
狐のようなものは淡々と話し続けた。
『……それに僕の名前はツヨだよ…ほら早く座って食べな』
テレパシーのようなものだろうか。頭の中を覗かれるのは心地よくないが仕方ない。
とりあえず今ある現実を受け入れ、目の前にある朝食を食べることにした。
『ほら、油揚げのところだけでいいから早く』
状況はまだ理解できていないが、ツヨは可愛い顔と尻尾をブンブンと振っているので何も考えないことにした。
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ツヨとの話は、自室ですることにした。
『僕の名前はツヨ。第237霊界の世界を守る神獣だよ。ここには僕の半身を探しに来たんだ』
「半身?」
まだ理解がついてゆけない。
「半身って? あと、なぜ私のことを知っているの?」
『それはね……っと、未来のことをいうと強制的に霊界に戻されてしまうからいえない。それがこの世界のルールだからね。でも半身のことはいえるよ。シンっていうんだ。黒い狐のようなものでね、この世界のどこかにいるはずなんだ』
未来? ますます訳がわからない。
「……で、どうして私に探させるの?」
『それは愛紗が……これも未来に分かることだからいえないな。とにかく愛紗に探してもらわないと僕も霊界に帰れないし、愛紗も大変なことになると思うよ』
「え?……っ痛」
急に右肩に激痛が走る。服をまくると、肩に小さな歪な痣ができている。痣は複数の蛇のように絡み合い、まるで生きているようだった。
『……それは死の契(しのちぎり)なんだ……愛紗と僕の……。忘れているけど、君は確かに僕に約束した……“必ずシンを見つける”って……もし1年以内に見つけなければ……君は……』
「そんなの聞いてない!」
思わず立ち上がる。だって『死』とか言われるとさすがにビビる。いや、ビビるというレベルの問題ではない。なぜ勝手に未来の私は約束したのだ。
『驚いても……今は仕方ない……。とにかく僕からはお願いするしかない』
ツヨは耳と尻尾を垂れて黙ってしまった。
「1年後には死ぬ……」
自分でも体の血の気が引いていくのが分かる。それはどうしても認められるものではない。まだ死にたくない。やりたいことだって、食べたいものだってある。ゲームだってしたい。
「……やるしかないか」
今日は休日……、いつもならごろごろグダグダしている休日……。それが、まさか生死にかかわる事態になるなんて……。だが仕方がない、未来の自分が約束したことも腹立たしい。
「……で、何をすればいいの?」
もう前に進むしかなかった。
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